テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
ライラ からぴち・シクフォニ♡
20
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
それにしても、一人であれこれ考えても拉致があかない。ここはダイレクトに本人へぶつけるのが一番だ。
「あのさ。……しゅうとに聞かれたんだよ、いつき君のキスの癖」
「えっ!? なんで!?」
「いや、こっちが聞きてぇわ」
「……なんか、恥ずかしいな」
「いや、教えてねーから」
いつき君自身にも、なぜしゅうとがそんなことを知っていたのか、心当たりはないらしい。……となると、やはり本人を問い詰めるしかないか。一生ストーカーの影に怯えながら付き合っていくなんて、絶対に嫌だ。
「……じゃあさ。いつできる? キス」
「『じゃあさ』の使い方間違ってねーか?」
いつき君の頭の中は、もう俺とのキスのこ
とでいっぱいらしい。しゅうとのことなんて、どこかへ飛んでいってしまった姿に思わず笑ってしまう。
「あー……。じゃあ、金曜のフットサル前、うち寄る? その時間なら親もいねぇし」
「……うん。一時間あれば、いろいろできるね」
「お前、今キス以外のことも考えただろ」
「え、いっちゃんは嫌なの? 本当に?」
確信犯だ。
少し潤んだ瞳で俺の反応を見透かしてやがる。
「……覚悟しとけよ」
耳元で低く囁いて、俺はわざと先に歩き出した。
……ダメだ。
背後を振り返らなくてもわかる。
いつきくんが今、どんな顔をして俺を見ているのか。
あんな瞳を向けられたら、午後の授業なんて集中できるはずがない。
「なぁ、ちょっといい?」
「は? 俺、忙しいねんけど」
「すぐ終わる。ちょっと来い」
放課後。人目を避け、しゅうとの腕を引いて廊下の隅へと連れ出した。そういえば、以前ここでこいつに絡まれたことがあったっけ。
「あのさ。こないだのいつき君のキスの癖……あれ、なんで聞いたんだよ」
「あー……ちょっと、引っかかっとることがあって。その前に、誤魔化さんと本当のこと教えてもらってもええ?」
正直に話すべきか。昼休みのうちにいつき君となにか口裏を合わせておけばよかった。
「それはさ……いつき君の気持ちもあるだろ。本人の許可なしに、本当のことは言えない」
その瞬間、しゅうとの表情が劇的に変わった。……なんだ? そんなに真剣に悩むようなことか。
「……確かに、言う通りやな。俺が配慮に欠けとったわ。ごめん」
「え?」
あまりに謙虚な謝罪に拍子抜けする。さっきまでの威勢はどこへやら、今のこいつは捨てられたチワワみたいな顔をしてる。
「ちょっと待って、こっちはモヤモヤしたままなんだけど」
「俺だってモヤモヤしてたから聞いてん。けど、教えてもらえへんのなら、これ以上の話は出来ひんやろ」
「まぁ……そうだけど」
言いたいけれど、言えない。お互いの「秘密」が交錯して、妙な緊張感が漂う。
「……えっと。なんの話してるの?」
背後から、ジリジリと間を詰めてきていた気配が声をかけてきた。
「べ、別に何もない」
「……そう?」
不穏だ。しゅうとは明らかに動揺しているし、ゆうたはゆうたで、何かを言いたげに口を噤んでいる。いつもの空気の読めない勢いはどこへ行ったんだ?ゆうたまでキャラ変したんだけど。
「……いつき君。見えてるよ」
「ゆうたの後ろに隠れるのは、流石に無理があるで」
しゅうとのツッコミ通り、ゆうたの背後からいつき君がひょっこりと顔を出した。
「……俺も、気になっちゃって」
上目遣いでこちらを伺ういつき君。
しゅうとがこの2人に隠してる限りここで話すのは控えた方がいいな。
「あ、しゅうと。連絡先教えてくんない?」
「え、まだ知らなかったの?」
「うん。必要なかったし」
「俺も必要ないわ! これからも、金輪際な!」
顔を真っ赤にして吠えるしゅうと。……なんなの、ずっと思ってたんだけど、ほんと。
「……怒ってても可愛いよな、お前」
「はぁ!? よく言うわ! そんな『可愛い』とか、いつき君の前で……っ!」
怒ってるけど、耳まで赤くなっているのを見ると、少しは喜んでいるのかもしれない。その素直じゃない反応が、笑っちゃうくらいに可愛い。
「友達になろうって意味だよ。ほら、早くスマホ出して」
俺が自分のスマホを差し出すと、しゅうとは渋々スマホを取り出した。……なるほどな。しゅうとは強引な押しに弱いタイプか。ゆうたがこいつを落とせた理由が、なんとなく分かった気がする。
「ちょっと待って! ダメだよ! しゅうとは俺以外とLINEしちゃダメっていうルールがあるの!」
とうとう来たか、ゆうたの独占欲の爆発。この勢いで交際宣言でもしてくれれば、思う存分イジってやれるんだけど。
「……ゆうた。そういうの良くないよ。しゅうとのこと、信じられないの?」
静かに、けれど芯の冷えた声が響いた。
いつき君だ。初めて見る、感情を削ぎ落としたような冷ややかな表情。
「う……そういうわけじゃないけど……」
ゆうたが動揺しているのが見て取れる。え、何?この2人上下関係でもあんの?
……いつき君、今、ちょっと怒ってたよね?
「別に、無理ならいい。強要しても仕方ねぇしな。また用事がある時に教えてよ。……じゃあ、いつき君、帰ろっか」
空気が冷え切る前に、俺は無理やり話を切り上げた。正直、いつき君の見せた「別の顔」に、背筋が少しだけ震えていた。あの二人の様子といい、やっぱり何かがある。
帰り道。いつきくんの顔色を伺いながら、俺はわざとおどけたトーンで話しかけた。
「それにしても……あのカップル、めちゃめちゃ可愛くねぇ? 例えるなら、チワワとポメラニアンだな」
「ね。2つセットでキーホルダーにして持ち歩きたいくらい」
「……いつき君、センス独特だよね」
よかった。さっきの冷たさはどこへやら、いつものふわふわニコニコしたいつき君に戻っている。
「あ、さっきゆうたが言ってたんだけど……あ、言っちゃダメだったかな」
「ん? なに?」
「……えっと。しゅうとが、『どうしたら自然にいっちゃんって呼べるかな』って、真剣に悩んでたらしいよ」
「えっ!? なにそれ、可愛い!」
だめだ。俺、あいつのファンになりそうだわ。