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「ところで、ジョージア様。お手紙に書いてありました打ち明けたいこととは何でございましょう?」
「それは……」
ジョージアは、私の質問に詰まってしまう。兄のこともあるので、大体想像はつきそうなものだったためこちらから聞いてみることにした。
「もしかして、ジョージア様の卒業式のお誘いですか?」
「……あぁ、そうなんだ。俺の卒業式でパートナーとして出てほしい。ひと時の思い出で構わないし、他に決まっているなら断ってくれて構わない。女の子たちからするとそのパートナーの意味することは、何なのか心得ているつもりだから……」
想像はしていたが、私は、その誘いが単純に嬉しかった。卒業式のエスコートは、『予知夢』では、見ていないお誘いだったのだ。女の子として、私だって卒業式のパートナーは、とても憧れている。来年の婚約のことを考えても、卒業式に誰かと一緒に出ることはできないと諦めていた。今回の申出は、婚約者となる予定のジョージアに誘ってもらえたことが何より嬉しい!
『予知夢』での、冷めきった結婚生活を見ていた私は、この夢のような出来事に胸が躍らないはずはない。きっと、今回の卒業式で、私が誘われることはないだろうとも思っていたのだ。何せ、集団政略結婚の1つにすぎない未来の旦那様のジョージア様なのだから、そこまで行動はされないと想像していた。まさかの誤算で嬉しい。
頬が……熱い。
「返事は後日でいい。家族とも話し合って決めてくれ」
「いいですよ。ジョージア様が卒業式のパートナーとして私を選んでくれるなら、エスコートをお願いしてもかまいませんか?」
ジョージアは、下を向いてこちらを見ない。しかも、肩が落ちているのだ。
誘っておいて、落ち込むってどういうことなのだろう?
「あの……ジョージア様? 大丈夫ですか?」
「あぁ……大丈夫だ。断られるのは、もう覚悟してきた……んだ……?」
「いえ、私、お受けしましたよ?」
やっと、言葉が通じたのか、ジョージアがこちらをみて驚いていた。逆に私のほうが身構えてしまいそうになる。
「卒業式のパートナー、謹んでお受けします! よろしくお願いします!」
「本当にいいのか? 王子でなく、俺で?」
何故、殿下がでてくるのだろうか……?
卒業式は、卒業生の式典だ。確かに在校生も出席して構わないことになっている。それも、パートナー同伴で。私は、兄の卒業式でもあるので、家族枠で行くことにはなっていた。夏季休暇明けぐらいから、卒業式のパートナーというようなお話もあるんじゃないかと家族で話し合っていたところだ。
でも、殿下は、色々問題が生じるので断るの一択である。よくて、ハリーかな?くらいに思っていたのだ。
そこに降ってわいてきた、ジョージアのパートナーだった。
「はい、もちろんです。ひとときの思い出として、誘ってくださったのでしょう? お噂は聞いています。ご婚約を控えている方がいると。その方でなく、私を選んでくださるとおっしゃってくれましたので、ちょっと優越感に浸りたいですね? 人のものを奪う趣味はございませんが、私、ジョージア様も大好きですから!」
さすがに、臆面もなく大好きは言い過ぎた気がする。
ジョージア様も真っ赤になっているわ……。
でも、ソフィアのことも知っていることはちゃんと伝えておかなければならないので、ひとときの思い出ということで話を今回は纏めようと思う。
「ありがとう。アンナはソフィアのこと、知っていたんだね。それでも、応えてくれたんだ?」
「そうですね。銀髪の君のことは、入学当初から有名でしたから知っていました。ソフィアさんと婚約されていると噂も。でも、ジョージア様は、まだ婚約されていないのでしょ? 確か、ソフィアさんは男爵位の令嬢でしたね。家格が違うので婚約までには、それなりに大変そうですね……?」
ソフィアのことは、たぶん私には隠しておきたいことだったのだろう。残念そうにしている。たしか、押し切られて婚約するんですものね。もう少し、上手に生きられたらいいのだろうけど、ジョージア様も不器用な生き様なのだろう。聞いたところによると、ソフィアは結構な気性の持ち主だというしね。
「そうだね。たぶん、卒業してすぐには婚約は決まらないはずだ。両親が反対しているからね。強引に決めてしまえば、禍根も残るだろうし……」
「そうですね。婚姻はお家同士の話になりますからね。私はソフィアさんを見たことがないのでわかりませんが、ジョージア様は、卒業後、領地の勉強もあるでしょうし……これからが大変なのですね。でも、決して心折らないでくださいね! ジョージア様にも、いいことがきっとありますから! 私、保証しますよ! あっ……悪いことも保証しそうですけどね……」
ソフィアのことになると、頭の痛い思いだろう。ジョージアの卒業するまでは、表だっての交渉は避けることになっていたのに、現在男爵本人が出張ってきているとなると心労はすごいことになるな。
「卒業式、楽しみにしています。ドレス等の話もありますので、また、兄を通じて招待します。お手数をかけてしまいますが、我が家に来ていただけますか?」
「もちろんだよ。また、サシャと打ち合わせしておいてくれ」
「わかりました。そうそう、ジョージア様のパートナーは、謎のままにしておきましょう。きっと、話題になりますよ!」
ふふふと悪い顔で笑っておく。ジョージアも思わずつられてしまったようだ。
「あぁ、楽しみだ。パートナーはいるが当日までの秘密としよう!」
「はい」と元気な返事をしておく。卒業式が、とても楽しみだ。
「かなり、長居をしてしまった……では、また、招待して」
「よろこんで!」 と返事をしたところで、今日はお開きだった。ジョージアを玄関まで送っていくと、兄にもよろしくと去っていく。その姿を見送った。
そのあと、兄もエリザベスとゆっくり話ができた様子で、自室へ戻ってくる。兄の部屋に居座っていた私は、ホクホク顔の兄に安心した。
「よかったですね。お兄様。エスコートは決まりましたか?」
「持つべきものは、かわいい妹だね」
現金な兄であるが、それでもいいのだ。エリザベスとならいい将来を迎えられる。
「ジョージア様が、お兄様によろしくと伝言を。それから、私も受けましたのでこれからもお屋敷に招待してくださいね!」
それだけ言うと部屋から出ていこうとしたら、兄に手首をつかまれる。若干厳しい顔でこちらを見ていた。
「本当にいいのか? 父の話だと殿下からの縁談もあると……」
「えぇ、いいえですわ。殿下には、さほどの興味もないですから……ちゃんと、悩んで決めたのです。今日ご一緒できてさらに思いました。覆すつもりはありません。ご心配かけますが、私は私の一生をかけたいと思える人に出会えましたよ。お兄様も、ジョージア様と仲良くしてくださいね!」
兄ににっこり笑顔を向けると、つかんでいた手を離し、「そうか……」と返事をしてくれたのだった。