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高校生になってからもう4か月がたった。夏休みが明けてしまって悲しいというのに、クラスの眩しいグループは、とても元気だった。しかも夏休み前より規模が大きくなっていて、驚きつつ見ていた。
「おーどした蒼汰!! そんな眩しそうな目でぼーっとして!」
「も一悠斗君、急に大きい声出したら蒼汰君びっくりしちゃうでしょ。ってあれ? おーい」
いつのまにか目の前にいて、思わず「うおっ」と声をあげてしまった。
「悠斗と仁か。おはよう」
「「おはよ!」」
中学から一緒に過ごしてきたお馴染みのメンバー。この二人とはアニメやマンガ、ゲーム、ボカロの話でよく盛り上がる。なのでとても気が合った。
下校時刻のチャイムが鳴った。二人がいつものように「帰ろう」と言った。
「ちょっと俺さ、校舎裏にシャーペン落としたかもしんねーからちょっと待っててくんね?」
「なんでシャーペン落としたんだよ」
「外でシャーペン対決してたら落としちまったんだよー」
「外でやる必要なくないか」
「え、そこ?まぁ僕達もついてくよ」
「おーサンキュ!」
「…でもなんか騒がしくないか」
校舎の影に隠れてのぞいてみた。そこではこの学校で問題になっている7人程のいじめグルーブが同学年をいじめていた。
「げ、あいつらか、やっぱサイテーだな」
「これはひどいね…」
人の気持ちも考えず、平気でいじめをするヤツらを見て居られなかった。気づけば俺の身体は勝手に動いていた。
「あ?んだよてめぇ」
胸ぐらを掴まれて殴られそうになった。俺は頭より体が先に動くタイプだから、毎度こうなってしまう。
「おい、なにしてくれてんだ」
悠斗が怒声をあげて相手の腕を強く握って少々痛めつけた。
「…ったく、相変わらず蒼汰はせっかちだな。もう俺らをおいて突っ走んなよ!」
太陽のような笑顔で俺の背中をバンッと叩いた。
「このやろォ!邪魔すんなぁ!!」
再び俺達に殴りかかろうとした。
「あなた達、こんなことして何とも思わないんですか?」
仁がいつもより低い声で言った。相手の動きがピタリと止まった。
「あ?思うも何も弱い奴が泣き喚いているところ見んのは楽しいだろ?」
相手とその仲間は見下すように大声で笑った。
「そうですか。残念です」
いつも笑顔を絶やさない仁が冷徹な表情をした。仁はこう見えて、小さい頃武術を習っていた。仁は7人もいるいじめグループを、一人でこらしめた。
「それじゃあ、もう二度とこんなことしないでね?」
「チッ……い、いくぞ」
「おわぁ、さすがだな仁! 蒼汰も大丈夫だったか!?」
「怪我はない? 痛いところは?」
「え、い、いや、大丈夫…」
悠斗と仁は顔を見合わせてホッとした。俺は下を向いて自分の足もとを見た。自分はなんて無力なんだ。その上、悠斗と仁に迷惑をかけた。
「ん? 蒼汰どうした? やっぱりどっか怪我したのか!?」
「――ご、ごめん。俺のせいで…」
空気が静まり返った。中学の時は俺がいじめられているときに悠斗と仁が助けてくれたなんてこともあった。また俺のせいで巻き込んでしまった。
「…なんで蒼汰が謝るんだよ。これは俺達がやりたくてやったことだろ!」
「け、けど」
「悠斗君の言うとおりだよ。万が一、またあいつらが来ても僕もいるし。大丈夫だよ」
「まぁ、そんなに気にすんな!蒼汰は優しいヤツだな!」
俺は優しくなんてない。優しいのは――。と言い返そうとしたけど今は受け入れるのが正解だと感じた。
「でもさぁ、普通あそこは?ごめん?じゃないよね」
「だよな~俺達がほしかったのはそんな言葉じゃないのになァ」
「う、あ、あり、がとう…」
二人は顔を合わせてニッとした。
「あははは! 蒼汰顔赤っ!」
「確かに!トマトみたいだね。それじゃあ疲れたことだし、帰ろうか」
世界が三つの花で彩られていくようだった。
「ねぇ、そういえばさ、あのシリーズの新しいホラゲー、みんな知ってる?」
「知ってる。あのホラゲー結構怖いらしいよな」
「アレ?蒼汰クンもしかして怖いんすカ?」
「…別に怖くない」
悠斗と仁は目を合わせてフフフと苦笑いした。なにか企んでる気がした。
「それなら僕の家でやらせてあげるよ!」
「絶対やだ」
「んじゃあ、プタバで期間限定スイーツと蒼汰が好きな、ホイップたっぷりフラペ奢ってやるっていったら?」
「絶対行く」
「ははは!ほんとに甘いの好きなんだな!!んじゃあ俺はパスでー」
「悠斗君も実は怖いの?」
「怖いのか?」
「うるせ!!」
その後もアニメのキャラやゲームの攻略の話、ハマってることとか好きなタイプの話をしていた。どれも他愛ない話だった。あっという間に時間はすぎ、大通りにでた。俺の家と仁の家は大通りを出て左の方向にあるが、悠斗の家は右の方向にある。
「そんじゃあ、またな明日な!」
一日が終わるのが今日は一段と早く感じた。もっと二人のことを知りたい。思い出をつくりたい。なんだかそんなことが頭によぎった。自分が別人みたいだ。
「待て悠斗…!明日、そ、の」
「ん?どした蒼汰?」
「あ、明日、3人で、カラオケ、とか…」
悠斗と仁は目を丸くした。普段俺から誘うなんてなかったからだろう。誘う勇気がなかったから。
「やっと言ってくれたな!いいに決まってるだろ! 明日放課後、忘れんなよっ!」
「僕も大賛成で!」
俺は思わず笑みがこぼれた。心に溜め込んで積もりに積もっていた、やるせない過去すらもどうでもよく思えた。
「じゃあな!!」
「また明日!」
「…またな!」
こんな日々がずっと続くだろう、続いてほしいと思っていた。思っていたのに。
悠斗の方向から車の強いブレーキ音がした。今までにないような悪寒がした。後ろを振り返ったと同時に、衝突音が街中に響いた。
そこには大型トラックが歩道を乗り超えて建物にぶつかっている姿があった。周りには車の部品や建物がひび割れたものが散らばっていた。
もしかして、と一瞬思ったけど、悠斗なら生きているだろうという甘い考えがよぎった。でもそれは、ただの願望でしかなかったのだ。上空にあった真っ黒な雨雲が雨を一気に降らせた。
「――悠斗!!!!」
「悠斗君!!!!」
俺と仁は必死で悠斗の元へ走り出した。たくさんの雨粒が強く打ち付ける中、こけたり滑ったりしながら必死に走った。
でも、悠斗は、無事ではなかった。その証拠に悠斗の頭からは赤い血が広がっていた。頭が真っ白になった。急に強いめまいと頭痛がした。
カラオケ、まだ、行ってないのに。まだみんなでやりたいこと、話したいこと、数えきれないくらいあるのに。なんで、なんで――。