コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
『揺れる心、気づいてしまった嫉妬』
次の週、クラスに一人の男子生徒が転校してきた。
「今日からこのクラスに入る、九条 湊(くじょう みなと)くんです。みんな仲良くしてあげてね」
整った顔立ちに、ゆるく整えられた前髪。
雰囲気は落ち着いていて、でもどこか人懐っこい笑顔。
クラスの空気が一気に華やぐ中、姫那は静かにその様子を見ていた。
(……すごい、雰囲気のある人だな)
そして──数日後。
姫那が図書室で本を読んでいると、ふと声をかけられた。
「その本、俺も好き」
驚いて顔を上げると、そこにいたのは湊だった。
「え……あ、うん。……好き、なの?」
「うん、なんか、文章のテンポとか、空気感がちょうどいいんだよね」
すらすらと語る湊に、姫那は少し驚いた。
(本の話、こんなに自然にできる人……初めてかも)
そのまま、二人はしばらく本の話を続けた。
気がつけば、姫那は笑っていた。
自分でも気づかないくらい、自然に。
その帰り道。
翔は、校門を出る姫那と湊の姿を遠くから見ていた。
――姫那が、誰かと笑いながら歩いている。
その“誰か”が自分じゃないだけで、
胸の奥が、ぎゅっとつかまれたように痛かった。
「……なにしてんだよ、俺」
誰に言うでもなく、ぽつりと呟いた声は、
冷たい風の中にかき消されていった。