テラーノベル
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夕飯後のリビング。テレビはついているのに、誰もちゃんと見ていなかった。
黒尾鉄朗は床に座り、背もたれ代わりにソファにもたれている。
その胸元に、娘の🌷がすっぽり収まっていた。
「パパ、きょうね」
「んー?」
「ようちえんでね、けっこんのはなししたの!!」
黒尾の眉がぴくっと動く。
「……結婚?」
「うん!!」
「……うん?」
何気ない会話のはずだった。
この時までは。
「🌷ね、きめたの」
黒尾は娘の頭を撫でながら、軽い気持ちで聞いた。
「何を?」
次の瞬間。
「パパとけっこんする!!!」
……時間が止まった。
「…………は?」
隣で聞いていた私は、吹き出すのを必死で堪える。
黒尾は完全に固まっていた。
「え、ちょ、待て待て
🌷、それはな」
言葉を探す黒尾の胸に、🌷がぎゅっとしがみつく。
「だって、パパやさしいし
つよいし、だっこしてくれるし」
一個一個、理由を指折り数えるたびに、
黒尾の耳は赤く、顔はどんどん真剣になっていく。
「それにね」
🌷は顔を上げて、まっすぐ黒尾を見る。
「パパが、🌷のこと、いちばんすきでしょ?」
私は我慢できずに吹き出してしまった。
……致命傷。
「……それは、そうだけどな」
黒尾は私の方をちらっと見る。
助けを求める目。
私はにこにこしながら言った。
「おめでとう、てつくん」
「祝うな!!」
即ツッコミ。
「いや、違うだろ!いや違くはないんだけど…
…これはちゃんと説明するやつだろ!」
黒尾は真面目な顔で、🌷と向き合う。
「🌷、よく聞け」
「うん」
「パパはな、ママと結婚してる」
「しってる」
「でな、🌷はいつか、🌷が大好きな人と結婚するんだ」
🌷は少し考え込んだあと、首を傾げた。
「じゃあね」
嫌な予感しかしない。
「🌷がおおきくなってもパパが寂しくないように、ママとパパと、いっしょにすむ」
黒尾、崩れ落ちる。
「……お前、それ最強の答え出すな」
私はとうとう声を出して笑ってしまった。
「だってね」
🌷は無邪気に続ける。
「パパがいないと、さみしいし
ママがいないのも、やだ」
黒尾は娘をぎゅっと抱きしめる。
「……ずりぃな」
低い声で、ぽつりと。
「そんなこと言われたら、
パパ、何も言えないじゃん」
🌷は満足そうに、黒尾の胸に顔を埋める。
その頭を撫でながら、黒尾は私に小さく言った。
「……なぁ」
「なに?」
「🌷が結婚する日、俺、耐えられる気しないんだけど…。
てか結婚しないで欲しいんだけど…」
「今から言う?」
「こんなこと言われたらサ…」
少し間を置いて、真剣な声で。
「……絶対泣く」
私は笑いながら、黒尾の肩に寄りかかる。
「覚悟しといて」
黒尾は大きく息を吐いて、もう一度娘を抱き直した。
「🌷」
「なあに?」
「パパはな、
🌷が誰と結婚しても、
一生、🌷のパパだからな」
「うん!」
「でもな」
少しだけ、声が柔らかくなる。
「今はパパのこと大好きでいて」
娘の「今」は、全部ここにある。
その夜、布団に入ったあと。
「ねぇ、パパ」
「まだ起きてんのか」
「やっぱりね」
眠そうな声で。
「パパとけっこんする」
黒尾は天井を見つめたまま、小さく笑った。
「……はいはい」
私には聞こえないような声で。
「それ言われるうちは、
パパ、世界一幸せだわ」
🌷の寝息が静かに響く部屋で、
黒尾鉄朗は、娘に一生勝てない父親になった。
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