テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
まな板の上を踊る食材。トマト、ピーマン、タマネギ、マッシュルーム。手慣れた手つきでそれらは切られていく。そのリズムにブレは無く、均一な間隔で音が鳴っていた。
フライパンで炒められている鶏肉が、湯気に混じって香る。
「良い香りですね。本当に何から何までありがとうございます。明日こそは、俺に料理つくらせてくださいね」
「うーん。どうだろうね……? ほら、台所に立つのは女の仕事ってよく言うでしょ?」
「それ、いつの時代の話ですか」
高月玲奈の部屋で、玲奈と晃一の二人は、互いに軽口を叩き合っていた。その様子は、まるで本当の夫婦のように見える。
美蘭への置き手紙にあった『会社の同僚に宛がある』これは、玲奈の事だった。反省するため、距離を置くために家を出たようにし、浮気相手の家で生活をする。あの裏にはこれほどまでに下衆な目的があったのだ。
「あら、意外に最近よ。私の両親。だいたいそんな感じ」
「前にもそんな事言ってましたけど。あれ、冗談じゃなかったんですね」
晃一はスマホを弄っているふりをしながら、自然に呟くように言った。
「……うん。なんとか大学は行かせてもらえたけど、有名私立ならっていう条件付きだったから。私さ、本当は――」
ぴんぽーん。
この空気を断ち切るかのように鳴り響く。玲奈が包丁を置こうとした時には、既に晃一が立ち上がっていた。別に確信があるわけではない。ただ、不思議な緊迫が二人を包んでいた。
ドアスコープを覗き、声にならぬ悲鳴を上げる。そこにいたのは、久我美蘭だった。