テラーノベル
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ち び
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タッタッタッ……。
静かな風の音に混ざって、展望台の階段を誰かが小走りでのぼってくる明確な足音が聞こえた。
「……っ、しゅん、誰か来る……」
大慌てで彼の胸を押し返そうとした、その瞬間だった。
ふいに、僕の顎を大きな指先でクイと優しく上へと向けられる。
驚いて目を見開いた視界の先で、しゅんの顔が迫ったかと思うと、ちゅっと静かなリップ音が鳴り響き、少し強引で熱いキスが僕の唇に落とされた。
「……、……っ//」
突然の不意打ちに、僕は呆然としたまま、自分の唇を右手で押さえて完全に固まってしまう。
「ほら、本当に人来るで! はよ行こ〜」
僕の手首を掴んで悪戯っぽく笑う彼は、何事もなかったかのように僕を引っぱって歩き出す。
「う、うん……、……」
繋がれた手のひらから、彼のいたずらな熱が伝わってくる。
心臓がうるさくて、本当にこの人と一緒にいると命がいくつあっても持たない気がした。
階段を下りる途中、案の定、楽しそうに会話する仲の良さそうな子連れの家族とすれ違った。
あぶない……。
あともう数秒離れるのが遅れていたら、見られていただろう。
でも、不思議と嫌な気持ちはしなかった。
見られたところで もう二度と会うこともないし、別にいいか、と。
以前の僕ならそんな風に思うなんて絶対にあり得なかった。
それほど、彼の愛によって自分の心が大らかで自由になっていることに気づきながら、緑豊かな小道をぐるーっと歩いていく。
心地よい小鳥のさえずりや、木々が風に揺れる音を全身で浴びていると、ふいに目の前の草むらがガサガサと揺れた。
「あ! じゅう見て、りす!!!」
しゅんが指差す先、小さなエゾリスが僕たちの目の前を横切っていった。
小さくて、茶色くて、ふさふさの尻尾を揺らしながらちょこまかと走る姿がたまらなく可愛い。
「かわいかったなぁ!! ほんま、今回の旅は良いことばかりやん!」
「本当だね~!」
豊かな大自然を全身で感じながら、再びあのレトロな鉄橋を渡り、最初のスタート地点だった広場まで戻ってきた。
時刻はちょうどお昼時。
せっかくなので、ここで何かお昼ご飯を食べていくことにした。
とはいえ、朝ご飯が遅くてお腹いっぱい食べたこともあり、そこまでお腹が空いていなかった。
そのためがっつりとしたのもではなく、売店のちょっとした軽食で済ませることにした。
売店の看板には、北海道ならではの魅力的なメニューがこれでもかと並んでいた。
悩んだ末、僕は「チーズいももち」と温かい「クラムチャウダー」を選択。
しゅんは「じゃがバターコロッケ」と、香ばしい匂いを放つ「ホタテのバター串」を注文した。
店内にあった小さなイートインスペースのベンチに、ふたり仲良く並んで腰掛け、さっそく食べ始める。
「うわっ! これほんま、うんまぁ〜」
ホタテを一口食べ、感動の声をあげたしゅんは、続けて揚げたてのコロッケをサクサクと音を立てて頬張る。
すると彼は自分が持っていたホタテのバター串を、僕の口元へと真っ直ぐに差し出してきた。
「これまじでやばいで? じゅう、あーん!」
「っ、いや、周りに人!!! 外にお客さんいっぱいいるから!!」
「別にこれくらい普通やん! ほら、冷めんうちに、はよして!」
「……っ、」
彼の有無を言わせない勢いに押し負けて、僕は周囲を気にしながらも、おずおずと口を開けた。
彼の手に持たれたホタテを、一口だけ思い切ってかじる。
濃厚なバターのコクと、ホタテの凝縮された旨味が口いっぱいに広がった。
「んっ!!! うま!!」
「やろ~? じゅうに絶対に食べてほしかってん!」
自分のことのように満面の笑みを浮かべる彼につられて、僕の口元からも自然と笑顔が零れる。
なんだか僕ばかり貰ってばかりじゃ、やっぱり申し訳ないな。
そんな気持ちから、僕は手元にあった、チーズがとろりと溶け出すいももちを少しだけ勇気を出して彼の口元へと持っていった。
「……ねぇ、しゅん。俺のも、ひと口いる……?」
「へ? ……うわ、食べる!!」
しゅんは一瞬だけ驚いたように目を丸くしたけれど、すぐに嬉しそうな顔をして、僕が差し出したいももちを大きな口でパクリと頬張った。
「うーーん!! うんまぁ!! じゅうちゃんにあーんしてもらったから、より美味しいわぁ!」
「ちょっと……! やめてよ、声でかい!はずいって……っ//」
恥ずかしさから周りの目を気にして小突いてしまうけれど、それでも幸せそうに口いっぱいに食べ物を詰め込んでもぐもぐと咀嚼している彼の姿を見ていると、どうしても愛おしくて口元が緩んでしまう。
その後は他愛のない会話でふざけ合いながらも綺麗に完食。
それだけでは飽き足らず、僕たちはデザートとして、楽しみにしていた北海道のソフトクリームまでしっかりいただくことにした。
味は、王道の「北海道ミルク」と、鮮やかなオレンジ色の「夕張メロン」の2種類。
完璧なチョイスだ。
「まーじ、幸せ……」
「ほんま、大満足の旅やなぁ」
ずっしりと重みのあるソフトクリームをそれぞれ片手に受け取り、僕たちは駐車場に停めてあるレンタカーへと戻る。
「ねぇ、しゅん。最後くらい、空港までは俺が運転しようかな」
せめてこれくらいは頼ってほしいと思って提案してみたのだが、彼は車のドアを開けながら優しく首を横に振った。
「いや、ええで! じゅうは助手席でゆっくり、ソフトクリーム溶けんうちに食べや?」
「……うわぁー さすがスパダリ!」
「ふははっ、なんやねんそれ! そんな言葉でおだてて、ほんま調子の良い子やなぁ〜」
「ふふ、でも本当にありがとね。次の旅行の時は、俺が絶対に運転係やるからね!」
「え〜、ほんまに良いん? じゃあ俺、助手席で爆睡するで?」
「寝たらわざと事故るからね!!!」
「うわっ! じゅうちゃんマジでやりそうでこわいわぁ〜」
そんな風に軽口を叩き合いながら、助手席へと滑り込む。
空港まではここから約40分の道のり。
結局、最後まで彼の優しい運転に甘える形で、車はゆっくりと走り出した。
それにしても、このソフトクリーム、ミルクの味がもの凄く濃厚でまじで美味しい。
「しゅん、そろそろ半分食べた。交換しよー」
メロンもミルクもどちらの味も楽しみたい僕たちは、最初から「半分こ」にする約束をしていたのだ。
車内のドリンクホルダーを駆使しながら、お互いのソフトクリームをそっと交換する。
「え、めっちゃメロン!!! うまっ!」
「な? ミルクも濃厚でうまー! 最後まで全身で北海道を感じるわぁ」
お互いの食べかけを口にすることへの躊躇いなんて、僕たちの間には存在していなかった。
どこまでも美味しくて、どこまでも優しい。
大満足な僕らの北海道の旅もいよいよ本当の終わりへと向い、空港へと近づいていくのであった。
to be continued…
コメント
2件
これで北海道旅行が終わると思うと少し寂しい感じがします😢2人にはまだ北海道でイチャラブな旅行をして欲しかった…でも次の話の展開も楽しみすぎる!!次はもしかしたら🍼🩷が出てくるかもしれないと思うとワクワクが止まりません!!少し見るのが遅れましたが今回もとても面白かったです!!次も楽しみにしています😊‼️