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安堵して杜若様の逞しい胸に額を寄せる。暖かい体温に微かに香る白檀の香り。
杜若様が来てくれた。それだけで嬉しい。
良かったと、心を覆い尽くしていた不安な気持ちが一気に消えた。
むしろ、ほっとして涙が出てきそうになったが、残った土蜘蛛達はより一層、天に向かって怨嗟の声を上げた。
その声に緩んだ涙腺が引き締り、びくりと体を震わせてしまう。
なのに杜若様は怯むこともせず「うるさい」と小さく呟くだけ。
土蜘蛛達は黒い光によって数がかなり減っていた。体が半分になったもの。脚が欠けてしまったもの。傷を負った土蜘蛛達がいたが、それらはまだ執念深く動いていた。
そうして動ける土蜘蛛達は団結したかのように、もつれ合い。重なりあい。結合し合い。
ぶくぶくと醜く膨れ上がって車よりも大きくなった。
土蜘蛛の鬼面には金色の目玉が幾つもボコボコと張り付き。それぞれが、大きな夏蜜柑や西瓜ぐらいの大きさをしていた。
そのあまりの|醜穢《しゅうわい》さに声を上げる。
「か、杜若様っ。土蜘蛛達がっ」
「あぁ。的が集まって助かる」
「!?」
杜若様の横顔には一切の焦りも浮かんでいなかった。
そもそも、私を片手で抱えていて刀なんて使えないのでは? 本当に大丈夫なのかと思ってしまう。
そのとき一匹の巨大な塊になった土蜘蛛が、無数の剣山みたいな顎をぱかりと開けて、ギシャァァと空を引き裂くような雄叫びを上げた。
咆哮消えやまぬなか、
土蜘蛛は杜若様目掛けて、死に神の鎌のような鋭い脚を振りかざす!
私が思わずごくりと喉を鳴らすと、杜若様は焦りもせず、静かに刀を真横に薙いだ。
「──|黒洞《こくどう》」
その声と同時に。
視界いっぱいにあの、黒い光が放たれた。
微かな金属音がしたかと思うと、巨大な土蜘蛛の体を黒い光が暗幕のように包み込む。
まるで光さえ飲み込む暗幕が天から降りたようで、神秘的でさえあった。
「これが黒洞……」
恐るべき力を目の前にして、息をするのも忘れてしまいそうになった。
そして黒い光が内側へとキュンっと収縮すると、そこには巨大な土蜘蛛の体はどこにも無かった。
ただ広い空き地があり、風がふわっと地面を撫でて土煙を舞い上がらせた。
「す、凄い……土蜘蛛が全部消えちゃった」
これが帝都の剣。
杜若鷹夜様。
その実力を目の当たりにして呆然とする。
「いや。わざと、一片残した」
「えっ」
杜若様の恐ろしいぐらいの冷静な声と同時に、杜若様が刀で足元の地面をドスっと貫く。
するとぐちゃっと、トマトを潰したかのような音がした。
そちらへと視線を向けると、そこにはあの夏蜜柑大の大きな──土蜘蛛の目玉が落ちていた。
しかも目玉は刀で貫かれても、ビクビクと動いていた。
「~~っ!」
ひっとまた杜若様にしがみつくと、私の体に回っていた杜若様の手が頭へと移動して、まるで落ち着けと言われてるように頭を撫でられた。
「さて。土蜘蛛よ。この茶番劇はなんだ。本体を地中奥深くに隠し。このようにくだらぬ幼生を帝都に寄越して、俺の妻を追いかけ回すなど──まるで変態。大妖の名も落ちたもんだな?」
杜若様の声に目玉の瞳孔が激しく収縮する。
その動きで怒りを露わにしているのがわかった。
それでも杜若様の声は止まらない。