よもや、夢で死にそうになっているなんて、どうしても言えない。信じられる人間は、やはり、同じ体験をした人だけだろう。
「そうか。ま、時には休みたくなる時って、あるからな。明日は祝日で休みだが」
上村の頭が優しく仄かに光った。
セレスでの仕事だけで、何とかなるのだろうか?南米に一日でも早く行ったほうが……私はペットボトルの最終目視検査をしながら考えていた。
けれど、南米に行って何をすればいいのだろう。コーヒーに呪いか何かをかけているシャーマンに出会って、やめてくれと懇願でもすればいいのだろうか。
「どうしたんだ。顔色が青いぞ。今になって調子が悪いなんて言うなよな」
上村は心配な声色。私は青い顔をしていたようだ。
「いえ、大丈夫」
私はそういうと、色々と考えている不安な自分を頭から追い出した。
………
その日は残業だった。帰路でとぼとぼと大通りを歩くと。いかにも高級そうな自動車が私の前で停まった。雑誌で見たことがある赤いフェラーリのようだ。
「赤羽さん。大丈夫?」
見ると、呉林の姉の霧画だった。
「安浦さんから連絡がきて、ご主人様の帰りが遅いって聞いて」
霧画はそう言うと目をぱちくりした。
「なんだ残業か何かだったの。でも、あまり根詰めないでね」
私はいらぬ心配をさせてしまったようだ。確かに今のねじ曲がった現実ではいつ襲われるか解らないではないか。
「すいません。いらない心配をかけてしまいました」
「はあ。よかった。あなたはこの現象を何とか出来る力があるのよ。もし何かあったら、世界は崩壊してしまうのよ」
霧画は本当に心配しているようだった。……あの……私が世界を救うと言っているんですけど……。
「乗って」
「はい」
私は逆らわずに車に乗った。呉林姉妹には逆らえない何かがあるようだ。
居心地の良い体に座席の皮がフィットする助手席に座ると、昨日の晩の話をしてくれた。
私の隣、運転席に座っている人は相変わらずの凄い美人だった。
「あの。異界の者って、俺の職場にもいるんですか」
「異界の者はどこにでもいるわ。でも、もっと恐ろしい事があるわ。それは異界の者やコーヒーに呪術を施しているシャーマンも怖くて危険だけど、夢のバランスが崩れる方がもっと恐ろしいのよ。そのせいで現実が侵食されているの」
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