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紅蓮
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さのじん
吉田仁人..一般人の人と付き合っているが最近
浮気してない?と彼氏に疑われている
佐野勇斗..吉田仁人の事が好き、
雨が降り出しそうな、重たい夜だった。
「ごめん、ちょっと遅くなる」
吉田仁人はスマホに向かってそう言った。
『また?最近多くない?』
「仕事だから。しょうがないじゃん」
少しだけ棘のある声。
通話を切ったあと、小さくため息をつく。
「……はあ」
その様子を、少し離れた場所から見ている影があった。
勇斗だった。
「また喧嘩?」
タイミングを見計らったように声をかける。
「うわ、びっくりした……勇斗か」
仁人は少し安心したように笑う。
その笑顔に、勇斗は一瞬だけ目を細めた。
「最近、多いね」
「え?」
「電話のあと、いつもその顔」
「……そんな顔してた?」
「してる」
軽く言いながら、自然に隣に立つ。
「大丈夫?」
「うーん……まあ、大丈夫」
そう言いながら、明らかに大丈夫じゃない声。
「なんかさ」
仁人は少し迷ってから口を開く。
「向こう、最近ちょっと疑い深くて」
「疑い?」
「俺が浮気してるんじゃないかって」
勇斗の眉がわずかに動く。
でもすぐに、何も知らない顔に戻った。
「へえ」
「してないのにね」
「そりゃそうでしょ」
軽く笑う。
でもその裏で、勇斗は思い出していた。
——数日前。
『最近さ、仁人の様子おかしくない?』
画面越しの、仁人の恋人とのDM
『そうですか?』
『なんか隠してる感じがして』
『……言うか迷ったんですけど』
『え?なに?』
『最近、仕事終わりに誰かと会ってるみたいで』
『は?』
『僕も偶然見ただけなんですけど』
『男の人でした』
『……誰、それ』
『そこまでは……でも、かなり親しそうでした』
わざと曖昧に、でも確実に不安を煽る。
『……まじかよ』
『勘違いだったらすみません』
優しい声で締める。
——そして今。
「まあ、気にしすぎじゃない?」
勇斗は何もなかったかのように言う。
「証拠もないのに疑うの、ちょっとしんどいよね」
「……うん」
仁人はうつむく。
「俺、ちゃんとやってるのにさ」
「だよね」
優しく相槌を打ちながら、ほんの少しだけ距離を詰める。
「仁人、そういうの向いてないもん」
「え?」
「疑われるの」
くすっと笑う。
「全部顔に出るし」
「それは……否定できない」
少しだけ、空気が和らぐ。
でもその瞬間、スマホが震えた。
画面を見る仁人の顔が曇る。
「……また?」
「うん」
着信の名前。
恋人からだった。
「出れば?」
「……いいや」
その一言に、勇斗はわずかに目を細めた。
「出ないの?」
「今出ても、また疑われるだけだし」
「そっか」
勇斗は静かに頷く。
「じゃあさ」
「うん?」
「今日はもう、俺といれば?」
自然すぎる提案。
「……いいの?」
「いいよ」
即答。
「どうせ帰っても、また喧嘩でしょ」
「……まあ」
否定できない。
「だったらさ」
少しだけ、声が低くなる。
「落ち着くとこいた方がいいじゃん」
仁人は少し考えてから、小さく頷いた。
「……じゃあ、少しだけ」
「うん」
その答えに、勇斗は満足そうに微笑む。
バレないように。
ゆっくりと。
確実に二人の関係を。
壊していく。
勇斗の部屋。
「なんか……落ち着く」
ソファに座った仁人がぽつりと言う。
「でしょ」
飲み物を差し出しながら、勇斗は笑う。
「ここ、静かだし」
「……うん」
少しの沈黙。
「さっきのさ」
勇斗が切り出す。
「本当に大丈夫?」
「なにが?」
「その人とのこと」
仁人は視線を落とす。
「……わかんない」
「え?」
「好きは好きなんだけど」
ぽつりぽつりと、本音がこぼれる。
「なんか、最近疲れる」
その言葉に、勇斗の目がゆっくり細くなる。
「そっか」
優しく頷く。
「無理しなくていいのにね」
「……でも恋人だし」
「うん」
一度肯定してから。
「でもさ」
少しだけ間を置く。
「しんどいのに続けるのって、どうなんだろうね」
仁人が顔を上げる。
「……どういう意味?」
「そのままの意味」
穏やかな笑顔。
でも逃げ場を奪う言い方。
「仁人が楽しくないなら、それって」
「……」
「ちゃんとした関係って言えるのかなって」
言葉が刺さる。
「……そんな簡単に言うなよ」
少しだけ強い声。
「簡単じゃないよ」
勇斗は静かに返す。
「だから言ってる」
「……」
「仁人がしんどそうなの、見てるの嫌なんだよね」
その言葉に、仁人の表情が揺れる。
「……優しいね」
「そう?」
「うん」
小さく笑う。
その無防備な顔に、勇斗は一瞬だけ息を止めた。
(あと少し)
「ねえ仁人」
「なに?」
「もしさ」
低く、柔らかい声。
「その人と別れたら、どうする?」
「……え?」
「楽になるんじゃない?」
静かに、確実に。
「今より」
仁人は何も言えない。
ただ、迷いだけが顔に出る。
その様子を見て、勇斗は心の中で笑った。
(もうすぐだ)
「無理にとは言わないけど」
最後に、優しく蓋をする。
「仁人が楽な方、選べばいいよ」
沈黙。
長い、長い沈黙。
そして。
「……ちょっと考える」
小さな声。
その一言で、十分だった。
勇斗は穏やかに笑う。
「うん、それでいい」
——全部、計画通りにしてみせる。
𝓉ℴ 𝒷ℯ 𝒸ℴ𝓃𝓉𝒾𝓃𝓊ℯ𝒹