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あの後シーベルトは『家族と話し合ってみます!』と、気力の篭った目でレビン達に伝えた。
元気になったシーベルトを見ることができ、辺境伯から頼まれた事は解決し、一先ず家族を頼る事にしたようで、シーベルトを送った後、レビンは宿に帰り一心地ついた。
翌日、早朝の冒険者ギルドで、新たな依頼を探す二人の姿があった。
「何かいい依頼はないかなぁ」
例によって人混みを避けて、依頼の少ないボードを見つめるレビン。
「これなんてどうかしら?」
「火付岩トカゲの尻尾の採集?何だか変わった依頼だね。魔物なのに討伐じゃなくて採集ってところとか」
ミルキィの色白できめ細やかな細い指先を辿り、依頼を見つめたレビンは確認をする。
「いいかな?」
「もちろん」
レビンはミルキィの意志を確認すると依頼書をボードから剥ぎ取り、受付カウンターに持っていった。
「では、納品期限が10日ですので、それまでにお願いします」
依頼を受理したギルド職員が二人にそう告げた。
依頼を受けてギルドを後にした二人は宿へと戻り、準備を済ませて出立していた。
「今回は片道2日は掛かるから、またテント暮らしになっちゃうね」
「仕方ないわ。でも私は嫌いじゃないわよ」
ミルキィを気遣って言った言葉であったが、まさかの返答にレビンは内心で驚いていた。
(ミルキィってどこかお姫様に憧れていたから、野宿とか嫌がってるって思ってたけど……僕と一緒だったんだ)
レビンは野宿が好きというわけではない。
外であれば吸血鬼の事やレベルドレインの事がバレる恐れが少ないので、安心できるのだ。
宿では何が起きるかわからない。シーベルトの件で人の醜い部分を学んだレビンは、自分達がトラブルに巻き込まれやすい見た目である事をさらに自覚していた。
(ミルキィは綺麗だから男女関係なく注目を集めるし、僕はひ弱に見えるから絡まれやすいよね。これまでトラブルに巻き込まれていなかったのは、周りに恵まれていたお陰だったんだ。これからもそうとは限らないから何とかしなくちゃ)
「良かったよ。僕も街よりもテント暮らしや田舎暮らしの方が性に合ってるから楽なんだよね」
「レビンはどこでも上手くやれるわ」
ミルキィは心の底からそう思っていた。
(私だったら保身を考えて貴族に直談判なんて出来なかったわ。レビンは誰にでも同じように接するし、それを許される何かがあるのでしょうね)
もちろんレビンにそんな超能力があるわけもなく、レビンに言わせれば周りに恵まれていただけである。
しかし、人の善悪、良し悪しを見極める感覚は、生まれながらにして持っているのかもしれない。
「今日はここまでにしよう。僕は野営の準備をするから料理をお願いね」
レビン達が現在いるのは、獣道に毛が生えた程度の道だ。
周りは草が生い茂っていたが、一部だけ土が剥き出しの地面があった。
そこをキャンプ地とする事に決めたレビンは、荷物を下ろして準備に取り掛かった。
「そういえば…ギルドに人が多かったね」
レビンはテントを建てる為に手を動かしながらミルキィに話しかけた。
「そうね。前回も多かったけど、今朝はそれ以上だったわ。何かあったのかしら?」
「もし何かあったのなら気になるね。力になれるかもしれないし」
レビンの行動原理は人助け。もちろんそれ以上に大切な事もあるが、基本は基本だ。
食事を摂った二人は交互に見張りについて、その日は休むことに。
「あれが火付岩トカゲ…本当に火が付いてるわけじゃないんだね」
二人の視線の先には、赤い鉱石のようなものを身体に纏った大トカゲがいた。
「あれだけ目立つなら見失う事はなさそうね」
二人がいるのは山の山頂付近である。辺りは岩だらけで緑は殆どない。
ここに来るまでにはいくつか戦闘があったが、特に二人の脅威になる魔物とは遭遇しなかった。
その戦闘によりレビンのレベルが2回上がり、吸血を同じ回数行っていた。
出立から3日目の今日は、朝から依頼の魔物である火付岩トカゲを探していて、今見つけたところのようだ。
「確かに赤い鉱石のようなモノが火に見えるね。問題は依頼の品である尻尾だけど…やっぱり倒せばいいのかな?」
「それが早そうね」
2人はターゲットに忍び寄る。
火付岩トカゲのサイズは、全長130cmほどあり、尻尾だけで50cm以上はありそうだ。
レビンの身長は170cm程でミルキィは165cmあるので丸呑みにはされそうにないが、赤い鉱石のような鱗も含めた胴体は二人のそれよりも大きい。
慎重に近寄る二人は、対象まで凡そ10mの距離に近づいた。
「シッ」
ブンッ
一気に駆け寄り大トカゲに向けて剣を一閃したレビンであったが、その剣は予報に反し空を斬った。
「速いっ!?」
鉱石のような鱗を纏っていた為、鈍重だと思っていたその動きは、レビンでも追い切れないほどの速さだった。
「逃げられたわ…」
足場の悪さもあり、大トカゲの姿を二人は見失った。
「正攻法だと捉えられない…」
大トカゲはそこそこの数がいるようで、発見するのにはそれ程苦労をすることはなかった。
しかし、危険を察知するや否やすぐに回避行動を取る為、中々成果を上げる事は出来ない。
「多分、これが依頼が塩漬になっていた理由ね…」
今回の依頼も人気のないモノであった。
前回は採取依頼でさらに報酬も低かったから人気が無いのはすぐにわかったのだが、今回は報酬も他の銀ランク依頼に見劣りしない額だったのに人気がなかった。
その理由に、二人は漸く気付いたのであった。
「銀ランクでも苦戦するからだったんだね…」
「そうね。銀ランク昇格の推奨レベルが30レベル以上だから、少なくとも私には捉えきれないわ」
ミルキィのレベル毎の成長率は凡そレビンの半分である。
人族であるレビンが平均的な成長率であれば、レベル36のミルキィに今回の依頼は不可能ということになる。
「レベル43並みの僕でも追いきれないんだからあんまり関係ないのかも…あれを使おうかな」
「あれ?なによ?」
ミルキィの疑問にレビンが答えた。
どうやら今回の依頼は長丁場になりそうだと、話を終えた二人はため息をついた。
「まさかこうなるなんてね…」
二人の目の前には、ロープに縛られた尻尾だけが暴れていた。
「トカゲってわかった時に少し想像していたけど……実際に目の当たりにするとキモいわね…」
「でも依頼は完了だね!」
レビンがミルキィに伝えたのは罠を張ることだった。
その為には大トカゲを観察しなければならない。
観察の結果、大トカゲが岩場に来る鳥を餌にしている事が判明した。
鳥が好物だとわかれば後は罠と餌を準備するだけである。
鳥は狩で何羽も仕留めてきたレビンだった為、労せずに得ることが出来た。
後は罠であるが、レビンは少し苦手としていた。
そもそもレビンの家で行っていた狩猟は、基本的に弓を使うモノが多かった。
獲物が少なくなる冬の時だけ罠に頼っていたのだが、冬の間は雪かきや薪割りなどの手伝いを主としていた為、あまり狩猟をしなかったのである。
それでもなんとか記憶を辿り、罠を仕掛け終わる頃には日が傾いていた。
そして暗くなる前に罠をもう一度確認にやってきた結果が今であった。
その日は近くで野営して、翌朝からまた2日掛けて来た道を仲良く帰った。帰り道も行きと同じく2回のレベルアップとダウンがあった。
ミラードに着いた二人を待っていたのは、この世界の冒険者にとっての祭りであった。
レベル
レビン:7→8→7→8→7→8→7→8→7(45)
ミルキィ:34→38