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「おっとっと――悪いな、挨拶が遅れたな。」
不気味なローブ姿の男が王冠を持ったまま、こちらを見下ろして言った。
「俺の名前はゾルグ・ナマエル。“命を与える者”だ。」
その声はねっとりと耳の奥にまとわりつく。
「……なんなんだ、こいつ……」
モルグはゾクリと背筋に寒気を感じた。
だが次の瞬間、ゾルグが指を鳴らす。
街中の“魔物顔”の住人たちが、今度は一斉にモルグに襲いかかる。
「こい、俺の下僕たち。そいつを引き裂け。」
村人だった男がナイフのような爪を伸ばし、少女が牙をむいて迫る。
囲まれ、逃げ場はない。
「や、やめろ!」
モルグは慌てて眠り胞子や毒胞子を撒くが、相手は次々と立ち上がり笑ったまま襲いかかってくる。
「効かない……?なんで……!」
ゾルグの声がからかうように響く。
「無駄だ。こいつらにもう痛みも意思もない。ただ“命令”で動くだけ。お前のキノコの芸当など通じん。」
モルグの腕に痛み。
自分よりも大きな獣の姿になった住民たちが体当たりしてくる。
「ぐっ……うわぁあッ!」
倒れたところへ無数の手が伸び、身体を押さえつけられる。
「さあ、もっとだ。“命よ、踊れ”!」
ゾルグが呪文を唱えると、地面の下から巨大な百足、空からカラス、犬の群れ、人間に化けた何か――
あらゆる森の生物や町の動物までもが操られ、続々とモルグに襲いかかった。
「やめろ!やめてくれぇッ――!!」
叫んでも誰も助けてくれない。
村人も、獣も、みんな白い目とおぞましい笑顔で肉と骨を叩き、ちぎろうとする。
「おいおい、どうした?“救世主のキノコ”さんよ?」 「さっきまで余裕あったんじゃねぇのか?ええ?」 「もっと足掻け、もっと惨めに――お前の命も、その“個”も、面白いように消えていくぞ?」
ゾルグはせせら笑いながら、どこまでもモルグを見下ろす。
痛みで意識が途切れそうになる。何もできない。
怪物に喰われ、踏みにじられ、もはや身体も自分の声も制御できなくなる。
(……こんな、馬鹿な……俺が、ただのキノコが、ここで終わるのか……?)
「苦しいか?哀しいか?だがな――この絶望こそ、俺の最高の糧なのさ!」
ゾルグが満足げに腕を広げると、支配されたすべての生命が彼の意志に従い歓喜の声を上げた。
「……や、やめ……もう、やめて……」
モルグの声はかすれ、何も反応は返って来ない。
ゾルグは最後に、耳元でささやく。
「さよならだ、哀れなキノコ。――また会おう、“命”の果てでな。」
視界がグシャリと潰れ、全てが黒く沈んでいった。
モルグの意識は、静かに深く、奈落の底へと沈んでいった……