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数日後、藤堂さんとの打ち合わせのあと。
「……最近、何か悩んでる?」
藤堂さんがふと尋ねてきた。
「え?」
「いや、君の文章、前より“誰かに見てほしい”って気持ちが強くなってる気がして。だから、もしかして……大事な人とうまくいってないのかなって」
一瞬、返事に詰まった。
「……私、好きな人がいるんです。高校からずっと一緒で、今も。でも最近、その人の前で素直になれなくて」
「そっか。でも、それって……大切にしてるからこそ、怖いんだよ」
藤堂さんのやさしさが、余計に胸を締めつけた。
***
その夜。葵からひとつのメッセージが届いた。
「紗季、私たち、いまちょっと距離置いたほうがいいのかなって思ってる。
好きな気持ちがあるのに、不安ばっかり感じるのってつらいから。
一度、お互いに整理したほうがいいのかも」
携帯を握りしめたまま、紗季は何も返せなかった。
(距離を置くって、そんな……)
だけど頭では分かっていた。ずっと甘えていたのは自分の方だったと。
“好き”は、“やさしさ”だけじゃ守れない。
そう気づいた瞬間、紗季の中の何かが静かに崩れていった。