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――決着をつける相手は、もういないのだ。葬儀は静かに終わった。
菊の棺の前に立ったときも、ギルは泣けなかった。涙はすでにあの舞台に置いてきたのだ。
――それでも、踊ろうとした。
再びシューズを履き、鏡の前に立った。
だが、体は動かない。
足を上げようとすれば、視界に蘇る。
真っ白なライトの下、シャンデリアの輝きと共に倒れ込んだ小さな体。
腕を伸ばそうとすれば、思い出す。
届かなかった、あの冷たい手。
気づけば、膝をつき、吐き気と共にシューズを脱ぎ捨てていた。
「……もう無理だ」
声は誰にも届かない。
スタジオの鏡に映る自分の顔は、どこか空っぽだった。
やがてギルベルトは団を去った。
観客の前に立つことも、舞台で踊ることもなくなった。
周囲は「惜しい踊り手を失った」と噂したが、彼自身にとってはどうでもよかった。
――決着がつかないまま、終わってしまったのだから。