──夜の静けさが、無数の歪んだ影と共に破られる。
千早が手にしている呪具、その名も「竜王の眼」。それは単なる呪具ではない。伝説的な存在であり、呪術界でもその力を知る者は少ない。竜王の眼には、呪具効果の変更で、目に見えるものすべてを操る力が秘められており、千早はその力を完全に使いこなすことができる数少ない使い手だ。
その眼を手に入れた千早は、もはや他の呪術師とは一線を画する存在だ。竜王の眼が持つ力は、ただ「見る」だけではない。その眼を通して全てを読み解き、自在に操ることができるのだ。
千早の目の前に広がる光景が、徐々に変わり始める。その視界が、まるで彼女が世界を支配しているかのように歪み、広がりを見せる。
千早:「竜王の眼が全てを支配する。」
彼女が呪具を持つ手をゆっくりと開くと、周囲の空間が一変する。目に見えない力が、周囲の物理法則を捻じ曲げ、風さえも静止させた。すべてが彼女の視界内で動いているかのように感じられる。
その瞬間、伏黒と虎杖の動きが鈍くなる。まるで時間が遅くなったかのような錯覚に襲われ、彼らはその力を感じ取ることができた。
虎杖:「何だ、この感覚──」
その言葉が出た瞬間、彼の周りの空間が重力に引き寄せられるように圧迫され、足元が崩れそうになる。伏黒も同様に、魔虚羅を召喚しようとしたが、その呪力さえも制限されているかのように感じた。
伏黒:「これは…竜王の眼の力か。」
竜王の眼は、周囲の力を無視して、意志で世界を操作できる呪具だ。そのため、相手の呪力を制限したり、逆に自分の力を何倍にも増幅させることができる。
千早はその力を完全に使いこなし、二人の動きを封じ込めようとしていた。しかし、その圧倒的な力に対して、伏黒と虎杖は動揺することなく冷静に対応しようとした。
伏黒:「俺たちの動きが止まるわけじゃない。十種以外を使ってやる」
伏黒は冷静に言った。彼はすぐに魔虚羅の代わりに、別の式神「蟻地獄」を召喚し、地面から巨大な蟻のような形をした式神が現れる。蟻地獄は相手を捕らえるだけでなく、その呪力を吸収することができる。
虎杖:「俺も──!」
虎杖は「黒閃」を放ち、空間を切り裂くようにして千早の視界に向かって突撃を試みた。その動きは早く、千早の眼がそれを捉えようとした瞬間、虎杖はその隙を突いて一気に間合いを詰めた。
だが、千早は竜王の眼を軽く一瞥するだけで、彼の動きが予測されてしまった。虎杖の攻撃がすれ違う瞬間、千早はその目を見開き、反転させる。
千早:「やはり、単純な力では無理だわ。」
彼女の言葉が響くと、空間がひねりを加えて虎杖の体を押し戻す。今度は、伏黒の蟻地獄の攻撃を完全に無効化し、呪力を逆転させて、彼の力を自分のものに変えていく。
竜王の眼の本質は、単に「見える」ことではなく、見たもの全てに影響を与える力にある。千早はその力を使って、周囲の時間や空間さえも操り、自分の思い通りにする。
千早:「今、私はすべてを見ている。君たちの動きも、心の動きも。」
その言葉と共に、周囲の空間が一気に引き裂かれ、時間が歪む。伏黒と虎杖はその力に抗えず、心の奥底で恐怖を感じ始める。しかし、千早はその恐れをさらけ出すことなく、むしろ自らを支配するその力を楽しんでいるようだった。
伏黒と虎杖は、今までにないほどの強力な呪力に押し込まれていた。しかし、どこかで彼らの心が折れることはなかった。二人はあくまで前に進み続ける。
伏黒:「俺たちは負けない…!」
その言葉に、千早は一瞬だけ動揺の色を見せる。竜王の眼で彼らを支配することに自信を持っていたが、この二人の覚悟には予想以上の力があることを感じていたのだ。
千早はその力を解放しながらも、どこか物足りなさを感じていた。だが、勝利は間近に迫っている。
千早:「結局、私が勝つのよ。」
しかし、その言葉が響く中、伏黒と虎杖はまだ諦めることなく、戦い続ける決意を固めていた。
──戦いは続く。