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ごきげんよう、シャーリィ=アーキハクトです。今日で私も十七歳になりました。
貴族社会では、結婚して子供が居てもおかしくない年齢ですね。私は目的を達成するその日まで子供を作るつもりはありません。復讐のために、なにより暗黒街で生きる母親など教育に悪すぎますし、妊娠や子育てをする暇などありませんからね。
さて、セレスティンを新たに内政担当として配置し、いよいよ本拠地作りに取りかかります。
道の普請は取り敢えず終了して家屋の建設を開始していますが、やはり時間が掛かります。何とか出来ないかと愛読書『帝国の未来』を読み漁れば、工作機械なるものが存在することを知りました。
現在帝国では燃える石……ライデン社曰く石炭?なるものを燃料とした蒸気機関が少しずつ普及し始めています。その最たる例は物流の革命を起こすとライデン社が喧伝している蒸気機関車?なるものによる鉄道開発です。
それは良いとして、蒸気機関の普及による電力の生産が何を産み出すかを私は六番街で目の当たりにしました。
機械を動かすために必要なのは電気、電気を産み出すために必要なのは燃料。『帝国の未来』曰く更に効率的な石油?なる燃える水もある筈とのことでしたが、まあそれは置いておきます。
機械による文明の発展は様々な恩恵を生みます。我が部隊が僅かに保有する自動車だって、馬車などとは比べ物にならない程の速度を出しますからね。なら、建設などに使える機械もある筈。
例え機械がなくてもそれに準じた工具が手に入れば作業効率は飛躍的に向上する筈。早速ドルマンさんに相談してみました。
「つるはしとスコップ以外の工具だと?そんなの聞いたこともねぇなぁ」
「私もないですが、ライデン社なら何かしらの知恵がある筈。何とか接触できませんか?」
「ううむ……まあ嬢ちゃんはライデン社から見ても上客になるだろうし、一応問い合わせてみる。あんまり期待はするなよ」
「もちろん期待して待っていますよ」
数日後、まさかの回答が寄せられました。
「ライデン社の営業マンがうちに来るらしい。嬢ちゃんと詳しく話したいのだとさ」
まさかライデン社と関わりを持てるとは思いませんでした。
「もちろん大歓迎です。その話を進めてください」
ライデン社は帝国の最先端技術を産み出し続けています。期待するなと言う方が難しいです。
私は来るべき交渉に想いを馳せるのでした。
諸君、ごきげんよう。ライデン社会長ハヤト=ライデンである。最近白髪が増えて歳を実感する日々を過ごしている。
無理もない、この世界に転生して三十年余り。とっくに還暦を越えて七十が目前に迫っているのだ。多少は肉体的な衰えを感じるが、まだまだ現役であるつもりだ。
さて、帝国の近代化は想定よりも時間が掛かっている。旧態依然とした既得権益にしがみつくウジ虫共が原因である。奴らはワシが提示する画期的な技術を片っ端から否定するどころか、ワシが出版した『帝国の未来』を禁書として燃やす蛮行を働いている。
唯一関心を示す軍部も近代化によりそれまでのドクトリンを全て入れ換えねばならず、更に軍内部の保守派が足を引っ張り装備の進化は遅々として進まぬ。
会社としては莫大な利益を挙げてはいるが、ワシ個人としては欲求不満である。
銃の分野で言えばさっさとオートマチックの時代へと突き進みたいのだが。
その為に前世では構造も簡単で頑丈かつ安価で有名なAK―47の試作にも着手している。
今の帝国の技術レベルでは複雑な機構の兵器を開発など夢物語だ。
さて、幸いなことに近代化に必須と言える資源の一つである石炭は、燃焼石と呼ばれてこの世界にも存在していた。
これを用いて蒸気機関を開発、各種工作機械や機関車を産み出して帝国の重工業発展に寄与したと自負している。
だが工作機械の導入、それに伴う効率化による人員の削減は自分達の利益が減ると抵抗を受けて遅々として進まん始末。帝国には既得権益が多くそして強い。
なにより帝室が保守的、事無かれ主義だ。これでは革新など夢のまた夢。
よくある異世界内政モノは、余程周りの理解が得られやすい環境にあるらしいな。ワシは三十年努力してようやく一次大戦レベルに到達させられたかどうかと言うものだ。
それも地域の格差は凄まじいし、今も根強い抵抗がある。為政者の理解を得られない革新的な技術など淘汰されるだけなのだろうか。
そんな中唯一近代化に抵抗が少ない街が存在する。港町シェルドハーフェンである。
帝国の暗黒街がもっとも近代化に積極的なのは皮肉なものだ。まあ、彼処は帝国政府や貴族様の力が及ばないゆえかもしれん。
数年前に『オータムリゾート』だったかな。試作した発電機を売り込んでみたら、支配人を名乗る若いお嬢さんは文字通り飛び付いてきた。
で、電線敷設などを援助したらあっという間に彼女の支配する街は眠らぬ街に進化した。前世の歓楽街に比べれば幼稚だが、電灯で明るく照らされた街並みはどこか懐かしさを感じさせてくれたものだ。まるで明治維新直後の日本のようだ。
ワシは個人的な趣味を優先するためシェルドハーフェンへ積極的に関わるようにした。彼処ならばワシが造った革新的な技術を文句など言わずに飲み込んでくれる。
そして発展していく様は見ていて気持ちが良いものだ。彼等は便利になるしワシは儲けて製作意欲を満たせる。まさにWin-Winの関係だ。ビジネスとは、内政とは斯くあるべし。
その中で興味を引くのは、『暁』なる新興勢力だ。彼等が生産する農作物は前世の味に極めて近く、それ故に『ターラン商会』を経由して取引を行っていた。またかつては同僚だったドワーフの一人ドルマンも『暁』に加わったと聞く。
そんな彼から先日書簡が届いた。内容は、画期的な建設機械等がないかと言う問い合わせだったな。
ドリル、ブルドーザー、クレーン車、トラックなど思い付くものはいくつもある。
生憎まだ石油は見付かっていないが、石炭燃料で動くエンジンを乗せて代用すれば良いか。
それにドルマン曰く、ボスである少女が我が社の技術に強い関心を寄せているのだとか。
確かにドルマン経由で幾つかの試作品を提供してきたが、若いゆえに柔軟な発想の持ち主なのかもしれんな。
『暁』の農産物は味気ないこの世界の食事にうんざりしていたワシの日々を彩ってくれた。その礼も兼ねて、この辺りで直接取引を持ち掛けてみても良いかもしれん。
これが帝国政府や貴族様とのやり取りに疲れ果てていたワシの息抜きになれば良いが。
営業を向かわせるように指示したワシだったが、これが『暁』と、シャーリィ=アーキハクトと言う少女との始めての接触となった。