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〚Part6〛しゃんぷー
その日の猫はどこか落ち着きがなく朝からソワソワしていた
「いつもと様子がヘンなのだよ」
物陰に隠れてみたりベッド下に入ったりを繰り返して家中をウロウロとする猫にクラピカはどこか体調が悪いのを隠しているのだろうかとクラピカはとても心配になる
「レオリオ、猫の様子が何かおかしいのだよ」
勉強に一人区切りついたらしいレオリオに飲み物を手渡しながら声をかけてみる
「あー、おふくろが風呂場で用意してたからシャンプーかもな」
「シャンプー・・・猫もシャンプーするのか?」
クラピカの脳内ではシャンプーハットを被って全身モコモコ泡まみれになる猫の可愛らしいイメージ映像が流れる
「半年に一度くらいでしてやるんだぜ」
レオリオはベッドの下から猫が出てきたところを捕まえて抱き上げるとリビングへと降りて行った
「そんな目で見ないで欲しいのだよ」
猫はクラピカに捕まっちゃったの、助けて~と言わんばかりの上目遣いで見てきたのでクラピカはレオリオの後ろについていくことにした。レオリオが風呂場に向かったのでそれに倣って後ろについていくとレオリオの母が洗面器やボトルにタオルなどを用意していた
「おふくろぉ、俺が今回シャンプーするわ」
レオリオがバタンと浴室と廊下を繋ぐ扉を閉めてしまったことで猫は逃げ場が無くなってしまった
「アンタこの子のシャンプーしたことないでしょ?逃げようとするし噛んでくるし大変よ?できるかい?」
レオリオの母がそう言うと、レオリオはクラピカの頭をグシャグシャと撫でまわし
「大丈夫!俺はコイツのシャンプーで慣れてっから!!噛みつかれるのもな!!!」
とイイ笑顔で言ってきたことに腹が立ち久しぶりにレオリオの筋肉質な尻を蹴飛ばした
「洗浄が必要なのは貴様の頭の中身なのだよ!!!レオリオ!!」
「イッテーーーー」
「アハハハ!!」
レオリオの母はよほどツボに入ったのかお腹を抱えて爆笑している
こうしてクラピカは人生初体験の猫のシャンプーを行うことになった。まずはレオリオと上下共に濡れてもすぐに着替えられる服装になる、それから洗われることを察して嫌がる猫をレオリオが抱いて浴室へ入った
「逃げないようにドアしっかり閉めてくれ、ドアの側にタオルを置いておいてくれよ。それから洗面器に指の第一関節くらいまでの高さでぬるま湯を入れてくれ」
言われた通りにして次は洗面器にぬるま湯を張る
”みゃぁん!!にゃぉん!!”
猫は嫌だ嫌だと言わんばかりに鳴き声をあげて抵抗している
「シャワー、お湯はゆっくり。次はシャンプーを洗面器の湯に入れて泡立たせる」
レオリオの指示を受けて緩やかな流れのシャワーを出して片手を差し出しているレオリオに渡す
「お湯かけてくぞー、キレイキレイしようなー」
レオリオが猫にゆっくりとお湯をかけている横でクラピカは洗面器の中で泡を作る作業に入った
「なかなか難しいな」
泡を作ると聞いて、以前センリツが組事務所のキッチンでホイップクリームを作ってくれた時の泡だて器の動きを想像しながら手を動かしていく
「ちっちゃくなっちゃったのだよ」
全身が濡らされた猫は普段より二回りほど縮んでしまった
「次に俺の右手の横に洗面器置いて」
言われた通りに差し出すと、猫がレオリオの手をカプッと噛んだ
「がんばったらオヤツやるからな」
猫に対する声かけの様子を見ながらクラピカは目の前の男が小児科医を志していることを思い出す
(お前ならきっといい医者になる、困っている子のところにすぐ飛んでいくような医者になるんだろうな)
「クラピカもシャンプーしてみるか?」
レオリオに教わりながら泡を掌に乗せて猫の身体をマッサージするように洗っていく
「顔は避けてやってな」
「わかったのだよ」
猫は観念したのかレオリオの脚にぴったりとくっついて大人しくしている
「大人しいものなのだよ」
「クラピカ、本当に大変なのはシャンプーじゃねぇ。ドライヤーだ」
「お、おお・・・」
たしかに私も幼い頃「しっかり髪の毛を乾かしなさい」と追っかけてくる母親から逃げ回った記憶があるような
「顎の下にニキビみたいな汚れができやすいからここもこうやって優しく洗ってやる。しっぽも強く握ったら嫌がるから優しく洗ってやってくれ」
”みゃぉんみゃぉん”と猫はクラピカに助けてほしそうな目線を投げてくるが、気の利いた言葉がでてこず「がんばれ」と返すクラピカの横ではそれを聞いたレオリオが吹きだしていた
「コイツを保護して元気になった後におふくろがこうやって洗ってやって俺はそれを見てたんだ。地域猫だったのかわからないけど虫退治の薬飲ませたり、ノミ取りの薬を打ったりしてケガが治った後にきれいにしてやったんだ」
「レオリオ、地域猫とは?」
言葉からして地域に住んでいる猫ということだろうか
「お前は知ってるかわかんねーけど、昔は飼い猫以外は捨て猫とか野良猫って呼ばれてたんだけどよ。その地域で暮らしてる猫って意味で今は地域猫って呼び方のほうが猫好きの中では浸透してるんだ」
「ちいきねこ」
「さて、そろそろ洗い流すか。シャワーくれ」
クラピカは再び緩いシャワーを出すためにコックをひねると洗いやすいように向きを考えてレオリオに手渡した
「サンキュ」
レオリオは丁寧に猫の泡を落としていく。シャンプーの香りなのかフローラルな匂いが浴室に広がる
「きもちいな~、きれいになったぞ~」
最後に顔の周りを軽くあらってやってからレオリオはシャワーのスイッチを切った
「レオリオ、お風呂の用意はしないのか?」
クラピカは浴槽を指さして訪ねてみる
「猫は風呂にはあんま入れないと思うぜ・・・たぶん」
レオリオは(コイツ時々面白いこと言うんだよな)と心の中で呟いたが口には出さなかった
「クラピカ、洗面所戻るからバスタオル取ってくれ。そしたら猫に顔を避けてかぶせてくれ」
扉を開けてバスタオルを手に取り猫を包むようにかぶせてみた
「よっし、本番はこの後だ」
レオリオはタオルで優しく猫の水気を拭きとっていく、なぜかレオリオはクルリとクラピカに対して背中を向けた
「クラピカ、コイツが気づかないようにドライヤーのコンセントをさして一番弱いスイッチ入れてくれ」
指示通りにしてスイッチを入れた途端に猫が再び暴れだした
「クラピカ!そのままの位置でコイツに風当ててくれ!くれぐれも顔には当てるなよ」
なるほど暴れるからドライヤーのほうが大変とはこういう事か。猫は時々シャーッと怒り声をあげながらレオリオから逃げようと暴れている
「大丈夫だって、いいこいいこ」
レオリオは手際よくタオルで猫の身体を拭いてやっていく
「よし!終わりだ!あとは自分でペロペロするだろ」
ドライヤーのスイッチを切り、レオリオが仕上げに乾いたタオルで拭き残しを整えてやるとやっと猫はレオリオの腕から降ろされた
『あ、逃げた』
廊下への扉を開けると猫は一目散に逃げ去っていったのであった
その後は片付けをレオリオの母とバトンタッチしてリビングで休憩することにする
「せっかく洗ったのに床でスリスリしているのだよ」
猫はキレイになった身体を熱心に床へこすりつけていた
「自分の匂いになりたいんじゃねーか?わかんねーけど。おやつやるか?」
特製高級マグロ味と書かれたおやつを食べ終わると猫はスヤスヤ眠ってしまった
「せっかくだから散歩に行こうぜクラピカ」
レオリオに誘われて青空の下を散歩することになった
「ここでアイツを保護したんだ」
レオリオが猫と出会った場所に連れてきてもらった。車通りの多そうなところだったので接触して怪我をしてしまったのだろうか
しばらく歩くと窓越しに魚が見える店舗の横の道に来た
「ここが街の中のペットショップでうちもここでフードを買ってる、オーナーが俺の友達の母ちゃんですごく優しい人なんだ。猫を保護したときもいろいろ相談に乗ってくれたんだ」
他にもレオリオが通っていた学校やスーパーマーケットなど色々な場所を案内してもらい、最後に少し街はずれの墓地に来た
「ここが俺のダチが眠ってる場所だ」
医者を志すきっかけとなったレオリオの病気で助からなかった親友
”金なんか要らねぇってその子の親に言ってやるのが夢なんだ”
「私はあいにくクルタの弔いの祈りしか知識にないのだが・・・祈りを捧げてもよいだろうか」
レオリオは私を抱き寄せると「喜んでくれるよ」と言ってくれたのでクルタのやり方で祈りを捧げた
「一緒に来てくれてありがとうな、クラピカ」
レオリオが祈り終わるのを待って私たちはその場を後にした
レオリオの実家に戻るとレオリオの母がケーキを焼いてくれていた
「お母さん、紅茶入れるの手伝います」
クラピカのレオリオの母に対する呼び方も”レオリオのお母さん”というかしこまった呼び方ではなく、共通語の”お母さん”と気さくに呼びかける程に、クラピカはこの家に馴染んできている
「アンタたちがいると料理のしがいがあるね」
テキパキとキッチンを手伝ってくれるクラピカをレオリオの母は優しい眼差しで見守っていた
(合鍵作ってあげないとね)