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街の賑わい、村人たちの親切な笑顔。 「人間も悪くないな」と安心していたモルグだったが、ふと違和感に襲われる。
(……あれ?そういえば――森から旅立って、門の衛兵以外は俺に全然ビビらなかったな……。珍しいキノコなのに、放置どころか歓迎ムードで……でも、森の門番だけは最初警戒してた――)
違和感がジワジワと大きくなる。
(よく考えれば……ちょっと変だ……)
人々の顔を改めて見てみる。さっきまで「可愛いキノコさん」と騒いでた少女。野菜を分けてくれたおばあさん。みんなどこか、笑顔が妙に作り物めいていて――。
「……え?」
よく見れば、その顔は全員同じ。目は真っ白に濁り、歯は1本も生えておらず、大きな口で笑みを浮かべている。
しかも、街中どこを見ても誰も彼も“同じ顔”をしている。
(やっぱ、おかしい……あれは人間じゃない……?)
じりじりと、みんながモルグの方を向いてくる。先ほどまでの賑やかな声も消え、沈黙の街に無数の“同じ顔”が集まりつつあった。
「な、なんなんだ、お前ら!」
モルグが叫ぶと同時に、全員がピタリと動きを止める。そして次の瞬間――
「俺たちは……魔物だ。」
おそろいの声で、村人たちがにたり、と同じ“笑顔”で名乗る。
「……魔物……俺と同じ、なのか……?」
全員の顔がまるで仮面のように歪み、笑みが大きく裂ける不気味な光景。ぞっとするような声が一斉に重なる。
「ようこそ仲間のキノコよ。」 「お前もこっちに来い。」 「みんな同じ、ひとつになろう。」
その時――城からドスン、と大きな音を立てて門が開いた。
「――来たか……」
現れたのは、漆黒のローブを纏い、両手に王冠をぶらさげた影。
その手には、ぐったりした街の王様らしき人物が引きずられている。
ローブの男は、王冠を高く掲げ、冷たい声で告げた。
「この街も、すべてわが支配下。姿を変え、意識も記憶も溶かして“ひとつ”に。……お前、キノコよ。お前もまた、魔物。仲間になれ。そして、この王の跡を継げ。」
王様の顔も白く濁り、目に光はない。
街の住民たちは一斉にひざまずき、不気味な笑みをこちらに向ける。
「な……俺はお前らみたいなモンスターじゃない!俺は……俺は……!」
心臓がバクバク鳴る。モルグの背を冷たい汗が伝う。
ローブの男がにやりと笑い、さらに語りかける。
「違わぬぞ。“特別な存在”と思い込んでいるのは愚かな自惚れ。
お前もまた――世界にとっては化け物だ。」
“みんな同じ、ひとつになろう”。
村人たちの作り物めいた笑顔がだんだんと歪んでいく。
「やめろ、近寄るな!俺は、俺でいたいんだ!」
体が震える。だが、その時、菌糸包帯から新たな“力”がゾワリと身体を満たしていくような感覚――
(……俺は、絶対に飲み込まれるわけにはいかない……!)
ローブの男と、不気味な魔物たち。王冠を奪われた王様。その目の前で、モルグは決意を固める。
「お前らなんかに、俺の“個”は渡さない――ッ!」
新たな力が、覚醒の予感とともに静かにうごめいていた――。