テラーノベル
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「……よし。そろそろ、次行こか」
「うん」
しゃがみ込んでいた僕を気遣うように、しゅんが優しく声をかけて立ち上がる。
名残惜しいけれど、僕たちはきらきらと輝く湖に背を向けて、再びパンフレットのルートに沿って歩き出した。
すぐ目の前を歩く彼の逞しくて広い後ろ姿。
それを見つめていたら、胸の奥がなんだかきゅっとして、どうしてもその温もりに触れたくなってしまった。
僕は無意識に手を伸ばし、彼の大きな手のひらをそっと掴んでみる。
「…っ、じゅう?」
彼はハッとしたように振り返ると、僕の突然の甘えが嬉しかったのか、ふにゃりと柔らかく笑い、その手を力強く握り返してくれた。
さっき湖の冷たい水に触れてすっかり冷え切ってしまっていた僕の手が、彼の優しい体温によって芯からじわじわと溶かされていく。
「手、めっちゃ冷たいやん!」
「だって水が綺麗だったから、つい触りたくなっちゃって……」
「あははっ、気持ちはよく分かるで!俺も、隙あらばいつでもじゅうに触れたくなるからな!」
「……は?」
「ふっははっ!!」
何を平然と恥ずかしいことを言っているんだ。
急に不意打ちで照れさせるようなことを言うから、僕は大慌てで視線を逸らした。
本当にこの人は心臓に悪い。
歩調を合わせて進んでいくと、ふと目の前に長くて急な木の階段が目に入った。
「……うわ、めっちゃ階段じゃん」
「お! 登山みたいで、逆にめちゃくちゃテンション上がるなぁ!」
「……ふふっ」
「な、何笑ってんねん! ほら、置いてくで!」
どんな状況でも、一瞬で「楽しそうなこと」に変えてしまう 彼のこういう底抜けのポジティブさは、一緒にいる人の人生まで本当に豊かにしてくれる。
繋がれた手を優しく引かれながら、一歩ずつ階段を登っていく。
日頃の運動不足のせいで、普通に、かなりキツい。
息が上がって足が重くなってくる。
「じゅう! 頑張れ、もうすぐ頂上やでー!」
上から響くその声に、僕は限界のなかでなんとか視線を上げた。
そこには僕を待ってくれている彼の、太陽のように眩しい笑顔があった。
その笑顔を見ただけで、身体の底から不思議と「あと少し頑張ろう」と、元気が湧き出てきてしまうのは何故なのだろう。
彼といると、どんなに些細な瞬間だってずっと、ずーっと楽しい。
「見て! めっちゃ大自然やん!!」
階段を登りきると、目の前には360度見渡す限りの緑と青の世界が広がっていた。
「あ! 待って、しゅん。あそこに展望台がある! 俺、あそこ登りたい!」
「お、じゅうちゃん、急にめっちゃ元気やん!さっきまで死にそうな顔してたのに~ふふっ」
なんだか一気に心が解放されて楽しくなった僕は、彼の手を引くようにして展望台の階段をタタタッと勢いよく駆け上がった。
後から、彼が「待ってや〜」と楽しそうな声を上げて付いてくる。
あっという間に一番高い最上階まで登り切り、視界の開けた大パノラマに視線を向けた瞬間、僕はその息を呑むような絶景に、思わず言葉を失った。
「ちょっと……。しゅん、やばいよこれ!!見て見てっ!はやく!!」
「見てる見てる、見てるって! ほんまに、すごいなぁ……」
どこまでも続く青い湖とパッチワークのように色づいた紅葉の山々が、空の青と溶け合って目の前に広がっている。
遮るもののない風が、僕たちの髪の毛を優しく揺らした。
「日本にこんなにきれいな景色があったなんて知らなかった……」
「ほんまやなぁ……」
「ここに来れて、本当によかった」
「うん、俺も。ほんまに良かった」
「……それに、……しゅんと一緒に来れて、幸せ」
ずっと一人で暗闇を我慢していた僕が、今こんなに綺麗な世界を、好きな人の隣で笑って見上げられている。
その感謝と溢れんばかりの愛おしさを込めて、彼の目を見てそう伝えた、まさにその瞬間だった。
グイッと繋がったままの手を強い力で引っぱられ、僕はバランスを崩し、そのまま彼の胸の中へとすっぽり収まるようにして強く抱き寄せられた。
「、、っ、わっ!」
驚きと急激な密着のドギマギで、僕の心臓がうるさいくらいに激しく早鐘を打ち始める。
衣服越しに彼のこれまたドクドクと速い心音がダイレクトに鼓膜へと伝わってきた。
「ちょ、な、なに……っ? 急にどうしたの……っ//」
「……んー? なんかな、じゅうがあまりにも愛おしいこと言うから抱きしめたくなったんさ……」
「そ、それは、嬉しいけど……っ//。ここ、公共の場だし、誰か他の人が来るかもだし……っ」
「んー、そうやねぇ……」
腕の力を一切緩める気のない、完全に生返事。
他人が来たら恥ずかしい、早く離れなきゃ、と頭の片隅では分かっているのに。
ち び
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でも、彼の腕の中が世界で一番あたたかくて心地よくて、このままずっと時間が止まってしまえばいいのにと思っている自分が確かにいた。
to be continued…
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