トラオム高山は僕が住んでいるダンジェンス国という大きな国から差程遠くはない。
ダンジェンス国は高い塀で囲まれていて、国門の前にはすぐカンストの森というこれまた大きな森があり、その中に高山があるのだ。
逃げるゼンティに不承不承追いつくととぼとぼ森の中、国へ向かい歩いている。
「ねぇ、シェン聞いた?イヴァン公爵とアンドルー公爵が揉めてるって」
横を歩くゼンティが自分の髪の毛先を指に巻き付けながら言う。ゼンティは綺麗な黒髪で長い髪をポニーテールしている。
「揉めてるのは少し聞いたけど、なんで揉めてるんだい?」
ヴェンシュンはまだ続きそうな森の道の遠くを見つめながら歩いている。
「ほらついこの前ユウジンちゃんが失踪しただろ〜? 」
「ああ祭司のユウジン・アンドルーか、まだ見つからないのか?」
「うん、それでアンドルー公爵はイヴァン公爵がユウジンちゃんを誘引したんじゃないかってちょっとばちばちしちゃってんの〜。」
「あー前にもあったよな、イヴァン公爵の監禁事件。しかも被害者自ら監禁される事を望んでいたっていう、」
「そぉそぉ、門兵がずっと居るから国外には限られた人でも申告しないといけないし〜 」
「だからイヴァン公爵を疑ってるって事か、でも誘引監禁してたのは浮浪者ばかりだろう?
ユウジンは貴族なのに。」
「でもユウジンちゃんってなんかぽやぽやぁっていうかぷやぁとしてるじゃん?だから簡単に釣れそうっちゃ釣れそうじゃない〜?」
「ははっ確かにっ。」
本来心配するべきだ、と心の何処かで思いながら不意に笑ってしまった。
「んもぅ笑い事じゃないよ〜…死んじゃってたらどーしよう皆のアイドルなのにぃ。」
「僕が飛び降り自殺するのは心配じゃないのか?」
微塵も心配してくれなんて思ってもないが、少しからかうようにむすっとした顔を見せた。
「え〜大丈夫だよ。心配しなくてもシェンが一番可愛いよ♡」
「そうか。そういう事じゃないんだけど。」
「ん?」
「いや、ありがとう。」
そう話している内に森の道を抜け草原に出た。もう、門の前で門兵が微塵も動かずに立っている姿も見える。
「帰ったらなにしよ〜!なんか疲れたなあ部屋に直行かなあ!」
「そうだな僕も部屋に戻って課題して寝よう。」
「おかえりなさいませ。ヴェンシュン様、ゼンティ様。」
門に近づくと右側に立っていた門兵がやり過ぎなくらい深い会釈をした。左側の門兵は重い門を開けるため歯車を回している。
「たっだいまあ〜」
「お疲れ様。」
門兵に声を掛けながら門をくぐった。
中に入るとまだ街ではなく、石造りの壁のちょっとした密室に繋がる。右側に小さな検査室があり。検査員が常時交代で座っている。
「おかえりなさいませ。ヴェンシュン様。ゼンティ様。氏名の御記入と荷物があれば見せていただけますか。」
今日は若い女性の調査員が座っている。
2人はささっと名前を書いた。
「2人とも荷物はもってないよお〜杖だけ〜!」
ゼンティは右手を出し街に繋がる扉へ向かおうとする。
「お疲れ様です。」
ヴェンシュンは軽く会釈をしてゼンティの後に続く。
密室の扉は小さく木でできている。普通の家に着いていそうな扉だ。
扉を開け街に入ると直ぐに市場が広がる。
行き交う人々は2人を見ると軽く会釈をする。
「今日はなんだか皆元気が無いね〜。ユウジンちゃんがいなくなったからかなあ。 」
ダンジェンス国は古くからこの世界を作りこの国を守るという「創造の双子神」が信仰されていて、祭司や神父の存在は神と繋がる代弁者として宝同然の扱いをされている。
「まあ、祭司が姿を消したからな。出国名簿にもユウジンが出国した記録も無いし姿をも見ていないらしい。さっき名簿確認したけど、僕達以外に外に出た人は2ヶ月も前だ。 」
「ん〜大量の巡回騎士の目を掻い潜って隠れるにはやっぱり何処かの公爵か伯爵家だろうなあ。」
市場で行き交う人々の中を歩きながらゼンティは背伸びをしながらユウジンの行方を考えている。
その時遠くから何やらざわざわとしながら人々が端に避けて流れてくる。
ヴェシュン達の目の前の人が端によけ視界が開けた時、1人の小さな男の子が銃を向けてとぼとぼ俯きながら歩いてくる。
「あんな小さな子が何で…」
ゼンティが注目したのは持っている銃だった。
「巡回騎士の銃だ。」
巡回騎士の銃は純粋さ正義の為に使われる物だと言う理由で白く特徴的な装飾である。
ゼンティが歩いてくる男の子に歩み寄ると男の子は止まった。よく見ると銃を握っている手は少し震えている。
「ねぇ〜君。どうして銃を持っているの〜?」
男は黙っている。手だけではなく体をも震え過呼吸を起こしているのが聞こえてきた。
「大丈夫〜?お兄さん達と一緒に休める所に行こうよ!」
ゼンティがにっこりと微笑み男の子が持っている銃の先に手を添えしゃがみ込んだ。
「ま、ままをかえせえええ! 」
男の子が叫び強い銃声音が聞こえたと同時に悲鳴声が聞こえる。
発砲され、ゼンティの手を突き破り、頭をも吹き飛ばした。巡回騎士の銃は強烈な力で簡単に体の一部を吹き飛ばせる威力を持っている。
目の前には倒れたゼンティの体と頭の破片と血痕が散らばり、周囲は気絶している者やひたすら悲鳴を上げている人もいる。
目の部分が丁度ヴェンシュンの目の前に転がりぎょろぎょろと瞳を動かし瞬きもしている。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!