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目を覚ますとベッドの上だった。
あちゃー、またやってしもたんかなぁ…
“また”というのも、徹夜を続けていると偶に倒れてしまう時がある。それを見兼ねたしんぺいさんが
「次同じ事したら、そん時は俺にお尻向けてね」
と僕に向けられたどす黒い笑顔は記憶に新しい。
此処は僕の部屋じゃない、ということは医務室かな?と思ったりもしたがどうもあの白い天井は何処にも見当たらず、代わりにいかにも高級そうな天井が僕を見つめ返している。
自分で言うのも何だが、僕はそれ程頭が悪い訳じゃない。寧ろ良い方だと思う。
倒れる前に見た金色に輝く髪、この部屋、加えて最後に耳にした心地の良いバリトンボイス。
ここまで情報が提示されていて、この部屋の主が分からないわけが無い。
「やっと目が覚めたか」
カツカツと足音ですら気品が漂っている。僕の顔を覗き込むのは我等が総統、グルッペン・フューラー。
「目は覚めたんですけど、なぁんで僕がグルさんの部屋にいるんですかねぇ」
「嗚呼、流石に食事の時間も部屋に篭っているのはおかしいと思うのは必然だ。」
「それで様子を見に行ったら目の前でお前が倒れたんで、俺の部屋に連れてきたんだが?」
心配…してくれたんや。
…でも、倒れたんなら医務室に運べば良かったのでは?
そんな僕の思考を読み取ったかのようにグルさんは次の言葉を紡いだ。
「今日はしんぺい神がいないんだ。…それに、」
背中のものは、見られて良いものでは無いのだろう?
そう言われて、ハッと思い出した。
背中に居座る人ならざるものの象徴の存在を。
「あ…僕、こんな……どう、したら…」
「トントン、俺がいる。大丈夫だ。」
落ちそうになる意識を引き戻したのは、全てを受け入れてくれるような声。
彼から発せられる大丈夫は、理屈など関係なく人を安心させる力がある。
少しづつ落ち着きを取り戻した頃、グルさんはフッと笑ってから僕を見て…僕を?
違う。僕に誰かを重ねているのか分からないが、どこか遠くを見ながらこう言った。
「お前は“現世”でも、1人で抱え込む所は変わらないんだな」
現世?一体何を言ってるんやろ?
……まさかお薬が足りてない…?
「嗚呼、トン氏は記憶を引き継いではいなかったのか」
グルさんは僕の額にゆっくりと手を当てる。
その瞬間、知らないはずなのにどこか懐かしい記憶が流れ込んできた。
どの記憶にも、僕じゃない僕が映っていた。
『僕トントンは……人狼です』
『オ前、仲間、チガウ?』
『トントンは、死なないよ?』
世界は違えど、どの僕もグルさんより先に死んでいた。後から続けて流れてくるのは、残されたグルさんの懺悔に似た後悔の言葉。
『人狼になったんは、俺達を助けるためやったんやろ?』
『少しは俺を頼って、助けを求めても良かったじゃないか…』
『_トントンが居なければ、何の意味も無いのに……ッ』
記憶の中と、目の前のグルさんの言葉が重なる。
『今回も俺を頼ってはくれないのか?』
そう手を差し出すグルさんの声は、心無しかいつもより震えて弱々しく感じた。
そんなグルさんを見て、失礼だとは思うけど少しだけ、少しだけ……嬉しくて笑ってしまった。
普段はあんなに堂々と演説を行い、戦場ではそのカリスマ的な才能をフルに使いどんなに不利な状況でも自軍を勝利へと導いてしまうような人が、たった1人の幹部のためにずっと昔から同じ痛みを分とうと悩んでいたなんて。
「僕、頼ってもええの?」
顔がパァッと明るくなっていくグルさん。まるでその言葉を待っていたんだゾ!とでも言うように。
「ああ!存分に頼れ!!」
……なんや、僕、もっと早くに頼ってれば良かったなぁ。
だって、こんなにも僕を想ってくれる人がいたんやから。
差し出された手を取り、ちょっと照れくさいけどはっきりと目を見て。
「……ありがとな、グルさん。」
いつの間にか、背中の純白は何処かへと消えていた。
fin.