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隼斗篇
いざ外へ出ようとしたら先刻までの空は嘘のように真っ暗で突然の土砂降りが行く手を阻んだ。
爪先で自動ドアの先へ出ようとして急遽反身振り返って飛び込むようにまた店の中へ戻った。
何時ものように濡れて帰れる程度の雨ではない。
傘を持たずにいると足止めを食らう。
嵐の如く強い風雨と雷が鳴り響く。
少し傾斜のある路面はまるで大河のように大量の雨が流れ続けている。
つい先刻の青空の残像が脳裏に映って、夕焼けも見ず夜になった感覚は胸の内に言い知れぬ不安を呼び起こした。何か気が紛れることでも考えていないと外の暗闇に圧し潰されそうになった。
「気圧が低いのかな」
胸騒ぎを台風接近の所為にしてみる。
予測不能な突然のスコールは島の真夏の風物詩だが弊害も多い。
大地はコンクリートで封じ込められて息も苦しいから時々呼吸をする為に穴を穿つ。
琉球石灰岩の弱点を突いてくる大量の雨は容易くアスファルトで覆った道路の下の地面をも根刮ぎ洗い流してしまう。
この島で年中無休何某ら道路工事が続くのは自然の猛威に勝てないからか。
近年、景観が好いからと島の土壌の性質を知らずに山の岨に豪邸を建てる大陸からの移住者も増えたが地盤が悪いと豪邸ごと崖下に流されて落ちるのは覚悟の上だろうから島人は敢えて警告しない。
危険な場所に家を建て落ちているのは島民も同じである。
でも後者は他に土地がなくて 致し方なく危険を承知で其所に住むより他ない。
そんな事を他愛なく思いながら時をやり過ごし次々と売れていくビニール傘を横目に僕は他が通れるように入口の傍へと逸れた。
皆一様に夕刻に追われているのか急ぎ家路に着くのだ。
真っ暗な外の景色が突然激しく煇った。
僕は透かさず「いち、に、さん、よん、ご、ろ・・・」
稲光の瞬間から秒数を詠んで距離を計るのは僕の習慣だ。
雷電霹靂を確かめて「音速1秒340mだから6を掛けて少し引いても約2km以内か、やや近いな」中学の理科が役に立つ。
傘を差して外を歩いたら危険を伴う範囲だ。どうせ懐中の剰銭を見てもビニール傘は買えない。
懐の空しさを再び押し込んで誤魔化すように硝子越しに外を窺うと刹那の爆音が耳を劈く。女性店員の金切声と同時に店の中が暗くなった。
「停電か、今度のは測る暇もなかった。近くで落ちたんだ。あ、点いた」また直ぐ電気が戻って店内は明るくなった。
コンビニに自家発電が設置されているとも思えない。多分UPS(無停電電源装置)で照明が稼働したのだ。
案の定、コピー機は止まったままで客が店長 に詰め寄っている。
仕方ないUPSではレジと照明ぐらいしか電力を賄えない。半世紀前のコンビニと何ら変わらない設備らしい。
もし戦争が起こらなかったらこの時代はもっと未来を行っただろうか、自然の猛威も物とも為ぬ。
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