🩷大介side
翔太との距離は縮まらないまま、季節は春を迎えようとしていた。
俺は桜が大好きなので、今年の春は翔太と花見にでも行きたいなと思っていたら、照の提案でメンバー9人揃って桜の下でバーベキューをすることになった。
照がよく行く山に桜がきれいな穴場の場所があって、そこでみんなで花見を楽しもうということになったのだ。
久しぶりの仕事抜きの企画だったし、仲の良いスタッフさんやマネージャーたちも巻き込んで、大掛かりなイベントになる予定だった。
イベントごとが大好きな俺は当日をめちゃめちゃ楽しみにしていた。
ところが。
花見を翌日に控えた前日の夜。
俺は40度の熱を出してぶっ倒れてしまった。
一応病院に行ってみたところ、感染症でないことだけがわかった。
きっと疲れが出たんでしょう、とお医者さんに言われる。
俺は熱はあるわ、だるいわ、頭は痛いわで帰宅早々動けなくなってしまった。
解熱剤をもらい、ほぼ寝込んでいることしかできない。俺は無理して病院に出掛けたことで、さらに体調が悪化していた。
そして今頃俺抜きでみんなが楽しんでるかと思うと、寂しかったし、悲しかった。
🩷バーベキュー行きたかったよぉ、桜も見たかったのにぃ……
静かなのが嫌でつけたテレビには、有名な千鳥ヶ淵の桜の様子が映っていた。薄桃色の桜の木の下で、人々が幸せそうに桜を眺めている。カップルもいる。
俺だって本当は翔太と…。
悔しくて唇を噛み、布団を頭から被った。
ツナとシャチがかわるがわる慰めに来てくれるが、起き上がるのも怠くなってあまり構ってやれない。
ごめんな、今日はもう無理なんだ……
ピンポーン
インターフォンが鳴った。
重たい身体を引きずってカメラを見に行ったら翔太が映っていた。
俺は急いで玄関に走った。
どこにそんな力が残っていたのか自分でも不思議だった。
💙元気そうじゃん
🩷翔太が来てくれたから
本当に。
身体中にアドレナリンが分泌されたみたいだ。
💙これ、やる
翔太はぶっきらぼうに、一本の桜の枝と大きな袋を押し付けてきた。
💙桜のお裾分け。それと
🩷わたあめだ!!!!!
💙うん。体調悪くてもわたあめなら食べられるかなと思って……ほら、ピンクだし。いつかのネックレスのお礼に。
帰りがけに露店を見つけてわざわざ買って来てくれたらしい。
翔太がくれたわたあめは、ふわふわで、俺の顔よりも大きくて、満開の桜より綺麗だと思った。
💙じゃ、帰るわ
🩷待って
俺は帰ろうとする翔太の腕を掴んだ。
🩷翔太。俺と付き合ってくれ
💙またその話?
🩷今は真面目に言ってる
💙……………
翔太は黙って俺を見つめた。
俺も黙って翔太を見た。
💙…考える
🩷マジ!?
💙まだOKとは言ってねえ、早とちりすんな
帰り際に翔太の顔が少し赤い気がしたのは気のせいだろうか?
俺は貰った桜の枝を花瓶に挿し、隣りにピンクのわたあめも深めのグラスに挿して、いつまでも飽きることなく家の中で花見を楽しんだ。
大袈裟でなく、今まで見た桜の中で一番綺麗だと思った。
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