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「ねぇ、どうしてあの子は『おとうさん』がいないの?」
幼い日の僕は、母さんの服の裾を掴みながら尋ねた。僕の隣では、もう一人の弟であるロランが不思議そうな顔を浮かべていた。
「あぁ、あなたたちはまだ小さかったわね」
母さんは悲し気に微笑んで言った。そして僕らの頭を優しく撫でてくれた。
「お父さんはね、遠いところに行ってしまったのよ。だから、しばらく帰ってこられないの」
「じゃあさ!ぼくがおおきくなってさ、おかあさんをおてつだいしたら、すぐにかえってくるよね!」
僕の言葉を聞いた途端、母さんの顔がさらに悲しみに染まったように見えた。僕は慌てて言葉を付け足す。
「あ、いや、別にいいんだよ! 僕のことを心配してくれてるってことはよくわかったし」
「本当にごめんなさいね……私があなたくらいの頃だったらこんなことなかったんだけど……あの人も……」
そこでまた口をつぐんでしまう母さん。どうしようもない罪悪感に襲われながらも、僕は必死に笑顔を作り続けた。
「謝ることなんて全然ないよ。むしろ感謝してるぐらいだよ!」
「そうなの?」
「うん。だってさ……もし父さんがいたとしたらきっと今のこの状況を悲しんだと思う。もちろん今の父さんのことも大好きだけど、それでもやっぱり昔みたいに笑ってくれた方が嬉しいかな……」
「そっかぁ……そうよね、ありがとうユート」
母さんがようやく笑ってくれたことでホッとすると同時に、今度は申し訳なさを感じてしまう。きっと、俺なんかよりずっと心配していたに違いないからだ。
「母さん……」
俺は謝ろうと思ったのだが――。
『ちょっと待ったぁあ!』
なぜかそこで、姉貴が割り込んできたのだ。
「なんだよ?」
『お義母様! あたしだって心配してましたよっ』
『えぇー?』
すると、母さんは目を細めて疑いの目を向けた。
「なんですか、その反応は!?」
『あなたの場合、心配というよりは面白そうだと思って観察してたんじゃないの?』
「うぐぅ!」
図星だったらしい。姉貴は言葉に詰まって冷や汗を流していた