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コメント
2件
いい!!(語彙力皆無)
ここから「境界」の異常が、はっきり形を持ち始める。
第三話…どうぞ。
宮城side
宮城は、境目に立つことに慣れていた。
北と南。
過去と未来。
残ったものと、失われたもの。
自分がどちら側にいるのか、考えないようにして生きてきた。
境界に立つ者は、選ばない。選べない。
朝、海から霧が上がっていた。
港の向こうが見えない。
それでも船は来るし、人は動く。
「……今日も、境界日和か」
誰に向けるでもなく呟く。
最近、連絡が途切れる県が増えていた。
完全に消えるわけじゃない。
声が遅れる。
言葉の端が削れる。
まるで、通信そのものが“削除対象”に選ばれているみたいだった。
宮城はノートを開く。
手書きの記録。
デジタルは信用していない。
「三日前、北側からの報告が一件減少」
「昨日、方言の音声データにノイズ混入」
「今朝、地図の境界線が微妙にズレている」
ペンが止まる。
「……ズレてる、よな」
壁に掛けた日本地図を見る。
毎日見ているはずの線。
でも今日、確実に違った。
境界線が、呼吸している。
ほんのわずか。
目を凝らさなければ気づかないほど。
それでも、線は動いていた。
東北の北側。
白が、にじんでいる。
「北海道……?」
名前を口にした瞬間、
地図の一部がかすかに波打った。
宮城は息を止める。
(今、反応した)
試しに、もう一度。
「青森」
何も起きない。
「岩手」
変化なし。
「……」
言葉を選ぶ。
喉が、ひりつく。
「――名前を、思い出せない県」
その瞬間、
白い部分が、わずかに広がった。
「やっぱり、そうか」
宮城は確信した。
ここは“境界”じゃない。
侵食点だ。
その日の午後、訪問者が来た。
予定にはない。
連絡もなかった。
ドアの向こうに立っていたのは、
見覚えのある顔だった。
「久しぶり、宮城」
声は知っている。
何度も一緒に立ち会った。
なのに、名前だけが抜け落ちている。
「……誰だ」
宮城は、あえて冷たく言った。
相手は少し笑った。
「その反応、もう三回目だ」
「三回?」
「うん。来るたびに、忘れられてる」
県は中に入ってくる。
影が、やけに薄い。
「境界から、先に来た」
「先?」
「消える側から」
宮城はドアを閉めた。
逃げ場を塞ぐためじゃない。
外に漏らさないためだ。
「どこが、もうない」
県は答えなかった。
代わりに、床にしゃがみ込む。
「ねえ、宮城」
視線が合う。
目だけは、はっきりしている。
「俺たち、最初から均等じゃなかったよな」
宮城は黙る。
「中心に近いほど、思い出される。
端っこは、条件付きでしか残れない」
県は、指で床をなぞる。
その跡が、薄く消えていく。
「境界ってさ、守るためにあると思われてるけど」
顔を上げた。
「ほんとは、捨てるためなんだ」
宮城の胸が、強く脈打った。
「……東京は、知ってるか」
「まだ」
即答だった。
「大阪は?」
「気づきかけてる」
宮城は目を閉じる。
最悪の答え合わせが、揃っていく。
「じゃあ北海道は」
その問いに、県は一瞬だけ沈黙した。
その沈黙が、答えだった。
「広すぎたんだよ、あそこは」
県は立ち上がる。
背が、少し低くなった気がした。
「ねえ、宮城。
境界に立つなら、選んで」
「何を」
「記録するか、忘れるか」
部屋の温度が、下がる。
「記録すると、痛い。
忘れると、楽」
宮城はノートを見る。
自分の字。
確かに存在している証。
「……消える順番は?」
県は微笑んだ。
「端から」
次の瞬間、
そこには誰もいなかった。
ただ、床に残った影だけが、
ゆっくりと薄れていく。
宮城は震える手でノートに書き足した。
「境界から消える」
書いた直後、
文字の一部が、かすれて読めなくなった。
宮城は歯を食いしばる。
「……まだだ」
まだ、記録できる。
まだ、思い出せる。
だが窓の外、
白い領域は確実に広がっていた。
境界は、
もう守っていない。
静かに、日本を削っている。
いいねコメント待ってまふ()