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「どうすんの、これ? ビフロンスさん家のシロちゃんだってよ! あんた今、全ての犬派を敵に回してるわよ?」
コユキの言葉に答える事も無く、パズスはチロの行方に夢中であった、故に言葉を漏らしてしまうのであった。
「チロ、チロ…… どこにいると言うのだ…… お前は…… 一体、どこに……」
答えてフェンリルのシロが面倒臭そうに答えた。
「あ、チロですか? あいつだったら今、あそこの小屋の中で寝てると思いますけどね」
顎を振って示した先には、みすぼらしい掘っ立て小屋っぽい犬用の住処(すみか)が設(しつら)えてあった。
覗き込んだ一行の目には先程の二頭とは似ても似付かぬ茶色の巨大な犬(狼?)が映っていた。
善悪は思った、全然違うじゃねぇか、と……
コユキも同様に感じていたのであろう、ゆえに言葉も無く行動に移したのである。
コユキは誰かに確認を取る事も無く、又周囲も何かを言うでも無い状況の中、静かに首輪をサクッと行くのであった。
途端に、本来の姿を現したチロは、見事なオルトロス、所謂(いわゆる)、双頭の魔狼の姿であった。
本来の姿に戻った事で、何か感じる所でもあったのか、モゾモゾ目を開ける三交代勤務交代直後の魔狼は、目の前にいたパズスに話し掛けるのであった。
「むにゃむにゃ、はぁ~あぁ! ん、あれ? 若(も)しかして、てかしなくてもパズっちじゃん? 何、オイラになんか用?」
オルトロスのチロちゃんの両目は、見事に3であった、完全に寝不足であった。
コユキは、遠慮気味ではあったが分かり易いフラグを踏んでしまったパズスに対して、ボソボソと口に出した。
「ねぇ、アンタ…… どうすんの、これ?」
答えてパズスが言った、自身満々に!
「は? 何がですか? どうするとは? 今、数十年振りに我が最愛のチロを見つけ出した私の喜びに勝る事はございません! コユキ様、善悪様! パズスは大満足でございます!」
あぁ――、そうかそうか、パズスの鉄壁って、フィジカルの事だけじゃなくて、メンタルも含めてだったんだねぇ~と、コユキが理解した瞬間であった。
鋼(ハガネ)の精神に感服一入(かんぷくひとしお)のコユキに善悪が言った。
「まあ、そろそろ、城の攻略に向かうでござるよ! 大分時間も消費してしまったでござるし…… とは言え……」
「そうだねぇ~」
答えたコユキと善悪の目の前には、間違った事を誤魔化すように、必要以上にチロをモフモフし続ける、ワザとらしいパズスの姿があった。
もうパズスはチロにメロメロであった、気持ちは分かる、存分にモフってれば良いよ、コユキは思ったのであった。
魔界って思ったより狭いみたいだな、って善悪も思うのであった。
「んじゃ、入れてもらうわね、チロ、パズスも(ついでに)クロとシロも、ここに残れば良いんじゃない?」
「「ワンっ!」」
すかさず答えたちゃんとしているクロとシロ、チロはウザったそうにパズスのスキンシップに耐える事に夢中で答える余裕も無い様であった。
それも含めて、全部良い!
そんな優しいコユキの思いを踏みにじる様に、空気を読まない、読め無い『馬鹿』共がこの場に押し寄せて来たのであった。
やって来たのは先ほど善悪が屠(ほふ)り続けたのと同じ下位悪魔……
レッサーデーモン達は、群れをなして、コユキと善悪、そして『聖女と愉快な仲間たち』とチロクロシロに襲いかかって来たのであった。
思わず、いつも冷静な、極(ごく)偶に(たまに)、いや割としょっちゅうおかしい善悪が叫んだのである!
「コユキちゃん! 先に行くのでござる! ここは某と、皆に任せるで、ござる!!」
コユキに隠れて、実は虎○の羊羹を七つ完食していた善悪は自身満々で叫んだのであった。
そんな事は知らないコユキは、お人好しな笑顔を浮かべて答えた。
「うん、任せたけど…… 死なないでね! よしおちゃん!」
「りょ」
早速城の中へと向かおうとしたコユキを止めたのは、他ならぬケルベロスとフェンリル、クロとシロの二頭であった。
「我を解放せし聖女に問う! そなたはこの城の中に誰が待ち受けるのか、それを知り得るのか?」
「その通り、知らずに踏み込めば必ず敗れる…… それを知らずに挑めば必ず負ける、その意味を知りぬるかな?」
コユキは言った。
「なに? それ?」
クロとシロが続けて答えた。
「やはりな、ふふふ…… この城の中、七階までの各階の守護者は、『大罪』、人間の悪想念の|権化《ごんげ》である」
「人の想いをその神器では祓う(はらう)事は叶わぬ、勿論、幽鬼たる彼奴等(きゃつら)に物理攻撃は意味無きこと…… そなたは、魂とその心の叫び、言葉だけで彼奴等に勝たねばならぬ……」
コユキがハテナを顔面に浮かべていると、続けて、犬、クロとシロが言葉にしたのであった。
「我を解放せし、聖女、コユキよ、そなたの叡智(えいち)こそが世界を救うのだと、正しく(まさしく)理解せよ」
「貴女が挑戦し、抗う姿こそが人々の希望となる事でしょう、見守りましょう、この場所に留まり貴女とその血族の歩みを!」
「えっと? イマイチ分かんないんだけど、取り合えず、行ってもいいのかな?」
「「ええ、勿論、はいです、いってらっしゃいませ!」」
「はぁ~あぁ! 頑張ってね!」
急に元気に答えたクロ、シロに続いて眠たくて仕方が無いチロまで答えてくれたのであった。
良く分からなかったが、その三つの声に押されるように、コユキはボシェット城の大きな扉を、ウンショウンショと押して中に入って行くのであった。