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幼稚園の門が開いた瞬間。
「くろおパパだーー!!」
「ほんもの!テレビのひとみたい!」
「ねぇねぇ!たかい!たかいして!」
黒尾鉄朗は、門の前で完全に包囲されていた。
「ちょ、待て待て、一気に来んな!」
左右のズボンを掴まれ、背中を叩かれ、ジャージの裾を引っ張られる。
完全に“子供達に好かれすぎる大人”の図。
「黒尾パパ、つよいの?」
「バレーしてたんでしょ!」
「ジャンプみせてー!」
「ここ幼稚園だからな!?!?」
内心ツッコミを入れつつも、しゃがんで目線を合わせるのは忘れない。
「ジャンプはな、ここじゃ危ねぇからダメ。代わりに――」
ひょいっと一人を軽く持ち上げる。
「うわーー!!」
「ずるい!わたしも!」
「次オレ!!」
一瞬で列ができる。
(なんで順番制になってんだよ…)
「あ!🌷のパパだ!」
「🌷ちゃんのパパ、かっこいいよね!」
娘の姿はまだ見えない。
「こんにちは〜、黒尾さーん!」
もうこの時点で、嫌な予感はしている。
「こんにちは」
営業スマイル。
帽子をかぶり、ジャージ姿。
完全に“パパ”の格好なのに、無駄に目立つのが黒尾鉄朗という男だった。
「今日もパパが来てくれたの〜?」
「黒尾さんって、いつも余裕ありますよね〜」
「その髪型、朝どうやってセットしてるんですか?」
次々に絡んでくるママさん達。
黒尾は口角を引きつらせつつ、愛想笑いで対応する。
(俺、保護者会のアイドル枠じゃねーんだけど…笑)
そこへ。
「パパーーー!!」
門の奥から、小さな影が全力で走ってくる。
🌷——黒尾の娘だ。
「おっと!」
勢いよく飛びついてきた娘を抱き止めると、黒尾の表情は一瞬で緩む。
「今日も元気だな、🌷」
「ねぇねぇ!今日ね!おえかきしたの!」
「お、後で見せて」
しゃがみ込んで目線を合わせる黒尾。
その自然すぎる“良いパパ感”に、周囲がざわつく。
「……黒尾さん、ほんと素敵ですよね」
「娘ちゃん、パパ大好きなの伝わる〜」
(やめろ、これ以上評価上げんな)
黒尾は内心でツッコミながら、娘の話を真剣に聞く。
「それでね、ママとパパとわたし!」
「お、家族全員か。上手じゃん」
「えへへ」
🌷がぎゅっと黒尾の首に腕を回す。
「パパ、だいすき」
その一言で、黒尾の思考は全部停止した。
「……っ」
「パパ?」
「……いや、なんでもねぇ」
顔を背けるが、耳まで赤い。
完全にノックアウトである。
「ほら、帰るぞ。ママ待ってるからな」
「うん!」
帰り際、ママさん達が小声で囁く。
「……あれは反則」
「理想のパパすぎる」
黒尾は聞こえないふりをして、娘の手をしっかり握った。
(家では嫁にからかわれるんだろうな…)
そう思いながらも、
隣で楽しそうに歩く娘を見て、口元が自然と緩む。
——絡まれても、騒がれても。
迎えに来る理由は、これだけで十分だった。