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無名の灯 番外編

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無名の灯 番外編

11 - 第11話 壊れた触れ方

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2025年07月19日

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放課後の教室は、静寂に包まれている。誰もいない。その空間に、遥がいることすら忘れそうになる。

教室の一番奥、窓際でただ黙って座っているだけの遥が、急に目を引くわけではない。


けれど、今日は違った。

今日は、何かが違った。


日下部は、教室のドアの前で足を止めた。

遥の背中を見つめる。

足音が消えるまで、しばらくその場に立っていた。


その時、突然、背後から聞こえた蓮司の笑い声。


「あれ? またお前、そいつと一緒にいるのか?」


日下部は振り返る。

蓮司は、少し離れた場所から遥に向かって軽く手を振った。


「なぁ、どうしてもあいつを放っとけないのか?」


その言葉が、日下部の胸に突き刺さった。

遥はただ、窓の外をぼんやり見ているだけだった。

何も言わず、何も変わらず、ただそこに座り続けている。


あの無表情の顔が、日下部を少しずつ追い詰めていく。

それを見ていると、どんどん、胸が締め付けられるようだった。


蓮司が近づいてくる。

わざと、軽やかな足音を立てながら。


「お前、やっぱり何も言わないのか?」


蓮司が遥に言った。

遥は無言で、ただ視線を向けることもなかった。


蓮司は、遥の髪を軽く引っ張り、無理やり顔を見せさせた。


「おい、聞いてんのか?」


その瞬間、日下部は、遥が笑ったのを見た。

無理に作られた笑みではない。

あれは……そう、遥が無意識に作ってしまった笑みだった。

無力さが、溢れ出ているような笑い。


蓮司の目が、その笑みに反応する。


「そうやって笑ってるの、たまに気持ち悪くなるよな。

でも、まぁ……それが可愛いんだけどさ」


その言葉が、日下部の心に深く食い込んだ。

無言でその場に立ち尽くしていると、遥の視線がようやくこちらを向いた。


その目に、何も映っていないのがわかる。

遥の中には、もう何も残っていないんじゃないかと感じた。


「遥……」

思わず口から出た名前が、教室の静寂の中で響く。

でも、遥はすぐに顔を背け、また外を見始めた。


その目線の先に、何が見えているのかはわからなかった。

でも、それが、遥の全ての答えのような気がした。


日下部は、またその場を離れた。

蓮司が遥に何をしているのか、何も言う気はなかった。

ただ、黙ってその瞬間を受け入れるしかない。

そうして、そのまま教室を出ていく。



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