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「だったら何で……俺が柚子と一緒にいたことを責めて、あんなに泣いたんだ?」
「そ、それは……た、大葉がっ。私のことを好きだって言ってたくせに……後で呼び出すって言う約束まで破って別の女性を優先させたと思ったからです! あの時はまだ、会社の受付で貴方と一緒にいた綺麗な女の人が……大葉のお姉さんだって知らなかった、から……」
「ん? お前、あん時ロビーにいたのか……?」
勢い込んでそこまで言ったら、大葉が「だったら声掛けてくれりゃ、よかったのに……」と付け足して、嬉し気に顔をほころばせてふっと笑うから。
羽理はその時のどうしようもなく苦しかった気持ちを思い出して、何だか腹立たしくなってきてしまう。
「し、仕事だって手に就かなくて早退までして……泣きながらお風呂に入ったのに……! 笑うとか酷い!」
「……ああ、俺と一緒で重症だな」
「え?」
「分からないのか? 羽理。それが〝ヤキモチを妬く〟ってことだ」
大葉の言葉に羽理はビクッと身体を震わせて……挙動不審に彷徨わせていた目線を恐る恐る大葉に合わせて……。
「やき、もち?」
確認するみたいにそう問いかけた。
「ああ、そうだ。――羽理はしんどかったかも知れねぇけど……すまん。俺はお前が妬いてくれてるって知って、ちょっと……いや、かなり嬉しかった」
「……え?」
「お前が俺のことを意識してくれてるんだなって分かって……。俺だけの一方通行じゃないって思えたの、すっげぇ幸せなことだったんだよ。羽理がクソ真面目に心臓が痛い、死ぬかもって悩んでんのも恋愛初心者な感じがして可愛くて……。けど一応俺なりにそれは恋煩いだぞって伝えたつもりだったんだがな? 結局、何か伝わってなくね?って分かってからも……お前が俺のことでいちいち戸惑う姿が可愛すぎて……つい訂正が遅れちまった。……すまん」
「ひょっとして大葉が最初に言ってた、お医者様でも草津の湯でもっていうの……」
「恋の病には治療法はねぇって良く言うだろ?」
大葉がほんの少し腕を緩めてくれて……間近で愛し気に羽理のことを見下ろしてくるから。
羽理はそんな大葉の顔を見上げて、胸がキュンと引き絞られるように痛むのを感じた。
「この、切ないくらいに痛いのが……恋の……?」
胸元の服をギュッと掴んで言ったら、「ああ、そうだ」と肯定されて。
羽理は、コレが俗に言う恋のときめきなのだと自覚した途端、頬がブワッと熱くなるのを感じた。
「私は、大葉のことが……好き?」
「俺が他の女とどうこうなるのが嫌だって思うんならそうだな」
大葉の言葉に、羽理はギュゥッと胸元を押さえる手指に力を入れた。
柚子と一緒にいる大葉を見た時。柚子から「たいちゃん」と親し気に呼ばれている大葉を見た時。柚子のことを大葉が同じように呼び捨てした時。
美男美女にしか見えない二人が、お似合いだと思ってしまったのと同時に湧き起こってきた、何とも言えない遣る瀬ない気持ち。
そんな時に大葉から告げられた約束反故の連絡は、羽理を完膚なきまでに叩きのめしてズタボロにしたのだ。
そう言うのを一気に思い出した羽理は、またあんな想いをさせられるのは耐えられないと思って。
小さく「イヤ……」と答えてポロリと涙を零した。
「そっか……。だったら話は早い」
大葉が羽理の涙をそっと指先で拭って微笑する。
「え……?」
「羽理、俺を独り占めしたくないか?」
「ひとり、じめ?」
「ああ、そうだ。その代わりお前も俺だけのモノになる。そう言う夢のような関係を、俺はお前に与えてやれる。――なぁ、羽理。お前はそれが欲しくないか?」
「……そんな関係が……本当に得られるの?」
「ああ、得られる。しかも、今から俺が言うことに『はい』か『イエス』か『うん』のどれかで答えればいいだけだ。――出来るよな?」
羽理が涙でアーモンド型の瞳を潤ませたままコクッと頷いたのを確認して、大葉は静かに問いかけた。
「――荒木羽理さん、俺と結婚してくれますか?」
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