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放課後の教室は、淡いオレンジに染まっていた。
窓際の席から差しこむ夕陽が、机と床の上に長い影を落としている。
昼間の喧騒は跡形もなく消え、カーテンがふわりと揺れる音だけが響いていた。
「……あれ、忘れ物」
鞄の奥を探っても見つからなかった国語のノートを思い出し、
千歳詩乃は教室へ戻ろうと階段を上がる。
誰もいないはずの校舎に、自分の足音だけが響く。
それは好きな音でも、嫌いな音でもなかった。
ただ、いつもどおりの放課後。
──のはずだった。
教室の扉を開けると、透き通るカーテンがひらひらと揺れる窓際に、1人の少女が空を眺めていた
クリーム色のふわふわ髪が、風になびいて夕日と一体化しているよう。
窓辺寄りかかって、こちらに気づいていない彼女の名前は
「来栖 柚月」(くるす ゆずき)
クラスでは明るく元気で天然な少女で喋ったことはあまりなく、知り合い程度な関係だった
だが、今の彼女は穏やかで静かそうな少女で
明るく元気な印象が一瞬で崩れた音がした
柚月「……」
彼女はこちらに気づかず、不安定な窓枠へ体を乗り出した
一瞬、時間がねじれたようだった。 考えるより先に、身体が動いた。
詩乃「危ない……!」
詩乃の手が、柚月の手首をつかんだ。
細くて、震えていて、今にも折れそうなほど弱い手。
あたたかいのに、ひどく冷たい。
ようやく柚月が、詩乃の存在に気づいたように顔を向ける。
柚月「千歳……詩乃さん?!」
詩乃「そんなに体を乗り出したら危ないよ、来栖さん」
あわあわとしている柚月とまだ手首を掴んでいる詩乃。
そんな柚月の顔に詩乃が目線を向けると、頬が少し腫れていて
よく見ると、腕も痣だらけ。いつも綺麗に整えている髪もぐしゃぐしゃだった
詩乃「顔腫れてる……大丈夫?」
柚月「あ、うん!さっき転けちゃってさ!」
咄嗟に柚月は腫れている部分を手で隠す。
なにかあったことは明白だった
詩乃「……ならいいけど。」
柚月「千歳さんはなにかしに来たの?忘れ物?」
詩乃「……あそうだった、国語ノート取り来たんだった」
柚月「忘れてたんだ」
詩乃は机から国語ノートを取りだし、柚月に「またね」と言い
教室から出ていく。柚月は手を振りニコニコしていた
詩乃「……」
詩乃は柚月の腕の傷たちが気になり始めたが、
めんどくさい事になりかねないかもしれないと思い忘れることにした。
3時間目の授業が始まる鐘が鳴った
詩乃は遅くまで国語の課題をやっていたがためかとても眠そうで
授業中眠りそうになってしまう
先生「……はい。じゃぁ27ページ開けて〜」
よりにもよって社会の授業で、もっと眠くなってしまう
ふと詩乃の目に柚月が入る。教科書が無く、あたふたしている
先生「……ん?来栖さん。教科書を忘れてしまったのですか?」
柚月「……はいすみません〜…」
先生「も〜仕方ないですね。隣の桜木君に見せてもらいなさい」
桜木「机くっつけようぜ」
クラスのみんながクスクスと笑う音が聞こえる
変な不快感を覚える、詩乃。よく見ると桜木が柚月の腕を触ったり、足を触ったりしていた
詩乃は嫌なものを見たと窓の方に顔を逸らした。
クスクスと笑うクラスメイトと、気持ち悪いことをされているのに何も言わない柚月も
気持ち悪いことをしている桜木も、気づかない先生にも不快感を覚えた
詩乃「先生。体調が悪いので保健室に行ってきます。 」
先生「あ、千歳さん。わかったわ。お大事に」
教室出て、誰もいない廊下を通り保健室に向かう
詩乃「東雲せんせーおはよー」
東雲先生「おはよう千歳さん。また来たのー?今度はどうしたの」
詩乃「色々あって抜けてきた〜」
詩乃と友達のように話しているこの先生は「東雲 紗奈」保健室の先生だ
詩乃は東雲先生と仲が良く、よくこうしてサボっている詩乃に呆れるように喋る
東雲先生「またそうやってー…あ、そうそう千歳さん」
詩乃「ん?」
東雲「来栖 柚月さんって知ってる?同じクラスのはずなんだけど」
フラフラとしていた足を詩乃はピタリと止める
詩乃「来栖さんがどうしたの」
東雲「いやね、保健室に社会の教科書が捨ててあって、その持ち主が来栖さんだったの」
詩乃「ふーん……」
東雲「良かったら来栖さんに返してくれない?」
詩乃「……えー。まぁいいけど」
面倒なものを受け取ってしまった詩乃は、また足をフラフラさせる
試しに柚月の社会の教科書をひらりとめくってみる
詩乃「……」
そこには大きな字で「しね」「びっち」「くそぶす」などが
書かれてあった。
授業が終わり、教室に向かう。
またいつも通りのクラスメイト達に嫌気がさす
佳奈「しのーー!大丈夫かー!」
うるさい声で抱きついてくる彼女の名前は「春日 佳奈」
詩乃の数少ない友達である。
詩乃「佳奈うるさい。大丈夫だよ」
佳奈「ただのサボり」
詩乃「だまって」
佳奈と軽口を叩きながら席に戻る。
時間割を確認すると、次は数学
数学の教科書とノートを出し、準備をする
佳奈「あ、やば。課題やってない!!!」
詩乃「あと20分しかないよ」
佳奈「ちょっと本気でやってくる!」
佳奈は急いで自分の机に戻り、黙々と課題をやり始めた
今回の課題は難しくないから、佳奈もすぐ終わりそうだった
詩乃は柚月の教科書を返すために、柚月を探し始めた
廊下も、トイレも、もちろん教室にも居ない。空き教室も見たが居ない
詩乃「北校舎まで行ってるのかな」
旧校舎はあまり使われていなく、古くボロボロ
しかも本校舎から出て外から入らないと行けないからめんどくさい
だがあと15分もあるし、教室に帰ったって暇なだけ
詩乃は仕方なく、旧校舎に入る
電気は通ってはいるが、ついてない。明かりは窓からのだけ
薄暗いけど少し落ち着く。汚いと言うよりもボロボロで古いだけで使えるような気もする
旧校舎は二階建てで、階段を登らなければならない。それはいいのだが
階段が急で疲れる。
詩乃はゆっくり階段を上がり、やっとの思いで上がりきる
2階の教室を見ていくと、1番奥の教室から話し声が聞こえた
仁子「ほんとあんたって気持ち悪い。」
美咲「泣いてんのおもしろーい」
蘭々「きいてんの?」
柚月「……」
仁子「泣きたいのはこっちなんだけど」
美咲「蘭々やっちゃってよまた」
蘭々「えーー、触りたくないんだけど〜」
仁子「うちの彼氏寝取るビッチはボコしてなんぼよ」
柚月「…そんなことやってな…」
柚月がそう言い終わると共に、蘭々という少女が柚月の髪を引っ張り上げ
身動きできない柚月に、美咲と仁子が蹴りを入れる
蘭々は乱暴に柚月の髪を掴むのをやめて、柚月の顔にビンタした
その間柚月は、何も言わずにただ受けてるだけ
詩乃はちょうど死角になる部分で座り込み聞いていた。
美咲「あ、やばいよ仁子蘭々。授業始まるよ」
仁子「えーまじウザー。こっから教室まで遠いんだよねー」
蘭々「はよ行こいこ」
仁子達は詩乃にも気づかずに、教室に走って戻って行ってしまった。
詩乃はようやく立ち上がり、柚月の居る教室に入る
柚月は詩乃を見る途端、時が止まったようにガチっと固まってしまった
柚月「……え 千歳さん?!ど、どうしてここに…」
詩乃「…君の社会の教科書届けに」
柚月「ここまで来たの?!」
柚月は「?」を浮かべながらも、詩乃が社会の教科書を受け取る
詩乃は、また腫れている顔や、傷だらけの腕に触れる
詩乃「…大丈夫?じゃないか」
柚月「あーー!えっと大丈夫大丈夫!ちょっと喧嘩しちゃっただけで」
詩乃「…」
関わるつもりはなかったが、酷い傷や、無理をする柚月の顔を見て
詩乃は仁子達に腹が立ち始めた
詩乃「どうしてやり返さないの?」
柚月「えっと〜。…私が悪いからさ、仕方ないんだよ」
詩乃「さっき聞いた感じ、そんなこと無さそうだけど」
柚月と詩乃の間の時間に気まづい空気が流れる。
詩乃は真剣に柚月の顔を見る、柚月は今にも逃げたそうだ
少しすると、授業が始まる鐘が鳴ってしまった
柚月「…あっ!授業やばい!行かなきゃ」
急いで走って行こうとする柚月の腕を詩乃は咄嗟に掴んだ
無意識だった。考えるより先に動いた。
柚月は驚いたように足を止める
詩乃「ダメだよ。その傷手当しよ来栖さん」
柚月「だ、大丈夫…」
詩乃「だめ」
柚月の腕を引っ張り、保健室に連れていく
柚月は「大丈夫だよ!」とか「授業行かなきゃ」とかをずっと言っていて
自分の身体に優しくないことばかりだった。腕は痣だらけ、血もダラダラ出ていて
顔は赤くなっていた。髪もぐしゃぐしゃで酷い
詩乃「自分の身体大事にして」
保健室に着くと、東雲先生は驚いたように駆け寄り
すぐに柚月の手当を始めた
東雲「来栖さん。どうしたの?この傷達…」
柚月「あーっ。えっと…転けちゃって!」
詩乃は虐められていたことは言わずに、柚月が血を流してるのに
授業を受けようとしていたから、連れてきたと事情は明かした
東雲「この量の傷、久しぶりに見たわ。本当に転んだの?まさか虐められ…」
柚月「わ、私ドジで!よく転んじゃうんです!」
詩乃「そんなことより、早く血止めなきゃ」
東雲「あ、そうね。消毒するね、ちょっと染みるけど」
柚月は染みてとても痛そうで顔をしかめていた
東雲先生は、手際よく包帯を巻いたり絆創膏を貼ったり消毒したりと
やっぱ保健の先生なんだなと詩乃は実感した
東雲「よし、手当終わり!もう無理しちゃダメよ 」
柚月「はい!ありがとうございました!」
そう言い終わると、授業が終わりを告げる鐘が鳴ってしまった
詩乃「あ、そういえば。来栖さん社会の教科書は?」
柚月「えっあっ!置いてきちゃった…取りに行ってくる!」
詩乃「一緒に行くよ」
柚月「え、いいよ!遠いよ」
詩乃「いいの」
東雲先生はにこりと微笑んで手を振ってくれた
また旧校舎に向かう
急な階段を上がって、1番奥の教室に着く
柚月は自分の社会の教科書を拾いあげて、にこりと微笑んだ
詩乃は不覚にも可愛いと思ってしまい、顔を逸らす
柚月「あったよー!ありがとう千歳さん!行こ!」
詩乃「…うん」