「これが最後なら」
紀坂(きさか)の温もりに包まれたまま、どれくらい泣いただろうか。
泣いて泣いて、心の中がからっぽになるくらい泣けば、暗い気持ちもいつの間にか流れ落ちていた。
だけど今度は紀坂に抱きしめてもらっている状態にそわそわし、身じろぎをすると、彼は腕の力をゆるめて私の顔を覗き込んだ。
「どうやら全部流れきったみたいだね」
「……え?」
なんのことだろうと思うより先に、紀坂は私に右指の人差し指を見せた。
マスカラで黒くなった指を見て、彼の言った意味がわかり、勢いよく顔を下へ向ける。
「み、見ないでください」
化粧が全部落ちたどころか、きっと目も当てられない顔だ。
慌てて片手で顔を覆えば、彼はおかしそうに笑って私から体を離す。
「今更だよ。それに、君の泣き顔を見るのは、これが初めてじゃない」
「え……」
初めてじゃない……?
紀坂に泣いているところを見られ******************
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