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星崎視点
「お疲れっ!」
ここ最近は何故か先輩である大森さんによく絡まれる。
嫌いなわけではないが、
明らかに陽キャラの大森さんが、
陰キャラな僕に関わりを持ちたがるその理由が僕には全く理解が出来なかった。
もちろん大森さんの性格を考えれば、
揶揄いや物珍しさなどではなさそうだとは思うが、
いざ目の前に現れると、
緊張でうまく話ができなかった。
それでもとりあえず会釈して挨拶を試みた。
「……ま、
です」
(どうにか声を絞り出せたけど、
絶対聞き取れてないだろな)
普段だと緊張して声すら出ないことがざらだったため、
今日はまだマシだろう。
これでも頑張れた方だと、
自分を褒めてあげたいくらいだ。
ちなみに僕が音楽を始めたのは八年前で、
デビューして二年目だが、
コミュ障のためマネージャーをつけていなかった。
一応TASUKUという芸名で、
唯一の武器である低音を生かして、
TikTokやYouTubeチャンネルで歌っている所やダンス動画をあげて、
地道にかつ細々と活動していた。
だがここまで絡んでくる人は初めてだった。
でもどうせ自分の全てを知ったら、
いずれ離れていく人だろうと、
無関心を装って手早く挨拶だけ済ませると、
その場から逃げるように楽屋に引き篭ろうとした。
「距離感も馴れ馴れしく詰め寄らないようにしてるし、
声掛けも怖がらせないように優しくしてるつもりなんだけどなぁ。
何でだ?」
そんな僕の耳に届いた戸惑いの声を聞かなかったフリをして通り過ぎた。
どうしてこんな僕に構うのだろうか。
不思議でたまらなかった。
特に何か興味を持たれることをした覚えがない。
なのにどうして?
楽屋までの距離が思っていたよりも遠く、
とりあえず大森さんからは死角になる自販機コーナーに避難した。
「お疲れー⋯って元貴?
なんか悩み事か?」
「あ、
もしかして例の後輩?」
後から来た若井さんと藤澤さんの会話が聞こえてきた。
これではまるきり盗み聞きと変わらないと、
飲み物だけを買いすぐに立ち去ることにした。
「俺⋯嫌われてんの?」
「本人に聞きなよ」
嫌っているわけではないと、
伝えられたらどれほどいいだろうか。
しかし会話すらままならない、
目も合わせられない、
態度が生意気な後輩の言葉をどこまで信じてもらえるのだろうか。
聞いてみたいような、
聞きたくないような、
何とも言えない曖昧なこの気持ちはどうしたらいいのだろうか。
(友達みたいな自然体で会話することって難しいな)