番外章「ひとしずくの旅路」
――星暦〇〇年、ルシフェルの軍勢の影が薄らいだある日。
ゲズとセレナは、補給と偵察のために
ひとつの小さな星に立ち寄っていた。
そこは、まだ戦火の届かぬ平和な村。
地面には草花が咲き、小川がさらさらと流れる。
風はあたたかく、空気には木々の香りが混じっていた。
ゲズ「……こんな場所が、まだ残ってるなんてな」
セレナ「ほんと……夢みたい」
ふたりは並んで歩いていた。
手はつながれていないけれど、足音は不思議とぴったり重なっていた。
⸻
【村の少女】
村の入口で、ひとりの少女が話しかけてきた。
少女「ねえ、旅のひと! お花あげる!」
小さな手に握られていたのは、白くて丸い花。
それをセレナに差し出すと、少女はにこっと笑った。
セレナ「ありがとう。……とっても綺麗」
少女「お姉ちゃん、お兄ちゃんのこと好きでしょ?」
セレナ「……っ!」
少女の無邪気な一言に、セレナは思わず言葉を失い、
ゲズはその横で、少し照れたように目を逸らした。
少女「だって見てたら、わかるもん。お姉ちゃんの目、すっごく優しい」
⸻
【午後の休息】
村の奥にある古い水車小屋。
セレナはそこで、村の女性たちにお茶をごちそうになっていた。
ゲズは川辺で、石を跳ねさせながら静かに佇んでいる。
セレナはふと、ゲズの背中を見つめる。
風に揺れる髪。少しだけ、疲れた横顔。
セレナ(……いつも背負ってばかり。
せめてこの時間だけは、肩の荷を降ろしていてほしい)
セレナは小さなカップを持って、そっとゲズの隣に座った。
セレナ「はい。ハーブティー。村の人がくれたの」
ゲズ「……ありがとな。あったかい」
静かにカップを傾けるふたり。
風がそよぎ、鳥が空を横切る。
ゲズ「……こういうのが、守りたい景色なんだよな。
戦いが終わったら、こんな場所に……もう一度、来られるかな」
セレナ「……来よう。絶対に」
ゲズ「お前となら……来たいと思える。……いや、“来たい”じゃなくて、“来よう”だな」
ふたりは微笑み合う。
言葉では言い尽くせない想いが、静かに重なっていく。
⸻
その夜、ふたりは焚き火のそばで寄り添って眠った。
いつか終わる戦いの、その先の未来を信じながら
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