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「いえ、泊めていただいているだけで助かっていますし……。この間、ベランダに放り出された時よりとっても暖かいです。私は幸せものです」
そう彼女は微笑んだ。
「ごめん」
思わず彼女を抱きしめてしまった。
「蒼さん……?」
桜は不思議そうにしていた。
「ベッドで寝て?」
彼女の手を引き、寝室へ向かう。
「大丈夫ですよ!コートが結構暖かくて……。さっきまでちゃんと寝てましたし……」
彼女の言葉には返事をしなかった。
俺の寝室へ連れて来て、半ば強引にベッドに座らせる。
「明日、布団買うから。ていうか、きっといつもベッドで寝てたよな。今日はここで寝て」
「蒼さんはどこで寝るんですか?」
俺はソファーで……と言おうとしたが、これじゃあまた昨日のようになってしまう。桜も譲らないだろうな。
「……。一緒に寝ちゃダメ?」
こんなセリフ、一生言わないと思っていた。思わず顔を手で覆ってしまう。桜の立場でこんなこと言われたら「嫌だ」とは言えないだろうな。
やっぱりソファーで……と伝えようとした時
「一緒に寝ていいんですかっ!?」
えっ……。警戒しないのか?
俺、一応男……。
あぁ、そうか。恋愛感情はないって桜に話したもんな。そう思っていた方がこの場合都合がいいか。
「あぁ。桜が嫌じゃなかったら……」
「私は蒼さんが嫌じゃなかったら大丈夫ですよ」
そんな顔で見ないでほしい。恥ずかしい。
「俺は大丈夫。桜が向こうで寝る方が心配だから。昨日、よく考えたら一緒に寝てるしな?」
フッと笑いかけると
「よく考えたらそうですね」
彼女も微笑んでくれた。
「俺、もうちょっと起きているから桜、先に寝てて?」
実はあまり眠れない体質だった。酷い時は、睡眠導入剤を処方してもらう程。基本は、朝方の数時間くらいしか眠れない。
「そう言って、ソファーで寝るつもりじゃないですよね?私、蒼さんが来るの待ってます」
それじゃあ、桜が寝不足になる。
「いや、違うから」
「待ってます」
意外と芯は強いんだな。
「わかった。じゃあ寝る準備をしてくるから、桜はベッドに入ってて。すぐ来る」
俺が折れるしかない。
「はい!」
彼女はコートを脱ぎ、布団の中へ入って行った。
歯磨きをし、明日の予定を確認し、寝室へ戻る。
桜は電気を点けたまま待っていた。
「電気、消して良かったのに」
「蒼さんが来た時に、見えにくいと思って……」
電気を消し、布団に入る。
それほど広いベッドではないから、桜の体温が伝わってくる。
「おやすみなさい」
彼女がそう声をかけてくれた。
「おやすみ」
そう返事をして目を閉じる。
おやすみなんて言葉を言ったのも久しぶりだな。
この間会ったばかりの女の子と一緒に寝るなんて思ってもいなかった。
女性に触れられると蕁麻疹ができるくらい身体は拒絶反応を起こすのに。
この子は大丈夫なんだもんな。
チラッと桜の方を見た。
暗闇だからあまり見えないが……。
あれ?もう寝てる?
スーッと寝息が聞こえてきた。
疲れてるよな。思わず、頭に触れてしまった。
「ん……」
あっ、ヤバい。起こしちゃったか?
そーと手を退ける。彼女は俺の方へ寝返りを打った。
が、眠っているようだった。良かった、安堵する。
いやらしいことをしたいと言う気持ちではないが、触れたいと思ってしまうんだよな。
俺も目を閉じようとした時、桜に腕をギュッと掴まれた。
「えっ……?」
思わず声が漏れた。
彼女は寝ているようだった。
「椿さん……だいすき」
ん……!?寝言か?
椿か……。
まぁ、俺が椿じゃなかったらこんなに信用してくれなかっただろうし。
しょうがないよな。
桜に掴まれている腕が暖かい。
あれ?いつもならこんなに眠気なんて襲ってこないのに。
体温が心地良いからか、その日はすぐ眠ってしまった。
朝起きると、桜はもう隣には居なかった。
時計を見るともう十時を過ぎている。
あぁ、もうこんな時間だ。桜はもう仕事中だろうな。
起き上がり、リビングへ向かう。
ふとキッチン横のテーブルを見た。
朝食?昼食?を作ってくれたのだろうか。
スクランブルエッグにソーセージ、サラダ、スープとパンが置いてあった。
「美味そう」
朝早く起きて作ってくれたんだろうか。
寝室に一度戻り、携帯に触れる。桜にお礼を伝えようと思った。
画面を見ると「新着通知」が一件。
どうせ姉ちゃんだろうと思ったが、桜からだった。
タップし、メッセージを確認する。
<おはようございます。今日も起きたら、蒼さんの腕にしがみつきながら寝てしまっていました。。ごめんなさい。。朝ご飯はテーブルの上に、昼ご飯は冷蔵庫に入ってます。蒼さんがいつ起きるのかわからなくて、両方作っちゃいました。もし量が多かったら、私が帰ったら残りを食べるので気にしないでください。お仕事、頑張ってください!>
今日も珍しく良眠できたと思ったら、桜が隣に居てくれたからか。
おかげで気分が良い。