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朝は少しだけ冷たい風が吹いていた。窓を開けると、どこかの家の洗濯物が風に揺れていた。白いシャツが空を泳ぐように見えて、なんとなく目を離せなかった。
駅までの道に咲いていた花が、昨日より少し開いていた。誰が世話をしているのだろうと考える。きっと毎日、水をやっている人がいるのだろう。そういう人には、ちゃんと報いがあるのかもしれない。
いつも通りの時間に改札を抜け、いつも通りのホームに立つ。すれ違う人々の顔は誰も覚えていない。でも、自分のことは誰かが覚えているのだろうか。なんて、変なことを思った。
昼休み、コンビニで買ったサンドイッチは少し味が濃かった。お茶の味でごまかしながら、少しだけ昔のことを思い出す。細かいところはもう曖昧になってきているけれど、彼女の笑った顔だけはなぜかはっきり覚えていた。
夜、鍵を回す音が少し重たく感じた。部屋はいつも通り何も言わない。テレビをつけて、音を部屋に満たす。にぎやかさが必要なわけじゃない。ただ、空白が続くと、何かが崩れてしまいそうだった。
明日は少し早く起きようと思う。天気がよければ、海まで行ってみるのも悪くない。冷たい風に当たりながら、なにも考えずに、ただ遠くを見ていたい。