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欲しい欲しいを前面に出して頑張っていたコユキに対して無情な言葉が浴びせられる、一方の主役頼光(よりみつ)、ライコーその人の声で……


「残念であるが、そなたに与えられる聖遺物は、無い!」


「えっ?」


「その代わり、麿(まろ)自身をそなたに委(ゆだ)ねよう…… ほらよ!」


コロン!


画像

僅か(わずか)に開かれたお堂、社の入り口から転がり出した一振りの刀、鞘(さや)に書いてある文字は、『鬼切り丸』と記されていた。


思いもよらぬ時短的な顛末(てんまつ)に、さしものコユキも思わず唸るのであった。


「えぇーっと、これって? どういう……」


頭の中に、あの、ライコーっぽい声が響くのであった。


『真なる聖女、コユキよ! 麿、この身自身をそなたに託す、さぁ、約束の時は来たのだ! 思う存分役目を果たして見せよう!』


コユキは言った。


「ん? ああ、そうなのん? んじゃあ行こっか! 取り敢えずオンドレとバックルの待ってる場所に戻んなきゃね! それで良いのん? ライコー様?」


無邪気なコユキの問い掛けに、今迄に無い強い口調で答える頼光。


『駄目じゃろ! そこは! 麿の祠(ほこら)に向かって右側に細道があるでごじゃる! そこを進めよ、恐れずに! その先には、綱(つな)が居るのでごじゃる!』


はっきり言われてしまったし、次のクラック、渡辺(わたなべの)綱(つな)が待っているとまで言われてしまっては、コユキに否は無かった…… 何より今の所お腹は膨れていたのだから……


故にムードに流されて言ってしまったのであった。


「そっか迷わず行くか? 行けば分かるか! ありがとぉぅ! って事ね! んじゃぁ、これからヨロシクね、ライコー様!」


『ん、あ、ああ…… そうだな…… そうであろうな、す、すまぬ……』


「? ……んじゃあ、右に向かうわよ? 綱さんだよね? 向かうわよ?」


『あ、ああ、頼む……』


「?」


コユキは頼光が身を変じた『鬼切り丸』を携えて指し示された目的地、渡辺(わたなべの)綱(つな)、そのアーティファクトの在り場へ歩を進めて行くのであった。


何故だか気まずそうな雰囲気を言葉の節々に感じたコユキではあったが、悪魔退治のパイセンでもあるライコーの指示通り、右に見えた細道に入ってすぐ、後ろから何かが崩れるような大きな音、轟音が響くと驚いて今来た道を振り返るのであった。


「えっ! 嘘?」


振り向いたコユキが目にした物は、先程まで頼光がいたシンプルながらも巨大な社がガラガラと崩れ落ちる姿であった。


コユキは手に持った『鬼切り丸』、源頼光に視線を移して聞くのであった。


「ライコー様ん家(ち)壊れちゃったわよ、連れ出したのがヤバかったんじゃないの? どうしようか、困っちまったわね……」


少なからずパニクったコユキの脳内に落ち着き払ったライコーの声が響く。


『いや、心配ない、麿自身が後始末に壊しただけじゃからのぅ、それに最早ここに戻る事もあるまいて…… さあ、綱の|祠《ほこら》へ急ごうではないか』


「……そうなの? 分かったわ、んでも何か勿体無かったわね」


再びテクテク歩き出したコユキの呟きに『鬼切り丸』のライコーは説明を続けるのである。


「形ある者はやがて失われる運命(さだめ)じゃよ、惜しむなとは言わんが過ぎた執着はいかんぞぃ、これは因果に於(お)いても同様の事じゃ、己の為した善行が自分自身に返ってこない事など当然の様にそこらで目にし、また皆が経験している事じゃろう? だが一切皆空(いっさいかいくう)の世界じゃからこそ、自分に返らなかった功徳(くどく)は衆生回向(しゅじょうえこう)、つまり他者に還元されて多くの者達を極楽浄土へ誘う事になる、よいか聖女コユキよ、自分の運命に絶望する事無く与えられた役目を果たすのじゃぞ、衆生回向じゃぞぃ、なに、神も仏もぬかりは無い、残酷な仕打ちであってもそれが答えだと嘆息(たんそく)すること無かれじゃ! たとえ幾星霜(いくせいそう)経た後であっても、そなたの善行は必ず自身にも返って来る物だと信じて居れよ、努々(ゆめゆめ)、忘れてはならぬぞぇ? よいな」


コユキが難しそうな顔を浮かべたまま、それでも頷いて言葉を返すのであった。


「難しくてよく分かんないけど…… 兎に角あれよね? 苦しかったり嫌な選択を選ばなきゃならない場面に直面したら、えっと衆生だっけ? 皆にタバコを分ければ良いんでしょ? んでもエコーは最早シガレットじゃなくて葉巻になっちゃってるのよね、大丈夫かな、エコー・シガーでも?」


「え? えっと…… あー、ソウダネ、イインジャナイ…………」


良かった葉巻タイプでも良いようだ、良かった良かった。

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