「デザート王領かぁ。どんな街なんだろうね!」
手紙を託し、次の目的地まで決めてもらったレビン達は、領都ミラードでの最後の夜を迎えていた。
「楽しみね。ダンジョンっていう言葉を私は初めて聞いたわ。レビンは知っていたみたいだけど、どうせあの本でしょう?」
「あの本って…冒険録の本だよ!僕のバイブルなんだからね!」
レビンはプリプリしていた……
「えぇ…ごめんなさい…それでダンジョンって何なのかしら?」
若干引き気味に謝るミルキィ。誰しも侵してはならない領域があるのだ……
「ああ、そうだったね。ダンジョンは簡単に言うと、魔物の巣窟だよ!
色んな魔物がひと所に存在しているんだ!」
レビンの説明を聞き、少し考えた後、ミルキィが質問をする。
「それって可能なの?湿地帯みたいに広いところならわかるのだけど、レビンの口振りだとそうじゃないのよね?」
「そうなんだよ。ダンジョンっていうのは元々古代遺跡を指す言葉だったんだけど、今では少し意味が違ってきているんだ」
レビンの説明はこうだ。
ダンジョン=古代遺跡だったものが、今では
ダンジョン=古代遺跡の中でも魔物が沢山出現するところ
となっていた。
ダンジョン以外の他の古代遺跡の事を、今ではそのまま古代遺跡と呼ぶ。
「魔物が沢山いるってどういう事なの?まさか遺跡が管理しているわけじゃないでしょうし」
「そのまさかだよ。古代の文明は、どうにかして魔物を生み出して管理する事が出来たみたいなんだ。
今では何の為にダンジョンが造られたのか、誰にもわからないみたいだね。
そしてそのダンジョンが生み出した魔物は、僕達が戦ってきた魔物とは少し違うんだ」
レビンはダンジョンの魔物と普通の魔物との違いを説明した。
地上では倒した魔物の肉体は残るが、ダンジョンでは魔物は死んでから一定時間が過ぎるとダンジョンに吸収されてしまう。
その際に何も残さない。経験値以外は。
「じゃあお金は儲からないのね?」
「うっ…そういう事になるね…でも、ダンジョンに吸収されちゃう前に剥ぎ取れば、魔石くらいなら持ち帰れるって書いてあったよ」
「そう。お金はそこそこあるのでしょう?それならそれが無くなるまでは良いのじゃないかしら。流石に一文なしになるのは止めるわよ?」
ミルキィはどこまでもレビンに反対しない。が、流石に文無しは許容出来ない様子だ。
「ははっ!流石に生活できなくなるまで無理はしないよ。ミルキィもレベルが上がれば今の剣が使えなくなるだろうし、出来ればそれを買うお金を貯めれるくらい魔石を集めたいね」
「そうね。壊さないように気をつけて剣を振るわ」
二人で和気藹々と話をしながら、夜は更けていった。
翌日、二人は旅立ち、現在はミラードの街の入り口である門の前に来ていた。
「あれ?あれって…」
「ええ。シーベルトのようね」
門に向かう二人の視線の先に、護衛を何人か従えたシーベルトが待っていた。
「おはようございます。レビン。ミルキィ」
「おはよう!あれ?もしかして、見送りに来てくれたの?」
「そうです。お二人に渡したいモノがあったので、ここで待っていました」
シーベルトはそういうと、護衛の者から封書を受け取った。
「これです」
封書を渡されたレビン。
「これは何?」
「それは我が辺境伯家が身元を保障する書類になります」
「えっ?僕達は銀ランクのタグがあるから必要ないんじゃ?」
当たり前に思った事だが、好意であるのなら黙って受け取っておけば良かったと、口に出した事をレビンはすぐに後悔した。
「そうです。ですが、二人には何やら事情があると……それについて、詮索はしません。
しかし、お二人の良さがわからない者は必ずいます。
その時にその封書が助けになるはずです」
二人の事情が何かはわからない。
ただ、友人である自分にすら言えない事であるのならば、二人以外の人には隠したいはずだ。
そう考えたシーベルトは、昨日の夜に父である辺境伯に頼み、書類を作成してもらっていたのだ。
健気である。
全ての点が線で繋がったレビンは、嬉しさと話せない悔しさがその胸を締め付けた。
「……あ、ありがとう。シーベルトと友達になれた事が、ミラードに来て一番嬉しい事だったよ…」
何とか声を搾り出したレビンであったが、顔を上げる事は出来なかった。
そんな相方の代わりに。
「ありがとう。シーベルト。何だか助けられてばかりね。次に会う時には友達のシーベルトを助けられるようになっておくから、何でも言ってね?」
「ははっ。二人とも大袈裟ですよ!私は父に頼んだだけです。次は私自身の力で助けて見せます!」
ミルキィとシーベルトは固く握手を交わした。
「じゃあ行くね。また必ず会いにくるから!」
漸く顔を上げたレビンが泣き笑いのような表情でシーベルトに手を振り、ミルキィもそれに続いた。
「はい!命を大切に!いつまでも待っています!」
この世界で旅は命懸けである。
シーベルトの優しさと思いやりを胸に、二人は領都ミラードの門を来た時とは反対方向に歩んだ。
「レビン。もしかして…泣いてるの?」
ゴシゴシッ
「な、泣くわけないでしょ!?」
「そう。……ふふっ」
「あっ!?笑ったなぁ!?」
ミラードの街の外に、元気な声が響いた。
「えっ!?支援してくださる!?」
ここは山の中の小さな村。そこに野太い男の声が響いた。
「ああ。辺境伯様から難民の受け入れと支援を言い渡されておる。
血の盟約という冒険者からの情報を受け、支援方法は既に決めてある。これがその内容だ」
村長代理であるガスは、役人が差し出してきた書類を恭しく受け取ると、それに視線を落とした。
「防護柵の補修…拡張…食糧支援…開拓開墾支援…嘘だろ…」
書類には、今のダド村に足りないモノが全て記載されている。その事が未だに信じられないガスは、惚けた表情をしたままだ。
「一先ずは難民達に軍用テントが貸し出される。
開拓と開墾が終わり、難民用の新たな住居が出来たら返還するように」
「も、勿論でございます…ありがとうございます!」
ガスは悩んでいた。
自身が生まれた時は200人程の村人が居たが、大人になるにつれて周りから若者が消えていった。
その理由は簡単に想像つくモノではあったが、改善は簡単な事ではなかったのだ。
親からいずれ村長を譲り受けるのは決まっていた。
しかし、寂れていくこの村を維持していく力も、出て行く人を引き止める言葉も持ち合わせてはいなかった。
自身が幼い頃に楽しみにしていた村の収穫祭も、近年取り止めの声が大きくなっていた。
(これで収穫祭どころか…新しい村の事業も出来る!)
ガスはこの小さな村に希望という光を齎した、あの小さな二人の英雄に、心から感謝した。
「ああ。それと。その血の盟約の二人だが、ミラードを出て行った」
役人から告げられた言葉にガスは目を見開き、驚きを露わにする。
「ど、どうして…?」
あの二人ならまた来てくれるモノだと勝手に思っていたガスは、敬語を使うことすら忘れ、役人に問う。
「理由は知らない。辺境伯様とその二人に感謝して、頑張るんだな」
「はい!ありがとうございました!」
またも小さなこの村に、男の野太い声が響いたのだった。
レベル
レビン:7(45)
ミルキィ:38
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