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井野匠
さくらぶ
27,672
学校が終わって、いつも通り白川鍼灸治療院に立ち寄ると、治療院の前で思わず立ち止まってしまう。
おんぼろ治療院の前に、不釣り合いな高級車が停まっていたからだ。
その車を見た途端、俺はやばいと思った。
何故って、最近は白川先生と雨森の爺さんがつるんでいて、二人の会話から、白川家と揉めていることが分かっていたからだ。
だから、ついに白川家の親分が乗り込んで来たと思った。
俺が身構えていると、運転席から黒スーツの男が降りてきて、後部座席の扉を恭しく開いたのだ。
ところが、ハゲ頭で太った和服の爺いが出て来るのかと思いきや、車から出てきたのは金髪をなびかせた白人の少女だった。
俺は、驚くと同時に胸をときめかせた。
決して、ハゲデブからのギャップに萌えたからではない。
その少女は、俺が見た中でもダントツに美人だった。
詩織ちゃんも美人といえば美人だが、いかんせん歳を食い過ぎている。
しかし、目の前の少女は明らかに俺と同年代なのだ。
俺は、飛ぶようにスキップをしながら白川鍼灸治療院の玄関に向かった。
運転手は、学生服を着た俺を患者だと思ったのか、立っていた玄関の前を譲ってくれる。
俺が、運転手に軽く敬礼をしてから中に入ると、白人の少女を前にして、白川先生と詩織ちゃんが戸惑ったように立ち尽くしていた。
俺が、「どうしたんだよ?」と訊ねると、詩織ちゃんが白い封筒をかざしてくる。
戸惑いながら、「この子が、白川先生の弟さんの紹介状を持ってきたのよ」と言ったのだ。
そりゃあ、二人が戸惑ってしまうのも無理はない。
だって、白川先生の弟といえば、一週間ほど前に病死したと聞かされたばかりなのだ。
しかも、白川先生は父親に勘当されているからか、お葬式にも出席できなかった。
だから、最近の白川先生は相当に落ち込んでいる。
そんな、弟さんからの紹介状を見れば、二人が困惑するのも当然だ。
しかし、気を取り直した白川先生が英語で、「玄関では何ですから、とりあえず中に入ってください」と告げる。
少女も、俺達の困惑が理解できない様子で、戸惑いながらも中に入ってきた。
そして、車を移動させるのか、運転手は中に入らずに出て行ってしまう。
二人が、白人の少女を治療室に招き入れたので、俺も何食わぬ顔で入って行くと、鬼の形相をした詩織ちゃんに「アンタは外でしょう!」と蹴り出された。
まあ、いつもの事だが今回ばかりは、「また、蚊帳の外かよ!」と愚痴をこぼしてしまう。
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