亮平 side
🗒️ねぇ亮平本当は幸せじゃない?無理してない?本当に俺と一緒に居て幸せ?亮平から愛想尽かされそうで不安で逃げ出したいです。
自分で書いたかと疑うくらい、今の俺の気持ちを言葉に綴ったら翔太と全く同じ事を書くだろう〝別れたい〟と告げた翔太に聞こえないと押し除けた酷い男は、逃げ道を作ってあげなかった事に後悔した。
📩『お疲れ様何事もなく過ごせた?明日は台風の影響で天気が崩れそうだよ。東京は晴れてるよ。お仕事頑張ってファイト!』
努めて明るく振る舞おう…明日からは。
タイミングのいい奴…ただそれだけの事。着信を知らせる振動に縋る思いでボタンを押すといつもの明るい間抜けな声が耳を震わせた。
亮平📲『助けて佐久間』
分かりやすくヒーローみたいにすっ飛んできた佐久間は如何にもヒーローみたいに〝佐久間さん参上お姫様困り事ですか〟なんて言って女の子扱いに敏感になっている俺は、床に転がる枕を鷲掴みすると顔面目掛けて投げつけた。俺の顔を見るなり小さな身体のくせに物凄い力で俺を抱きしめると〝酷い顔してる〟と言って優しく背中を摩った。
バルコニーで二人毛布に包まって空を見上げた。新月の今日は輪郭だけを空に残して瞬く星々を羨ましそうに見つめている。
大介🩷『何処行ったお月様?』
亮平💚『かくれんぼ中』
大介🩷『俺らもかくれんぼする?どっか行っちゃう二人で…誰が来たんだよ何があった?俺には言えないこと? 』
教えないと言った俺に〝呼び出しといて酷いねぇ〟
なんて言っていつも通りの佐久間とのやり取りは心地良かった。
亮平💚『あら何でも屋さんでしょ?』
リビングに転がる空のワインに赤く染まったカーディガン…何かあったに決まってるのに無理に詮索しないのがこいつの良いところだ。心地良い温もりに抱き締められて〝翔太帰ってくるまで甘えさせて〟肩をグッと力強く引き寄せられ、無言で語られた了解の合図に涙が溢れた。リビングに戻りソファーの上で抱きしめられるとそのまま目を閉じて眠った。
鼻をくすぐる甘い香りに目を覚ますとバターがジューッと音を立てて甘い香りから香ばしい匂いに変化するとブルーにペンギンのワッペンの付いたエプロンを付けた佐久間が〝おぅ起きたかおはよう亮平〟爽やかな笑顔に似つかわしくない幼稚なエプロンに翔太の笑顔が重なった。
大介🩷『朝から泣くなよ…趣味の悪いエプロン借りたぞ』
〝俺のじゃないわ〟テーブルに座ったと同時に出されたフレンチトーストに蜂蜜を上からたっぷりとかけた佐久間は豪快にナイフとフォークを使い大きな口を開けると頬張っている〝食わねえのか?甘いの食うと元気出るぞ〟嘘か誠か訝しげな俺は縋る思いで手にした蜂蜜をバカみたいにあるだけ掛けた〝イイねぇクレイジー阿部〟とクスクス笑った佐久間は今朝も安定のカッコ良さだ。
吐き気がする程甘いフレンチトーストは心をほっこり温めた。いつの間にか自然と笑う俺を見て〝やっと笑った〟と言った佐久間にまた涙が溢れ出た。ふっかふっかのフレンチトーストを口に押し込んで泣きながら食べる俺は子供みたいだった。
大介🩷『どっか行くか?遠くに』
亮平💚『昨日から何なのそれ?何処連れてく気よ』
翔太は落ち込んだら遠くに行きたい連れてけって言うらしい。元気になるんだって・・・佐久間となら3人もありかもなんて思ってしまった自分が淺ましい。
亮平💚『もしね、もしよ…俺と翔太が別れるような事あったら、翔太の事お願い出来る?』
〝どう言う意味〟
俺が翔太といる事で不幸な目に遭わせてしまっているのだとすれば、それは本意ではないし、きっと翔太は俺じゃなくても幸せになれる。だって、俺じゃなきゃいけない理由なんてないのだから。
意地を張れば張るほど翔太を苦しめているような気がして、だんだんと弱気になっていく俺の心は、先程までふっかふかだったフレンチトーストが、時間の経過とともに萎んでいく光景と重なった。
亮平💚『佐久間…正にこれだよ』
お皿に残るフレンチトーストをナイフで突ついた。
亮平💚『俺の心と一緒萎んでいくよ。翔太を愛していいのか分からない。もうどうしたらいいのか分からないんだ』
大介🩷『重症だな…真面目すぎんのお前は』
背後から抱き竦めた佐久間は優しく頰にキスをした。両手に添えられた佐久間の手が器用にトーストに切り込みを入れると、俺の口に無理矢理突っ込んだ。
大介🩷『見てみ!突つかれたり、時間経つと空気抜けて萎んでくんだよ。昨夜誰が来たか知んねえけどそいつに突つかれて一時的に凹んでるだけだ!お前の代わりは誰も居ねんだよ』
亮平💚『うぅう゛何で今日は凄くカッコいいんだよ…』
大介🩷『今日もだろ…フレンチトーストとお前一緒にすんなよ…バカじゃねの勉強してこなかったのか?』
泣き喚いて反論しない俺に〝いつもみたいに言い返せよ亮平〟フレンチトーストより甘い抱擁。優しく抱き上げられソファーに座り、俺をギュッと抱き締めて離さなかった。泣き止まないと離さないって言った癖に泣き止んでも俺をいつまでも抱き締めて頭を、背中を撫で続けてくれた。
亮平💚『佐久間には今の俺どう見える?』
いつの間にか日は昇り、時計の針を見るととっくにお昼の時間は終わってる。時折空腹を告げる佐久間のお腹を〝もう少しだけあと少しだけ待って〟と撫でては宥めた。
大介🩷『まだ元気じゃないね…それに…やっぱいい』
〝口籠るなよ💢言えよ〟佐久間はおでこに手を置くと前髪を掻き上げキスをした〝昔のお前に戻ったみたいだ…おいなんだよ泣くなよ〟聞くんじゃなかった。昨夜からの抱擁が全部ぱあだ。蓮の言ってることが正しいじゃないか…なんか悪い事言ったか?なんて狼狽える佐久間は全然悪くないよ。全部俺が悪いんだから。
〝一回でこんなに変わるんだね〟〝翔太もきっと気付いてる〟駄目だ…回復には程遠い。傷ついた心の修復には時間が全然足りない。
亮平💚『佐久間遠くに連れてけ…俺はもう翔太に会えない』
大介🩷『バカ言え…もうタイムアウトだ。発車しちまったよ』
亮平💚『お前自家用車だろ💢もっとマシな嘘つけよ』
大介🩷『イイねぇその調子…頑張れ亮平。自分から手を離すな!前車之轍を踏め俺みたいになるな』
亮平💚『それを言うなら後車之誡だ馬鹿者💢無理矢理難しい言葉使ってんじゃないよ馬鹿なくせに』
大介🩷『いいよぉ〜本調子じゃん。今も昔もお前は可愛くっていい奴だ。頭が良くて皆んなに優しい///そんな自慢の元カノさんだよ。翔太が惚れるはずだよ自信持て』
〝いちいちカッコいいの何なんだよ〟一日中優しくってカッコいい。誉め殺しにあって悪い気分はしない。感情がジェットコースターのように上がったり下がったりする。俺の心は海底に沈まないように佐久間によって引き上げられた。
刻一刻と近付く翔太の帰りをカチカチと秒針がカウントしている。いつもより早く動いてんじゃないよ💢時計の針を睨みつけると手首を掴まれ勢いよく引かれて立ち上がるとニヤニヤ笑った佐久間は〝もう限界腹減った飯行こうぜ〟脂ぎったぎったの二郎系ラーメン。しかも〝何処か遠くに行こう〟と言った奴とは思えない徒歩で5分のラーメン屋に連れて行かれる。
大介🩷『全乗っけニンニク増し増し、背脂多めを2つ』
亮平💚『はぁ💢勝手に増してんじゃねえよ』
大介🩷『黙って食え!俺に任せときゃ元気になるんだ』
急に強引なの何だよ。唇まで脂でギタギタになりながらラーメンを啜る。コッテリ脂が麺に絡まり体に染み渡る豚骨醤油がスルスルと胃に押し込まれていく。心が少しだけ軽くなった気がした。
大介🩷『替え玉二つ』
亮平💚『おい💢』
大介🩷『食え!身体がひもじいと心まで荒む。温っかいもん食って脂ぎったぎたで翔太にキスしろ!ニンニク臭くてアイツ悶えるゾ』
何が面白いのか俺の隣でケラケラ笑ってる。そんな佐久間が可笑しくって、釣られて俺も笑った。
マンションの駐車場で佐久間との別れ際それまでヘラヘラ笑っていた表情を引き締めると運転席から身を乗り出した佐久間は上から押し込むように俺の頭を撫でた。
大介🩷『玄関に置き土産があったぞ…翔太が帰ってくるまでに隠しておけ』
亮平💚『はぁ?何それ』
大介🩷『蓮のベレー帽だよ…きっとわざとだろ//泣くなって…帰れなくなるだろ』
亮平💚『どっか行こうって言ってよ…何処でもいいから連れて行け』
佐久間はマンションを出る時に気付いたらしい。俺のダムは決壊した。慌てて車から降りてきた佐久間の肩を濡らした。
大介🩷『耐えろ亮平//今は逃げるな翔太が帰ってくる。万が一うまく行かなかったときは俺んとこ来い!二人まとめて預かってやっから』
亮平💚『何で二人なのよ…』
お礼を言って別れるとエントランスのベンチに腰掛けた。暫く何の気力も湧かずに頭の中は空っぽで声を掛けられるまでその存在に気付かなかった。
翔太💙『亮平!聞こえてる?大丈夫どうしたの?』
〝翔太…あれ?今何時…〟夕日が差し込むエントランスから、伸びた人影を追いかけて人々が行き交う様子が見えた。目の前にいる愛しい恋人はきっと〝亮平〟に会いに帰ってきたのに、そこに居たのはきっと知らない男だろう。
翔太💙『お帰りが先でしょう?どうしたの?魂お散歩中かな?』
亮平💚『…そうだね…昨日までかくれんぼ中だった。今もまだ見つけてもらえそうにない』
翔太💙『俺見つけたよ?ほらおうち帰ろう?お手手出して!』
〝努めて明るく‥頑張れ亮平に似た俺〟手を引かれてエレベーターに乗り込んだ。撮影の様子を楽しそうに話す翔太を見ていた。開かれたエレベーターに気付かず翔太に腕を引かれて降りると、家の玄関扉が開き、靴箱の上のベレー帽が目に飛び込んできた。佐久間が忠告してくれたのに・・・
翔太💙『あれ?蓮来たの?』
〝あぁお弁当買ってきてくれてね昨晩一緒に食べた…それだけ〟ふぅ〜んと言って自分の靴を靴箱に仕舞うと俺が脱いだ靴も綺麗に揃えて仕舞ってくれた〝早く早く〟腕を引かれてリビングのソファーに座ると、再び旅の話で盛り上がった。牛タンしゃぶしゃぶが余程美味しかったようで絶対にいつか二人で行こうねと言ってニコッと笑った。
両手を掴んだ翔太は自信に引き寄せ〝ただいま言ってなかった〟と言って唇にキスをした。離れて行く翔太の顔からは笑顔が消えていた。
翔太💙『佐久間と会ったろ』
一日中抱き締められた俺の身体は佐久間の香水が移っていた。ほのかに薫香水に気付いた翔太の目を俺は直視出来なかった。
亮平💚『お昼に二郎系のラーメン二人で食べたの身中から臭ってニンニク臭いよね?ごめんお風呂入ってくる』
翔太の顔を見ているだけで涙が溢れ落ちそうになり慌てて立ち上がると逃げるように脱衣場へ駆け込んだ。 不自然だったよね…シャツを脱ぎながら涙を拭った。洗面台に浸け置きしていたカーディガンを手に取った。やっぱり染みになっちゃった・・・
翔太💙『何それ?どうしたの?』
亮平💚『あぁ見られちゃった…昨日ワインもらってね溢しちゃった…オソロだったのにごめんね』
翔太💙『違うよ…肩だよ』
かた?後ろを振り向き洗面台の鏡越しに自分の背中を見た。くっきりと青黒く残る蓮の噛み跡が見えると恐怖に襲われ蹲ると後ろに身体が倒れる感覚があった。翔太が必死で俺の名前を呼んでいる。聞こえてるよ?応えているのに俺の声は届かないみたいだ。一筋の涙が頰を伝うとそのまま意識を手放した。どのくらい経っただろうか。目を覚ますとベッドに横たわっていた。
翔太💙『お前何したんだよ💢許さないからな!』
大介🩷『お前が心配するような事は何もしちゃいねえよ!』
このまま寝たふりしてもいいだろうか…まさに修羅場だ。翔太からの電話で再び参上した佐久間は得も言われぬ濡れ衣を着せられ憤慨している。
そりゃそうだ…翔太からしてみれば、佐久間との間に残る疑念と香水が移ってしまうほどの距離で過ごした男の肩に残る噛み跡が大きな勘違いを生む事は必然だったかもしれない。
寝返りを打つふりをして二人に背中を向けると枕を濡らした。 肩を掴まれ無理やり向き直されると、怒っている佐久間と目が合った。いつの間にか翔太は部屋から居なくなっていた。
大介🩷『狸寝入りすんなよ。ちゃんと説明しろ』
亮平💚『何を?話すつもりないよ…だから言ったじゃないか遠くに連れてけって。お願い佐久間全部お前が被って…誰でもいいだろこの際もうどうでもいい』
話して何になる?誰も得にならないことを話して誰が救われるの?ごめんね佐久間…俺の為に汚れ仕事引き受けてよ。そして遠くに連れてって・・・
🗒️翔太、俺ね夕暮れ時って好きなんだ。夕闇迫り役目を終えた太陽が西の空に沈む時、一見寂しそうに見えるけど、家路を急ぐ人々は仕事の疲れなんか忘れて愛する誰かが待つその場所を目指して歩く姿が浮き足だって見えて、伸びる影もほんのり色づく街並みも愛に包まれたその時間が大好きだ。
初めて翔太の帰りを怖いと感じた。ドキドキして止まない俺の恋心は何処に行っただろうか?きっとかくれんぼ中なんだ。ちょっとだけほんの少しだけ時間頂戴。さよならを受け入れる時間を下さい。最後の我儘許して下さい。
時間なんて必要なかったな…今すぐ捨ててくれて構わない。翔太、今すぐさよならを言ってよ?俺は卑怯者だから自分からさよならは言えないんだ。
ウジウジベットに丸まっていた。外はすっかり真っ暗でリビングをひょっこり覗くと、佐久間が夕飯の準備をしていた。
亮平💚『まだお腹空かない…ここにまだ二郎が居る』
大介🩷『フハッなんだよそれ…大丈夫だよ飯見れば腹減るよ』
〝翔太は?〟何でも俺の大好きなとろっとろのオムライスを買いに行っているのだとか。待てど暮らせど届かないオムライス。時計の針がカチカチと音を立てた。
亮平💚『遅くない?』
大介🩷『やばい…』
〝何?〟ベレー帽無くなってる・・・
コメント
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花凛さんのお話ってどうしてこんなに胸に刺さるんだろう。きっと、たくさんの文章の中に、人への愛が散りばめられているからだね。 私、今泣いてるよ。どの人物も素敵で、ちょっとエッチで、それでも可愛らしい。💙だけじゃなくて。続きが楽しみです。

しょっぴー……大丈夫かなぁ😭😭💙 朝、花凛ラブラブセンシティブ読み返してたから、悲しい、、、