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ワンピース未来・第一話「バギーの娘パリ」
海賊船が静かに波を切り裂いて進む。青く透き通った海原に、赤い帆が揺れていた。その中心に立つのは、海賊バギー。ピエロのような顔をした彼は、今日も宝探しに余念がなかった。
「おい! お前ら、前方に奇妙な岩場があるぞ!」
見張り役のモージが叫ぶ。
バギーは目を輝かせ、指を鳴らした。
「よーし! 今日はツイてる気がするぜ! お宝の匂いがプンプンするなぁ!」
部下たちを引き連れ、岩場に上陸すると、そこには古びた宝箱がぽつんと置かれていた。海風にさらされ、表面はボロボロになっているが、確かに海賊の宝の象徴だ。
「フッフッフッ……来たな、俺の運がよぉ!」
バギーは震える手で宝箱を開けた。
──中にあったのは、金銀財宝ではなかった。
そこにいたのは、真っ赤な布にくるまれた、小さな女の子の赤ちゃん。
大きな青い瞳がバギーを見上げて、ふにゃりと笑う。
「……な、なんだぁぁぁ!? 赤ちゃん!? なんで宝箱に赤ちゃんなんか入ってんだよ!」
部下たちがどよめく。
「船長、こいつは……捨て子じゃないですかね……?」
「こ、こんなもん拾ってどうするんですかい!? 船で世話なんて無理っスよ!」
みんなが口々に反対する中、バギーは腕を組んでしばし考えた。
だが、赤ちゃんが小さな手をバギーの赤い鼻にちょこんと触れた瞬間──彼は胸の奥がじんわりと熱くなるのを感じた。
「……こいつ、俺に惚れたな!」
「惚れてませんよ!」と部下たちが一斉にツッコむ。
バギーは子どもを高く掲げて、ニヤリと笑った。
「決めた! 俺が育てる!」
「船長、無理ですって!」
「お前ら、俺をナメんじゃねぇぇぇッ! このバギー様にできないことなんてねぇんだよ!」
こうして、赤ちゃんはバギーの娘として育てられることになった。
名前は──バギーが最初に見た、真っ赤な海賊旗の丸印にちなんで、パリと名付けられた。
パリは泣き虫だったが、バギーの赤い鼻を見ると泣き止んだ。
泣きそうになるたびに、バギーは大慌てで自分の鼻を突き出す。
「ほら見ろ! 俺のこの偉大なる鼻を見ろ! 世界一の鼻だぞ!」
そんな調子で、船はいつも騒がしかった。
部下たちは最初こそ呆れていたが、いつしか赤ちゃんに振り回される船長を見て笑うようになった。
ある日、バギーは決意したように赤い布を丸めた玉を作り、首飾りにしてパリに渡した。
「ほら、これが今日からお前の宝だ。俺とおそろいの赤だぞ。俺の娘なら、海賊旗に負けねぇ赤でいなきゃな!」
パリはその赤い玉を握りしめ、にっこり笑った。
それは、バギーにとってどんな財宝よりも価値のある笑顔だった。
月日が流れ、パリは少しずつ成長した。
歩くようになり、喋るようになり、やがてデッキを駆け回るようになる。
「パパー! お船、はやいね!」
「おうともよ! この船は世界一なんだ!」