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あれから数日間の入院生活を終えて、今日はついに待ちに待った退院の日だ。
経過は極めて順調で、頭の傷の痛みも手足の痺れも完全に消え去っていた。
昼頃には、しゅんが車で病院まで僕を迎えに来てくれることになっている。
すでに私服への着替えも、全ての荷物のパッキングも終わらせてしまい、迎えの時間まで少しだけ暇ができた。
僕はなんとなく、入院中によく通っていたフロアの隅にある談話室へと足を運んでみた。
談話室の奥にあるプレイルームでは、いつもと同じように小さな子どもたちが元気いっぱいに遊んでいた。
「あ!じゅうお兄ちゃん、おはよー!もう元気になったの?」
僕が入り口に立ったのに気づいたゆずちゃんが、パタパタと小さな足音を立てて嬉しそうに駆け寄ってきた。
「ゆずちゃん、おはよ。もうすっかり元気だよ!今日ね、退院するの。だから最後にゆずちゃんたちに会いたくて、ここに来たの」
僕の服装を見て、すぐに退院なのだと察したのだろう。
頭に痛々しく巻かれていたあの大きな包帯はもう小さなキズテープに変わっているし、車いすにも乗っていない。
何より、パジャマではなく私服姿の僕を見て、彼女は一瞬だけ分かりやすく寂しそうな顔を浮かべた。
「そっか……退院、良かったね……! ……でも、もう、じゅうお兄ちゃんに会えないの?」
「うーん……そんなことないよ。また絶対に遊びに来るからね。しゅんお兄ちゃんと一緒に!」
「本当に!?」
僕の言葉に、ゆずちゃんの顔が一瞬でパーッと明るくなり、「嬉しい!」とひまわりみたいに笑った。
けれど、その直後、彼女は何やら恥ずかしそうにモジモジと下を向いてしまった。
僕はその愛らしい姿に、彼女の目の前でそっと膝をついてしゃがみ込み、目線を合わせるようにして顔を覗き込んだ。
「ゆずちゃん、どうしたの?」
彼女は僕の顔をじっと見つめ直すと、小さな手を伸ばして、僕のシャツの袖口をぎゅっと掴んだ。
「あのね…?私、大きくなったら、じゅうお兄ちゃんのお嫁さんになりたいの。……だめ?」
少しだけ上目遣いになって、顔を赤くしながら一生懸命に想いを伝えてくれる彼女。
そのあまりにも可愛らしくてピュアな直球のプロポーズに、僕は思わず胸がきゅんとして、彼女の頭を優しく撫でた。
「あかーーーん!!じゅうは俺のや!!!」
その時、背後から廊下に響き渡るような大焦りの声がしたかと思うと、僕の肩を後ろから強烈な力でガシッと力強く抱き込んできた。
それはいつの間にか予定より早く病院に到着していた、しゅんだった。
「ちょっと、しゅんお兄ちゃん邪魔しないでよ!!今いいところだったのに!」
ゆずちゃんが、自分の恋路を邪魔されたとばかりに小さな頬をぷくっと膨らませて怒る。
「邪魔ってなんやねん!じゅうは俺のじゅうやもん!いくら可愛いゆずちゃん相手でも、じゅうだけは絶対に誰にもあげられへんからな!」
子ども相手に本気で対抗意識を燃やして、しゅんは僕の肩をこれみよがしに抱きしめてマウントを取っている。
……どんだけ独占欲強いんだよ、と心の中で呆れて突っ込みを入れたけれど。
でもはやちゃんとの約束を経て、僕のことを「俺の」と堂々と周りに宣言してくれる、彼のその真っ直ぐな真剣さが、今の僕にはたまらなく愛おしかった。
「ふふ、しゅん、大人げないよ。……ゆずちゃん、可愛いこと言ってくれて本当にありがとね。ゆずちゃんは、きっとこれからすっごく綺麗なプリンセスになれるよ」
「本当……?」
「うん、きっとね!でもね、その時が来たら僕なんかよりももっと優しくて、もっと素敵な王子様が、ゆずちゃんのこと迎えに来てくれるから」
「…え、ほんと?」
「うん!だから、それまでにゆずちゃんも元気になって、今よりももっと可愛くて最高に素敵なお姉さんになって待ってようね。お兄ちゃん、ずっと応援してるから!」
「わかった!私、ご飯いっぱい食べて、いっぱい寝て、苦いお薬もちゃんと残さず飲む!素敵なプリンセスになれるように頑張る!」
「うん!ゆずちゃんは偉いね。約束だよ」
そう言って、僕は彼女の小さな頭をもう一度手のひらで優しく撫で回した。
しゅんもそんな僕たちのやり取りを見て、ようやく大人げない対抗心を引っ込め、いつもの優しいしゅんに戻ってふにゃりと目を細めた。
「二人とも、また絶対に遊びに来てね?」
「もちろんやで!約束な!なぁ、じゅう!」
「うん。次またみんなで会えるの、本当に楽しみにしてるね」
ゆずちゃんは嬉しそうに笑うと、お世話をしてくれている看護師さんの元へと、パタパタと手を振りながら戻っていった。
to be continued….
もちぷよ
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