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#2

暗殺者assassin?!  聞いてない聞いてない……。マジかよ、嘘だろ……?」

彼は絶望で崩れ落ちた。同時に、待てよ……これはもしかすると……と言い出す。

「それってつまり、浦も暗殺者なら同じ仕事を同じ場所でやるってことだよな?」

歓喜で目を輝かせながらパローマを見つめる。彼女は力強く頷いて、左ポケットに手を入れた。

「あ〜〜……うん。そーだよ。確認のために今か電話するねー」

ピタリ、と彼の動きが止まったのは言うまでもない。思わず砂浜に倒れ込むほどゾッとした。背筋に蛇が伝う。

「……誰に?」

恐る恐る聞いてみると、躊躇なく返事が返ってくる。

「吉木に」

……待て、唐突すぎる。四年近く会っていないんだぞ?

牙を剥くようにし、必死に訴えかけている彼を横目で眺めながらニヤニヤする。そして、電話を掛けた。

「あ〜、吉木……任務完了の電話だけど今大丈夫? あと組はアンタとコイツだよね」

返事の前に一つ大きな溜息が漏れ、次の瞬間、大人びた男の声が響いた。

「あっそ、グル君捕まったんだね。……ペアは僕とグル君で決定してるからその方針でね」

「ん」

彼は声を聞いただけで、恋とも恐怖とも言えない心臓の高鳴りに困惑した。

──久々に会う親友は、きっと変わり果てているのだろう。

電話の会話はすぐに終了し、スマホを仕舞うと身を翻した。

「よく聞いて。今から睡眠薬を投与する。政府、非政府組織……その他諸々厄介に関わってくる問題だから丁重にしなきゃいけない。いいね?」

取り出した革製のポーチは黒光りしていて、高級感がある。そこから菓子袋のようなものに包まれた睡眠薬を手渡しした。

見られてないか、と確認をするものの、当然ながらに周囲の監視カメラは上手くズラされている。人も一切居ない不気味な空間の中でただ二人居た。

「これ、人体に影響あるよな……飴の形をしているが色からして異常だぞ」

飴は黒い粉のようなものに包まれ、中にカプセルのようなものが詰め込まれている。何度か掴んで覗き込んでみたが、それを舐める勇気は無かった。

「グルさぁ、こっちが安全なクスリ使ってると思ってんの? そんなわけないない……。違法だよ全部」

「死なないよな?」

「保証はしてあげる」

「……わかった……飲むぞ」

飴を口に投げ込んだ途端、吐き気が込み上げてきた。肝のように苦くて粉っぽい。咳込みながら噛み砕き、ゴクリと飲む。

「効果は何分後だ?」

息を荒くして訊いた。パローマは睨みつけるような眼差しを向けて、彼の服を強引に引っ張る。

「十五分後くらいだから移動しよー。それからバンコクに着くまでが十二時間くらいかな」

「えぇ……途中で俺が倒れたらどうするんだ」

彼が呆れたように鼻で笑った。しかし、返ってきた回答は吃驚するものであった。

「ウチが運ぶよ」

歩きながら、平然とした顔をしてみせる。パローマは不快そうに整った眉をやや寄せて、翠眼を下に向けた。そして、ピタリと足を止める。

「……特別航空機がもうすぐ到着するから寝てていいよ」

先を赤紫に染めた金髪に触れ、サラリと後に流した。彼がその姿を恍惚として眺めていると、不機嫌そうに舌打ちされる。

「何見てんの。そんな女に飢えてたんだ」

「弟に似てるなぁと」

記憶を辿れば、ロン毛を背中に流し、帽子を被った弟の姿があった。彫りの深い顔、柔らかな唇。その姿は彼女によく似ている。

「……弟、ねぇ……」

瞼を半ば閉じて、ふっと空を見上げた。すると、まるで鳥のような影が見える。

「ウチは知らないけど、きっと綺麗なんだろうね。……もうそろそろだよ」

彼も、眩い太陽を手で覆い隠しながら上空を眺めた。黒い影は段々と近づいてくる。共に、失神するほどの眠気に襲われ、意識を手放した。

「おやすみ……グル」

砂浜で大の字になっている彼を抱き抱えると、黒服を着た男に受け渡した。

蒸し暑い部屋で重い瞼を開けると、薄暗い天井が見えた。

……ここは何処だ。

ギョロリと眼を動かし、周囲を見ようとした……が、隣に居るソレを目にしたとき背筋が凍った。

「…………それは、拳銃……」

頬に金属が当たっている。しかも、それを握っている細身な男は吉木に違いなかった。右眼にある黒子も、左の碧眼も。

「正解。グル君久しぶりだね。会えて嬉しい……寝てる間に沢山抱き締めさせて貰ったよ。それで、何処か撃たれたい箇所はある?」

「脳幹」

彼自身も驚く程、冷静に答える。今更何だ……どうとでもなれとばかりに身を委ねていた。そんな中、隣で吉木が顔に笑みを浮かべている。

「楽しみもないね。くだらない、つまらない。けどそれが癖になるし最高だよ。ところで、僕の拳銃見て動じないの?」

首を傾げていると、彼は素早く拳銃を素手で掴んだ。カチャリ……と音が漏れる。

「お前みたいな危険人物が持っていても違和感がないからな。いつかやると思ってた」

「照れなくていいんだよ? 似合ってるんでしょう本当は」

乾いた笑い声を立てて拳銃を捨てる。彼はそれを見て安堵の溜息を漏らした。

「どこがだ。イカれてるに決まってる。誰が親友に銃口を当てて喜ばせようとするんだ」

眉を顰めて、口をへの字にする。吉木はそんなもの気に留めていなかった。

「サプライズさ! 嬉し?」

「今夜、その拳銃が夢に出るだろうな」

薄暗い眼を向ける。そして、頭を掻きながら起き上がり床に足をつけた。何やら濡れている……が、それが何か理解してはならないと直感で気付いた。

「そんなに? ……これ愛用なんだよね。SIG SAUERのP229。撃ってみる?」

SIG SAUERといえばドイツのザウエル&ゾーン社が1976年に共同開発した警察および軍用の自動拳銃である。日本自衛隊でも制式拳銃として使われることがあるらしい。

「寝起きで拳銃を撃たされるのか……。恐るべし反社だなぁ……でも、寝かせてくれよ。二日間寝てないのに……」

そう言いながら、彼は屈んであるものを見ていた。そるは、液体が残ったままの注射器だ。三つほど落ちていて、明らかに安全ではないことが分かる。その他にも汚れたティッシュや、血が粘り気のある茶色い液体になったものが壁に飛び散っている。

「それ僕がキメたやつの残骸。昨日グル君のこと考えてたら脳イカれちゃってさぁ……マジ周りがギラギラになってパワフルになったの。君がいたらもっと良いだろうね。まぁ、眠いなら一緒に寝よう。起きたら一緒にしない?」

「癖になるから辞めておく。けど寝るのは賛成だ。睡眠薬使わずにぐっっすり寝たい。今すぐに!!」

そう呻きながらP229を取り上げて眠りにつく。側から見れば妙な光景である。本革のソファーに 身長178cmほどの男二名が拳銃を抱くようにして寝ているのだ。彼らの上には布団の代わりにパローマのコートをかけていた。

そんな光景を真顔で眺めながら、パローマはカクテルグラスを傾ける。彼らの眠る奥のソファーから見て正面。長い机でマスターが氷を削りながらパローマにカクテルをいくつも提供していた。普段なら危険人物が大勢来て死体が転がる。しかし、何故か今日だけは空いていた。その理由を分かっている者は吉木ただ一人である。

彼が起きる頃には、机の上で置物のように転がる頭。そして山のように連なる札束を見ることになるであろう。

破裂的な銃声に続いて、弾丸は乱れ飛んだ。先程までの薄暗い部屋は眩いほどに明るく、眼が焼けたように痛い。

彼は銃声と同時にハッと眼を開けた。混凝土で出来た空間には窓がなく、人の形をした的が幾つも並べられている。それを冷淡と撃ち抜きながら、吉木は狙撃銃を的に向けていた。何度も、躊躇することなく中心を狙う姿は猛獣のようだ。しかし、それよりも音の大きさに彼は頭を抱える。繰り返される破裂的な音は心臓に悪かった。

「本当に寝起きで銃声を聞くとは思わなかった。流石にもう限界だ。うるせぇぞ!!」

脳髄を掻き回されたかのような感覚は不愉快そのものだった。思わず大声で叫ぶと、最後の一撃を命中させ振り返る。

「あ、グル君おはよう。怒らられるほど下手な狙撃だったかい? 今日はいつも通り調子がいいんだけど、まだまだかなぁ」

後ろ頭を撫でながらゆっくりと歩き寄ってくる。彼は銃が並べられている棚から拳銃を取り出し、後ろポケットに隠した。

「いいや、違う。寝てるにも関わらず眼の前で狙撃していることに怒っているんだ。今すぐ辞めてくれ」

彼は激怒し、吉木と距離を詰める。やがて、掴みかかった。途端に、爆発的な銃声が響き渡り、彼の肩から血が飛び散った。そして、すぐに顔を歪めながら倒れ込むと、肩を押さえて吉木を睨む。

「遂に撃ったか」

混凝土の冷たい床で藻掻き苦しむ。ただ、撃たれても睨んでいる眼は鋭かった。それに怯えたかのように、また吉木も焦りの色を見せる。

「き、君が急に掴みかかってきたからだ。悠長に構えていたら、いつ殺されるかも分からない。それに君だから肩を撃ってあげたんだ……」

「ゴチャゴチャ言い訳すんな……いてぇ……処置しねぇとヤバいかもな。応急処置セットはあるのか」

首だけを上に向けるようにして、あるなら寄越せと付け加える。吉木は返事だけして駆け出した。

「これが応急処置セットさ。でもこれを上げるのには条件がある」

長い指を一本立てると、意地悪そうな笑みを浮かべる。

「僕に様付けして頭を下げなきゃ渡さないよ」

彼はちぇっと舌打ちする。そして、諦めたかのように頭を下げ、恨めしそうに口を開いた。

「……浦様、応急処置セットを下さい」

言い終わったとき、吉木の表情は溌溂として人間が出来るとは到底思えない笑みを広げていた。

大きく傷のない手を、彼の頬に当てて撫で回す。そして処置セットの箱を隣に置いた。

「イイコ、上下関係ってのは少し憧れるもんだね。嫌いだけど」

吐き捨てた言葉は泡のように消える。彼は冷静さを保ちながら、射入口に手を当て力を込める。それを暫く繰り返すと、血が止まった。その上からガーゼを重ね、包帯を強く巻く。やっとの思いで処置を終わらせると、不機嫌そうに俯いた。

「謝罪しろよ」

ポツリと独り言のように漏らす。吉木はすぐに返事はせず、眼を半分閉じて考えていた。軈て、息を吹き返したように彼を見る。

「あぁ……ごめんね」

言葉の下には疑問符が大量に浮かんでいるようだった。何故、謝っているのかさえも理解していない。この業界だと、こんなこと普通なのに……そんなことを言いたげな表情にも見える。

「謝って済むなら警察は要らないだろう。もう少しマシな謝罪はないのか」

一般的には尤千万であろう。しかし、咄嗟に吉木は唇を尖らせた。

「反社に言う言葉じゃないよ。世界が違うんだからね」

彼は眉間に皺を寄せて、頗る嫌そうに目を背けた。

「それでも、傷つけて「ごめん」はないだろ?  せめて償え」

「償え」という言葉に違和感を覚えたのか、吉木の動きが一瞬止まる。数回瞬きすると、その場に腰を下ろして、彼の腰に手を回した。そして拳銃を手に持ち、自分の頭に突きつける。

「償うってことはこういうコトさ。そうだろ?」

「お前ってヤツは本当にどうかしているな。心にまで重傷負わせるつもりか? 」

彼は怒りより、眼の前に居る吉木の不気味さで血の気が引いていた。異変に気がついた吉木は、睨むようにして拳銃を下げる。

「なら、どうすれば良い? 君が償えと言ったんだ。そして、僕は君に傷を負わせた。これは事実だ。どうにかしなければならない。今、僕は君の思うままに動くよ。殺そうが生かそうが自由さ。どうぞ……ご自由に」

皮肉さを交えた言葉で圧倒する。もう、彼の内心は疲れ果てていた。再開の喜びに浸る間もなく、ただ疲労感に溺れている。

「ああ、疲れた。寝るまで酒を飲みたい」

額に手を当てて、大きな溜息を吐く。混合酒が欲しい、ウイスキーを一気に飲みたい。葡萄酒を置いて、料理を食べながら堪能したい。とにかく、疲れを癒やすものが欲しいばかりであった。

「任せて。今からパローマに電話するよ」

スマホの画面を指で叩くと、耳許にそれを当てる。すぐにパローマは出た。

「パローマ。グル君がお酒飲みたいらしいよ。今空いてるよね。は? マフィアのボス居るの? それは危ないね。けど僕らは暗殺組織であってマフィアなんかとは違う。……は? 僕が呼び出されてる? 意味がわからない……ほら、こうやって僕はグル君と居るし、相手に手も出さないよ。僕が表に出たことなんて一度もないだろ? パローマと違ってビッチじゃないからさ。じゃあね」

「待て!!」

野太い男の声が響いた。吉木は顔を歪めて、画面を睨む。

「……御要件は」

「コッチのカポレジームが五人死んだ。どういうことだよ?」

鼻で笑いもせず、真剣な顔で答える。電話の外でも、表情を完璧に作っていた。彼は姿を確認するように、吉木の頭から爪先まで見る。黒い髪、耳栓のようにも見える機械。服の裏にある拳銃。表ポケットに入れられたシャープペンシルのような暗器。透明で、眼を凝らして見なければ分からない手袋。革製の靴。何より、不気味さを感じない空気感は、プロ中のプロを感じる。

「……さぁ? どうでしょう。旅行にでも行かれて交通事故に遭ったのでは?」

「お前……この女がどうなっても良いのか?」

「はい」

初めて唇を歪め、悪魔のように笑った。それにしても、パローマが暴れている音など一切しない。気がつけば、電話も途切れていた。

「……カポレジームって?」

気になった彼が尋ねると、吉木はスマホを拭きながら口を開く。

「まぁ、高位幹部ってとこかな。困るよね……関係ないのにいつも絡まれる。仕方ないよ。

今日は君が居るからグダグダしてるけど、服とか色々決められてるんだ。指紋一つさえも許さない。靴だって歩く途中に履き替える。証拠は残さない。通話履歴も自動的に消える。業界ナメないでね」

背けた顔を見せることもなく、吉木は強い口調で言った。通話最中に見せた笑みも、一つの仮面であって素顔ではないのかもしれない。そう考えると、忽ち彼は不気味さを感じた。

そのストレス、晴らします0

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