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梅雨明けからさらに増した湿気を帯びた風は重苦しく、ドラマ内に吹く爽やかな風はいかにフィクションなのかと思い知らされる。


そろそろ一学期の終業まで一週間を切った今日は、クラス全体がどことなく浮かれているようで、こっちまでソワソワと落ち着かない。


夏休みに入ったらどこ行く?

あそこの夏限定イベントがさあ。

海の家でアルバイトすることになって。


休み時間に耳をすませばそこらじゅうから夏の楽しい予定の話題が聞こえてくる。

誰も彼もこんな暑い夏に自分から外に繰り出そうなぞ、若さとは素晴らしい。


そんなどこ視点からなのかわからないことを考える俺も例に漏れず、今年は祖父母の家でしっかり焼けてくる予定なのだが。

下手な日焼けをするとあとが地獄なので日焼け止めを塗るは塗るが、夏休み終わりがちょっと楽しみになるくらいには焼けるのがオチだ。


今夏も 開催予定の勉強合宿はお盆と言っても、7月の終わり辺りにはもう帰省し、10日にバカ三人を招待して一週間ほど合宿をした後、帰るのはどれぐらいかまだ決めていない。

特に友人が多いわけでもないので、この合宿以外に予定は入っておらず、祖父母宅も好きなのでほぼほぼ夏休みはあちらで過ごすようなスケジュールにしている。


まだまだ新婚の父母は夏休み終わり、つまり9月に新婚旅行に行くようで、その準備ということで祖父母宅に泊まるのは元々一日二日の予定だったらしく、すんなりと快諾されたのはこういうことだったのかもしれない。


ちなみにシシルは、新婚夫婦水入らずの時間を過ごすために俺とほぼ同じスケジュールである。

痩せっぽっちな身体で夏バテとか少し心配だ。

ゴールデンウィークの時に初めて行った祖父母宅で、早速俺のいとこであるミアちゃんに気に入られ、そこらじゅうに連れ回されたシシルはその後体調を崩して連休明けに一日寝込んでた。


今回ミアちゃんはお盆の三日間帰省するらしいが、手加減してくれると良いな。と他人事に健闘を祈ると、5限目という名の昼寝時間に備えて目を瞑った。



「どっちの服がいいと思う?」

「……お前が着るの?」


家に帰って昨日買った漫画でも読もうかと部屋に入ると、いくつも服を並べてうんうん悩んでいるシシルがいた。


どちらが良いか。と提示された服は系統の全く違う二つ。

一つはオーバーサイズのTシャツ。グラビティアートの図柄が大きくプリントされている。

そしてもう一方は、大きなシルエットの白いワンピースだった。


もしやこいつは本当に女装癖があるのか、もしくは心と身体が一致しないということか。

いや、どちらも違うような気がする。


高一の初夏、シシルは学校に女子の制服を着てきたことがあった。

それに担任は困惑し、「一応規則だから」と着替えに帰るよう指示し、それに対してシシルも「あ、そっか。」と思い出すように納得して、着替えに帰っていた。


女子制服を着れないことに悲しがるのでもなく、「寝ぼけてネクタイの色間違えちゃった。」とでもいうような照れ臭い表情をしていたシシルのことが、その時はどうも違和感があった。


一緒に住んでいても、シシルはいつもヨレたシャツとショートパンツという過ごしやすい部屋着でいたので、タンスの中がチラッと見えた時にあった可愛い柄の服の存在を知っていても、特に気になることはなかった。


しかしこれはおそらく、「どちらを着たら良いか」と問われているのだろう。


正直どっちも似合わない。こいつはかっこいいというガラでもないし、可愛いというガラでもない。

女装がしたいのか別にどうでも良いのか、女になりたいのかなりたくないのか。

こんなワンピースひとつで話が飛躍しすぎな気もするが、こういう時どう返したら良いのかわからなかった。


「あっそっか、違うよ。俺特に女になりたいとかない。趣味」

「趣味?」

「可愛いじゃん、綺麗なものとか好きなだけ、みたいな。」


合点が行った。そしてコイツにこんな真剣に考えさせられた事実にちょっとムカついた。

女の服に拘ってるわけではない。まず服という概念を丸ごと見ている。ただ自分が良いなと思った服を集めて着ているだけで、そこに隔たりはないということなのだろう。


「どっちも似合わない。」


「ポヤポヤしたお前の顔面にゴツいグラビティアートは合わないし、ふんわりしたワンピースを着ても処理していないすね毛は、どれだけ薄い方だとしてもカッコ悪い。」


ムカついた俺は、ちょっとした意地悪も言って、広げられていた服をブルドーザーのように集めて、シシルに向かって全部ぶん投げた。


「お前は半袖短パンの小学生コーデで十分だろ。」


そう言ってベッドに登ると、シシルは嬉しそうに笑った。

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