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「風紀違反三件目。これはさすがに、見逃せない」
放課後の校舎裏。タバコの煙が消えたあと、俺――生徒会長の蓮(れん)は、
その“問題児”を睨みつけていた。
彼の名は、神谷 輝(かみや・ひかる)。
金髪にピアス、制服は乱れ、遅刻常習犯。
でも、何を言っても響かない、笑ってごまかすようなやつだ。
「で? お説教? それとも……罰?」
「お前、本当に反省する気あるのか……?」
「ねぇ、生徒会長ってさ。俺のこと、ずっと見張ってるけど――もしかして、俺のこと好き?」
「はっ……?!」
からかうような笑み。
一歩詰め寄られて、俺は一瞬、言葉を詰まらせた。
「ま、俺もさ。嫌いじゃないよ?
そういう、“ルール通りじゃないと気が済まない”って顔」
「……神谷」
「でも俺、そんなやつをめちゃくちゃにして反応見んの――結構、好きなんだよね」
次の瞬間、腕を掴まれて物陰に押し込まれる。
誰もいない放課後の倉庫裏。背中が冷たい壁にぶつかって、目の前には笑う神谷。
その距離は、明らかに“友達”のそれじゃない。
「……っ、何を――」
「いいから、試してみよ? その偉そうな生徒会長が、
どこまで“従う側”に向いてるのかさ」
耳元に落とされた低い声と、首元に触れる熱。
拒めばいいのに、身体は妙に火照って――
自分の知らない自分が、
ゆっくりと引き出されていくのがわかった。
彼の触れ方は強引で、無神経で、好きになんてなれるわけがない。
本当は嫌いだったはずなのに――
なのに、指先が這うたび、
耳元で囁かれるたび、
身体が勝手に反応して、息が漏れて、声が震えて、
「……やめてよ」って言う自分の声が、どこか甘くなっていて。
嫌なのに。
怖いのに。
気持ちいいなんて、絶対に言いたくないのに。
でも、奥の奥がじんわり熱くなってきて、
拒むはずの言葉が、喉まできて止まらなくて――
「や、やめろ……っ、これ以上は、本当に……っ」
口ではそう言っているのに、
蓮の指先は神谷のシャツを掴んだまま、離せなかった。
乱れた制服。赤くなった耳。
首筋には、さっきつけられたばかりのキスマーク。
神谷は笑っていた。
まるで、すべて読んでいたように――
「なぁ、会長。さっきから“やめろ”ばっか言ってるけどさ、
そのわりに……ここ、トロトロなんだけど?」
「なっ……っ、そんな……っ、触るな……!」
「嘘つけ。触られるの、ずっと待ってた顔してるくせに」
下着の上からなぞられた指先に、蓮の身体が跳ねる。
びくびくと震えて、腰を引こうとしたのに、
もう退路なんて――どこにもなかった。
「や、やだ……これ以上されたら……俺、おかしくなっ……♡」
「おかしくしてあげるって言ったろ?」
神谷は蓮の手を取り、自分の太ももに押し付けた。
熱が伝わってきて、無意識に目をそらすと――
「見ろよ。俺も、こんなになってる。
……会長のせいだよ?」
「俺の、せい……?」
「そう。会長の、震えてる声とか、涙目とか――
ぜんぶ、えっちすぎて、我慢できなかった」
ふざけてるのかと思った。
でも、神谷の目はまっすぐだった。
遊びじゃない。
本気で、堕としにきてる――そう思った瞬間、
「……やっ……! んっ、うぅ……っ♡」
前触れもなく押し当てられた熱に、声が漏れた。
柔らかく擦り合わされるたび、
さっきまで必死に堪えていた蓮の“何か”が壊れていく。
「だめだって……俺……もう……♡ こんなの……知らない……っ」
「知ればいいじゃん。俺が、全部教えてあげるよ」
そう言いながら、神谷の手は、さらに奥へ――
制服の奥、プライドの奥、
“会長”の皮を剥いで、“ただの男の子”の部分だけを
むき出しにしていくように。
「……っあ、あ……や、だめ……♡」
快楽に勝てなくなった瞬間、
「嫌」の意味がゆっくりと、変わっていく。
次の日
「来たんだ。……俺なんかに、身体めちゃくちゃにされたのに」
開けた瞬間の神谷の笑みが、蓮は本気で嫌だった。
見下してる。愉しんでる。
それが顔に出てるのに、なぜか心臓が早鐘を打つ。
「……勘違いするな。ただ話があるだけだ」
「じゃあ、その制服の下。
昨日俺が舐めたとこ、どうしてそんなに反応してるの?」
「っ……っ……!」
そう言われた瞬間、神谷は一歩、蓮ににじり寄った。
制服越しにわかる熱。
逃げようとしたのに、壁際に押しやられ――
「やめろ……!最低な奴だな、お前」
「うん。でもそんな最低な俺に、
昨日“身体の奥まで”許したの、誰だったっけ?」
「……っっ!」
「ちゃんと嫌がってたくせに、泣きながらイってたじゃん。
……ほんとは気持ちよかったんでしょ?」
「っ、気持ちよくなんて――っ♡」
言いかけた瞬間、押し当てられた場所から熱が伝わってくる。
わかってしまう、自分の身体がもう抗えないことに。
悔しいのに、涙が出てくるのに、なのに――
「ねぇ、また声出ちゃったじゃん。……嫌な相手に、反応しちゃってさ。
そういうの、一番えっちだよ?」
「……やだ……ほんとに、お前のことなんか……っ、嫌いだ……っ」
「でも、感じちゃってる。……こっちは素直なのにな?」
「ちがっ、そんな、ことっ……♡」
神谷の手が制服の裾から潜り込み、
触れられるたび、蓮の身体が敏感に震える。
なのに――「嫌いだ」と言い続ける会長。
なのに――涙を浮かべながら、
身体はまた、“あの夜”を思い出して濡れていく。
「じゃあさ――“嫌いな相手に抱かれる”って、どんな気分?」
「っ……っやぁ……っ、そんなこと、聞くな……!」
「答えてよ。……会長の声で。
涙声で、“嫌なのに♡”って……聞かせて」
「また会長と二人きり?ほんと、お前図々しいよな」
低くて鋭い声が、書記室のドアの前から聞こえた。
振り向くと、そこに立っていたのは――副会長・新庄 拓馬(しんじょう たくま)。
冷静で有能、生徒たちからの信頼も厚い“完璧な男”。
「何の用だよ、邪魔すんなよ。こっちは話の途中なんだよ」
「……会長を“口説いてる”最中か?」
「は?テメェには関係ねぇだろ」
神谷が苛立ちを露わにする一方で、新庄は静かに会長を見つめた。
その視線が、どこか挑発的で、鋭い。
けれど――その奥には、少しだけ“痛み”のような何かが混ざっていた。
「会長。……本気で、コイツと付き合う気なのか?」
「……ぼくは、まだ……」
言いかけた会長の言葉を遮るように、神谷が腰に手を回した。
そしてわざとらしく、耳元で囁く。
「昨日、どんな声で鳴いたか、教えてやろうか?」
「な……っ、やめ……っ!」
「その反応……マジで、感じてたよな?」
「……最低だな」
新庄の声が、低く静かに響く。
だが次の瞬間、会長のもう片方の手を新庄が取り――
「なら、俺にも触れさせて」
「……え?」
「お前がそんな顔してるの、見たくなかったけど……。
もう、黙ってるのはやめる」
二人の男に、両側から見つめられる。
片方は乱暴に、もう片方は静かに。
だけどどちらも、欲しがっているのは“俺”で。
「どっちに抱かれるか――ちゃんと、選べよ。会長」
「なあ、会長……どっちにされたい?」
神谷の低くくぐもった声が、耳元で囁かれる。
その言葉に、身体がびくりと跳ねる。
「や……めて、僕は、そんなつもりじゃ――っ」
「ほんとに? じゃあ、顔が赤いのはなんで?」
神谷が意地悪く笑って、蓮の制服のボタンをゆっくりと外していく。
それを見ていた新庄が、静かに言った。
「……会長が嫌がってるだろ。離れろ」
「どの口が言うんだよ。さっき、触ってただろ」
ピリッとした空気が走る。
だが、蓮の肩に触れる二人の手は、どちらも“優しくはない”。
どちらも、譲る気はない。
「俺の方が、先に会長に触れてる」
「けど、俺の方が会長をずっと“見てた”。」
「どっちでも……っ、僕は、もう……!」
叫びかけた蓮の口を、神谷が強引に塞いだ。
その瞬間、反対側から新庄が手を伸ばし、蓮の指先に静かに触れる。
違う温度、違う執着。
「……っや、め……どっちも……そんなの……」
けれど、抗う腕に力は入らない。
身体が熱くて、思考が霞んでいく。
自分が、誰に抱かれているのかもわからなくなるほどに――
「選べないなら……両方、だな」
神谷の声に、新庄も静かに頷いた。
「……構わない。だって、俺たちは“同じもの”を欲しがってるだけだから」
蓮の視界が滲む。
けれど、それを拭う手さえ、もう自分の意思じゃない。
(こんなの、おかしい……っ。なのに……)
熱くなっていく身体の奥。
どちらにも奪われながら、心だけがどうしても叫んでいた。
「……お願い、壊さないで……っ」
けれど、その願いすら、ふたりには届かなかった。
乱れた制服。浅く息をする喉。
脱げかけたネクタイを引き戻すようにして、神谷が蓮を壁に押しつける。
「なあ会長、もうさ……誰に抱かれても変わらないって、気づいたろ?」
「……っ、そんな、こと……!」
否定する声は震えていた。
けれど、その身体は――神谷の指が触れた場所で、小さく反応してしまっていた。
「ほらな。じゃあ、もう俺にしとけよ。……いや、俺らに」
後ろから、新庄の手がそっと蓮の腰に触れる。
どこまでも静かで、けれど逃さない執着。
「逃げようとすればするほど、深みに嵌る。……自分でも気づいてるはずだ」
「こんなの……僕は……っ、壊れちゃう……」
「いいじゃん、壊してやるよ。俺とアイツで、な?」
神谷がいたずらっぽく笑うと、
新庄も無言で蓮の耳元に口を寄せた。
「会長。壊れてもいいから、俺たちのものになって」
「っ……」
息が止まりそうになる。
瞳が潤み、涙が滲む。
だけど――それでも、蓮は逃げなかった。
いや、もう逃げられなかった。
欲望の中で溺れるように。
どちらかを選ぶことすら、奪われて。
身体も心も、すでに――
「……っ、もう、好きにして……」
その声が聞こえた瞬間、
神谷と新庄は視線を交わし、同時に微笑んだ。
「じゃあ遠慮なく、俺たちで可愛がってやるよ」
「……朝まで、お前がどっちに泣くか、試させてもらう」
そして、夜はまだ終わらなかった。
「……っ、もう、やめて……」
かすれた声が、静かな部屋に落ちる。
抱きしめる手の中で、蓮の身体が小さく震えていた。
神谷も新庄も、動きを止める。
「お前、限界か?」
神谷が低く聞けば、蓮はこくりと小さく頷いた。
涙が一筋、頬を伝う。
「……壊れる前に、ちゃんと……僕が、決めないといけない」
長い沈黙が流れた。
蓮は、ゆっくりと身体を起こし、二人を見比べる。
どちらも、自分を見つめていた。
だけど――
「……俺じゃ、ないんだな」
先に気づいたのは、新庄だった。
いつも冷静だった男が、わずかに目を伏せた。
「……ごめん」
蓮の声は、小さく震えていた。
けれど、その瞳はしっかりと、もう一人――神谷を見ていた。
「お前、ほんと最低だよな」
「は?なんだよ急に」
「でも……誰よりも、俺をちゃんと見てくれてた」
「……」
「ずるいよ。なのに、ちゃんと“好き”って言わせるようなことばっかして……」
唇が触れる。
短くて、ぎこちないキス。
だけど、それは確かに「選んだ証」だった。
「……やっと俺のもんになったな」
神谷が、そっと笑う。
その目の奥にあるのは、初めて見せた“安堵”だった。
新庄は何も言わなかった。
ただ静かに席を立ち、ドアの方へと歩き出す。
「……俺の負けだな。けど、会長」
「……っ」
「泣かされるような恋したら、また俺のとこに来い」
静かな声とともに、ドアが閉まる。
そして、二人きりの空間に残されたのは――
「……やっと、ひとりになれた」
「違ぇよ。俺とお前で、やっと“ふたり”になれたんだろ?」
そう言って、神谷は蓮をもう一度抱きしめた。
(ああ、もう……戻れないんだ)
だけどそれでいい。
壊されて、奪われて、
その上で――選んだのは、君だった。
優しく触れられるたびに、心も身体も「神谷」に染まっていく。
逃げる理由も、もうどこにもなかった。
「……俺のもんになれ、全部」
「うん、……なってるよ、もう」