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漆黒のエントランスに、二つの刃が触れ合う金属音が鋭く響いた。
目の前に立つ「俺」は、瞬き一つせず、俺と全く同じ予備動作で脇差を繰り出してくる。
「兄貴…どっちが本物なんだよ……!」
山城が混乱して立ち尽くす。
無理もない。
傷の深さ、服の破れ方、そして漂う死臭までもが、鏡に映したように一致していた。
『黒嵜君、それは君の「負の遺産」だ。君が新宿で流してきた血、積み上げた罪、そのすべてをデータ化して練り上げた、迷いのない鏡像だよ』
久我山の声が、天井から嘲笑うように降り注ぐ。
ガギィンッ!
互いの脇差が噛み合い、至近距離で視線が交差する。
鏡像の瞳には、何の感情もなかった。
痛みも、焦りも、守りたい仲間への想いもない。
ただ効率的に、俺の心臓を貫くことだけを演算している「純粋な暴力」。
「……効率的だな。だがな、お前には決定的に足りねえもんがある」
俺はあえて、鏡像の刃を避けるのを止めた。
肉を断つ嫌な感触が肩に走る。鏡像の刃が俺の左肩を深く抉ったが、俺はその返り血を鏡像の顔面に浴びせかけた。
「……計算外だろ? 自分の血が目に入るなんてよ!」
一瞬、鏡像の「予測」にエラーが生じた。
機械的な正確さゆえに、自傷を厭わない捨て身の特攻をノイズとして処理しきれなかったのだ。
そのわずかな硬直を、俺は見逃さなかった。
俺は右手の脇差を捨て、隠し持っていた錆びた釘抜――
新宿の解体現場で拾った、何の変哲もない鉄の塊を鏡像の喉笛に叩き込んだ。
「……俺は、綺麗な『記録』で生きてるんじゃねえ。泥を啜って、予定を狂わせて生きてるんだよ!」
鏡像が、ノイズの走るホログラムのように崩れ落ち、消えていく。
久我山が用意した「完璧な俺」は、新宿の野良犬が持つ「無意味な執念」に敗れた。
「兄貴……!」
「……行こうぜ、山城。あと少しで、あの『麒麟』の首に手が届く」
俺は激痛に耐えながら、血に染まった床を蹴り、塔の上層へと続く重力エレベーターへと乗り込んだ。
残された時間は、あと74日。
100日の終焉を止めるための、最後から三番目の扉が開く。