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「あのー。何かの間違いだと思うのですが…」
牢に入れられてからも、レビンは声を荒げる事もなく、平常心であった。
元々図太い…鈍感な所はあったがここまでだったか。と、ミルキィは諦めの溜息を吐く。
「静かにしろ!」
怒られた。
「ミルキィ…僕、何か間違えたかな?」
「貴方ねぇ……領主様のご子息を呼び捨てにした上に友達扱いなんてすればこうなるわよ!」
ミルキィは静かに怒鳴るという荒技をやってのけた。
「…ああっ!そうだった!シーベルトって貴族だったね!友達って認識しかなくなっていたよ…」
村での暮らし同様、ミルキィの家に遊びにいくのと同じ感覚だった様だ。
「レビンって、昔から集中していない時はポンコツよね…」
レビンは集中力特化型のようだ。
「失礼しました…守兵長に確認が取れました」
レビンは知らないおじさん(衛兵長と名乗る)に頭を下げられていた。
「…いえ。僕が悪かったんです……幼馴染にもすごく怒られました。すみませんでした…」
「いえ。では宿まで送りましょう。時間が時間ですので辺境伯様への面会は明日でお願いします」
「お手数お掛けしました…」
「申し訳ありませんでした」
いらない誤解を招いたレビンと、巻き添えを食らったミルキィは、衛兵長に謝罪後、宿まで送ってもらうことに。
「そっか…タグを見せて話せば説得力があったよね……」
宿に着き、旅の汚れを落としたレビン達はベッドに転がりながら今日の反省会を開いていた。
「そうね。あれがないと、私達は周りから子供としてしか見てもらえないわ」
ミルキィは子供の前に美少女に見られるが、今はその話ではない事くらいレビンにもわかる為、口を噤んだ。
「辺境伯様やシーベルトにも迷惑を掛けちゃったね。明日謝ったら許してくれるかな…?」
「大丈夫よ。二人とも立派な人物よ。むしろ門番さんが怒られていないかの心配をしてあげなさい」
レビンは叱られる前の子供の様な事を言い、ミルキィはそんな子供を諭す大人の対応をしたのだった。
翌朝、ゆっくりと朝食を食べた二人は、迷惑にならなそうな時間まで時間を潰し、再び城を訪問した。
昨日とは違う門番だった為、二人はギルドのタグを見せ、昨日の事を謝罪の上伝えると、すんなり中へと通してもらえた。
30分程待合室である小部屋で待つと、漸く辺境伯に会える事になり、以前通された執務室へと案内された。
「はははっ!レビンは変わっているな。安心しろ。門番は仕事をしたまでの事。何も咎めてはいない。
それで?話とはなんだ?」
「はい。こちらをご覧ください」
「なんだこれは?………ふむ」
ダド村の村長代理から預かっていた報告書を辺境伯へ提出した。
一通り目を通した辺境伯は、レビンに詳細を訊ねた。
「なるほど。そこに偶々冒険者ギルドの依頼で立ち寄ったレビン達に、私へと伝える様に頼んだと……そういう事だな?」
「はい。ダド村は決して貧しくはないのですが、さすがに50人もの食料を提供し続ける事は不可能です。ですので、出来るだけ早い対応を。との事で、余計な事だと思いながらも辺境伯様のお手を煩わせました」
「わかった」
辺境伯はそれだけ返事をすると、何やら書き物を始めた。
暫く執務机に向かう辺境伯と立ったままの二人に無言の時間が流れる。
コトッ
筆を置いた辺境伯が静寂を破る。
「これをターナーに」
「はっ!」
辺境伯執務室にて空気の様に立っていた男に、辺境伯は先程まで書いていた書類を渡した。
書類を受け取った男はすぐに部屋を出て、辺境伯が二人に向けて口を開いた。
「今出した命令書に、食糧と共に今後の対応案を書いておいた。その難民達を悪い様にはしない。これでいいか?」
それを聞いたレビン達は、揃って深々とお辞儀する。
「ありがとうございます!」
「ありがとうございました」
それを聞いた辺境伯は満足そうに頷き、満を辞して口を開いた。
「では、次はこちらの要望を聞いてもらおうか」
それを聞いたレビン達は息を呑む。
貴族に頼み事をしたのだ。ただの訳がない。二人は漸くそれに気付いたが、時すでに遅し。
「では二人に指名依頼を出す。内容は……」
とんでもなく難しい事を言われるんじゃないかと、レビンはその身を堅くする。
「『シーベルトと友好を結べ』だ。受けるか?」
「くっ……・・・?えっ?」
「だから。シーベルトと仲良くしてくれと言っている」
辺境伯が言っている意味が中々呑み込めないレビンだったが、暫くして答えを口にした。
「…ご子息とは、もう友達です。他の依頼はありませんか?」
「ぶはっはっはっ!それなら受けてしまえば良いものを…くくくっ。そうか。レビンは真面目な様だな。取り繕うのはやめよう」
レビンの答えが余程可笑しかったのか、辺境伯は笑いを堪えるのに苦労して見えた。
レビンは何が可笑しかったのかわからなかったが……
「あの子は家族に命を狙われてしまい、精神的に参っている。どうにか乗り越えて欲しいのだけど、出来ればこちらが手助けした事は伏せたい。
すでに友達でも構わない。友達として元気付けてくれないか?」
辺境伯は父親の顔をしていた。言葉も威圧する様な上位者の物言いではなくなり、表情も和らいでいた。
「そういう事でしたら。喜んでお受けします」
レビンも笑顔で応えた。
執務室を出たレビン達は、案内の人の後ろをついて行く。
相変わらず外では口数が少ないミルキィへと、レビンは思い出した様に謝る。
「勝手に受けちゃってごめんね」
「構わないわ。レビンはリーダーだし、それに友達と遊ぶのに許可なんていらないわ」
その返事にレビンはうんうんと笑顔で頷くのであった。
二人がそんな風に会話をしていると、どうやら目的地についたようだ。
案内の者が、一つの扉の前で立ち止まる。
コンコンッ
「なんだ?」
「ご友人様をご案内致しました」
中からシーベルトの声が聞こえた。それに案内の者が応える。
「…友人?」
少し間を置き。
「入ってもらえ」
ガチャ
「どうぞ」
案内の人に促された為、礼を伝えて入室する。部屋の中には目に隈を作ったシーベルトが佇んでいた。
「レビン…?ミルキィも。どうしたのですか?何かお困り事でも?…あっ。とりあえず座ってください。今飲み物を持って来させます」
「久しぶり。この本は何?」
レビン達の目に飛び込んだのは、やつれたシーベルトと沢山の書物が積まれている机だった。
「これは勉強する為のものです。私は民を導いて行かなければなりませんから。弟達の分まで…」
最後の方はレビン達には聞こえなかったが、その悲壮感に満ちた決意に、何か危ういものを感じた。
「わかった。飲み物はいいよ。とりあえず出掛けよう?」
「出掛けるって…どこにですか?まだ勉強があるので、またにしませんか?」
「辺境伯様の許可は取っているから大丈夫だよ。場所は街中。いいでしょ?」
友人である前に自身の命の恩人であるレビンにそう言われては、シーベルトにこれ以上断る術は無かった。
そういう性格だからこそ、悩んでいるのだ。
「わかりました。馬車を用意させます」
「それもいらないよ。目的は散策だからね!」
「散策…?わかりました。では行きましょうか」
3人は仲良く城を出る事に。
銀ランク冒険者と一緒という事で、普段だと必ずつける護衛もつけなかった。
街中で何かあったとしても、プレイリーウルフの群れを撃退出来る腕があれば過剰戦力である。
そして二人に対しての懸念は人に騙されないかだが、シーベルトがいればそれも問題ないと辺境伯は判断したようだ。
よって街中へは3人だけで出掛ける事となった。
歩く事15分。3人は出店が並ぶ通りに来ていた。
「凄いですね。馬車から見た時はこんなにも人はいませんでした…」
「僕の故郷のお祭りの10倍は人がいそうだよ…」
シーベルトの息抜きの為に連れ出したのだが、レビンも同じ様に驚いていた。
「にいちゃん達!食いもん探してるならこれはどうだい?」
二人がぼーっと辺りを眺めていると、店の人に声をかけられた。
ミルキィはレビンがこの感じなので、護衛に徹している。
度重なる森や山での活動で気配を消す事に慣れてきているとはいえ、この短期間で色々と目立つ自身を目立たなくさせている。どうやらミルキィには、そっち方面の才能がある様だ。
「これは何ですか?」
レビンが店の男に聞く。
「コイツはこの近くでよく栽培されている果物で、ザーレンっていう甘酸っぱい食べ物だ。串売りしてるから一人一本ずつ買わないか?」
「おいくらですか?」
「一本銅貨一枚だ」
「ではこれで」
レビンは銅貨を3枚出した。
「ん?多いのは有り難いが…二人で三本はバランスが悪いから一本まけてやるよ」
お金を受け取った男はレビンとシーベルトに一口大の赤い果物が刺さった串を、二本ずつ渡した。
「あれ?いいんですか?」
「サービスだよ、サービス。美味かったらまた買ってくれよな?」
「ありがとうございます!」
「ありがとうございます」
「ありがとうございます」
ミルキィも感謝の言葉を口にした事で、男は漸く存在に気付いた。
(あれ?あんな別嬪さんがいたなら気づくはずなのにな…耄碌したな)
普段、魔物や野生動物と対峙する為に気配を殺しているのだ。市井の者であれば尚のこと見つけるのは難しいだろう。
ミルキィは二人が買い物をしている間、ただ立っているのではなく、周囲に溶け込む様に意識した上で、シーベルトの死角を守っていた。
森で気配を消す時も、森と同化するように意識していく。
対象が森から人へと変わったが、自身も見た目のことは置いておいて人ではあるので、さらに簡単に同化し溶け込む事が出来た。
「あそこに座ろうよ!」
レビンが指したのは、出店がある通りには必ず置いてある椅子だ。
ミラードの出店が多い通りには、出店の店長達が共同で出している椅子とテーブルがあり、客達はそれを自由に使える。
レビンはその事を知らないが、村の祭りの時であれば、外に置いてある椅子は自由に使えた。その感覚で通りに置いてある椅子を使用する。
この人混みが、故郷の祭りのイメージを強くし、レビンのその感覚を呼び覚ましたのだ。
…大袈裟にいったが、椅子に座るだけである。
「美味しいねっ!」
「はい。甘いですが、程よい酸味もあり、食べた後はスッキリしますね」
シーベルトはミラードの特産の一つでもあるザーレンを食べた事はもちろんあった。
しかし、それはソースにしてあったり、何か別のデザートのトッピングであったり、ジャムだったり。
丸ごと食べた事は初めてであった。
「……私のせいですよね」
何か言い淀んだ雰囲気を醸し出したシーベルトは、レビンに自身の考えを唐突に述べた。
「何が?」
「レビンとミルキィがこうして私を連れ出してくれた事です。
父にも言われました。一つの事を考えすぎるのは領主として良くないと」
「確かに僕たちは辺境伯様から頼まれたよ。でも、友達なら当たり前でしょ?
悩んでいる友達が居たら一緒に悩むし、寂しくしている友達がいたら一緒にいるし、それが友達だと僕は思うよ」
辺境伯に自分の手助けだということは黙っていろと言われていたが、すでにバレているのでむしろ堂々と宣言した。
「私が一番許せないのは私自身なのです。今も友達に迷惑をかけている事も、自身の身を危険に晒した事も、あの事件が起こる前に防げなかった事も…何もかも足りません…いくら勉強しても…」
(あの書物の山はそういう事かぁ…)
「全部を自分だけで解決しようとしたらダメだよ。それは馬鹿のする事だよ」
「馬鹿ってねぇ…はぁ。シーベルト。レビンが言いたいのは、人はそこまで万能に出来ていないって言うことよ。
レビンなんて人に頼ってばかりよ?こう言っている私もレビンを何度も頼りにしたわ」
レビンの言葉を珍しくミルキィが補足した。それにレビンは内心驚くも、ここでは口を噤むことにした。
「ですが…領主になる以上は最終的に私が決めなくてはなりません」
「辺境伯様って自分だけで調べ物をしてるの?調査とかも含めてさ?
もちろん最終的に決めるのは一番上の人だと思うよ?でもそれまでは、みんなに色々頼んだっていいと思うよ。
シーベルトが悔やんでる件も、誰かに調査を頼んだり、守る様にお願いすれば良かっただけじゃないかな?」
「それは…」
「今だって、辺境伯様が頼んだって事じゃないの?本当は家族の事だから辺境伯様自身がシーベルトの為に動きたかったはずなのに、シーベルトには父よりも友人が必要だと考えて、僕達に頼んだ・・・んだよ。
シーベルトが悔やんでる事はすでに終わった事だけど、蟠りを少しでもなくす為には家族と話すしかないよ」
「そうよ。シーベルトは出来ない事は人に頼む事を覚えるべきね。私やレビンを見習ってね!」
餅は餅屋に。知識は大切な事だが、身を削って身をダメにしていい程のモノではない。
二人はシーベルトに自分のペースで歩めばいい。その時に足りないモノは誰かの力を借りればいいと、説き伏せた。
「ありがとうございます。今までの友人達と、二人は言う事が違うので助かります。いえ。助けられています」
「今までの友人ってどんな人でどんな話をしてたの?」
シーベルトに聞かされた話にレビンは顔を顰める。
「それってホントに友達ぃ?僕なら嫌かなぁ…」
シーベルトの友達とは領都の学友の事であり、いつも気を使われて、所謂『よいしょ』ばかりされてきたとの事。
「ははっ。確かに嫌ですね。しかし、レビン達に言われたお陰で、これまでにしてきた事の意味がわかりました。その友達の様な人達と付き合ってきたのは、これから頼み事をする人を増やす為だったんですね」
「あ、う、うん…」
そういう意味で言ったのではない、とは言えないレビンだった。
(まぁ助けてくれる人が多いのはいい事だよね?)
本当の意味でシーベルトを支えてくれる友人が、自分達以外でできる事を祈る二人だった。
僕達はいずれこの街をでなきゃいけないからね。と、レビンは新しい友人を見つめるのであった。
レベル
レビン:7(41)
ミルキィ:34
〓〓〓〓〓注意書き〓〓〓〓〓
レビンは天才肌ですが、中身はポンコツ村人です。