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深夜の東京区西新宿1丁目交差点裏路地
東京都庁地下駐車場を改良して造られた射撃訓練場から、磯海と絢香は帰路へ向かって歩いていた。

代々木にある宿舎までは、徒歩で帰れる距離ということもあって、部屋も隣同士のふたり行動を共にするのが多かった。

互いに白バイ隊出身で、地元は兵庫県と和歌山県。

技能大会では、優勝を争う腕前を持つ両者の間柄は、ライバルであり良き理解者でもあった。

ハスキーボイスの絢香の声を、磯海は愉快そうにからかった。


「また酒灼けか?」

「違うし、元からだし!」


ふてくされる絢香の表情は可愛かった。

磯海は、事あるたびにちょっかいを出した。

疎ましさを感じない、自然体でいられる関係。

磯海はもちろん、絢香もそんな空気が好きだった。

絢香は、男性が恋愛対象ではかったから、それを踏まえて友人として付き合ってくれる磯海には感謝をしていた。


人もまばらな飲み屋街。

開いてる店の大半は、大手のコンビニエンスストアか個人のちいさな居酒屋だった。

その中に、ひときわ古い佇まいの蕎麦屋があって、そこから出てきた中年の男は怒鳴りながら、ふたりの脇を通り過ぎて行った。


「クッソ不味いもん食わしやがって! 二度と来るかってんだ!」


後から出てきた色白の若い女性は、頭を深く垂らしながら何度も謝って、再び店内へと戻って行った。

絢香は、


「えっらそうな客!!」


と、吐き捨てた。

磯海の腹が鳴った。


「ね、面白そうだから食ってこうぜ」

「いいよ」

「なんか俺、腹ペコ」


店の前まで来ると、カツオの出汁の香りがふたりの鼻孔と食欲を刺激した。

古びた暖簾に書かれた『二八蕎麦』の文字と、行燈に描かれた的に矢が刺さった絵柄。

そして、その下の『鈴』の丸文字を見ながら磯海が、


「なんて読むんだろコレ?」

「マトヤスズ?ひよりさん連れて来たかったね」

「何で?」

「だって今日の射撃見たでしょ? 百発百中だったっしょ!」

「あっ!凄かった凄かった!マジびっくりしたし、てかさ、入ろうぜ」


ふたりは、笑いながら店内へと入って行った。





東京が世界地図から消えたあの日の落日

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