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『ロウェルの森』にて決戦の火蓋が切って落とされた。獣王ガロンの檄を受けて突撃を開始した獣人達に、リナ率いるエルフ達が容赦なく矢の雨を降らせる。
「がっ!?」
「小癪な!」
矢を受けた獣人は倒れるものも居るが大半はタフな肉体を活かしてそのまま突撃を継続する。
「お嬢様をお救いするのだ!前へ!」
双方の間に取り残されたマリア達を救うべく教会一団も前進を開始。逃れてきたマリア達を速やかに回収して、死霊騎士達が横隊で大楯を構える。
そこへ獣人達が勢いを乗せたままぶつかり、陣形を乱す。
「耐えよ!耐えよ!」
「お嬢様!こっちへ!」
「準備は良いかーっ!!」
「オゥッ!!!!」
ゼピスが鼓舞し、ダンバートがマリアを後方に下げてロイスがゴブリン、オーク達に檄を飛ばす。
「絶え間なく矢の雨を降らせるのです。怯ませるだけでも効果はあります」
「放てーっ!!放てーっ!!」
そして死霊騎士の壁を越えられない獣人達に容赦なく矢の雨が降り注ぎ彼らを傷つけていく。
「伏せよ!伏せよーっ!」
頃合いと見たゼピスの号令で死霊騎士達が一斉に身を屈め。
「殺せーっ!!」
ロイスの号令により力自慢のオーク達が一斉に手槍を投げ付けて獣人達を殺傷していく。それはまるで熊獣人との戦いを彷彿とさせる光景であった。だが、今回はそう簡単にはいかなかった。
「小癪真似をしてくれたな!手緩いわぁあっ!!!」
一緒に突撃していた獣人ガロンがその巨体を活かして手斧を振り抜くと、死霊騎士数体を大楯ごと吹き飛ばしてしまう。
「我が君が道を切り開いたぞ!乗り込めーっ!!」
獣人達は獣王ガロンが切り開いた隙間から陣の内側へ侵入。待ち構えていたオーク、ゴブリン達と乱戦になる。
「退路を断て!支援に徹するんだ!」
ダンバートの指示で上空に待機していたグリフィンやワイバーン達が降下して獣人達へブレスを放つ。
だが乱戦に持ち込まれて有効な支援は行えずにいた。
「リナさん達は掩護射撃を継続。私は獣王の首を取ってきます」
「代表!?それだと誤射の危険が!」
「リナさん達の腕を信じていますよ。ベル、ルイ。さっさと終わらせて家に帰りますよ」
「おう」
「だな、やることがたくさんあるんだ!」
ベルモンドが大剣、ルイスが槍を握る。そしてシャーリィは腰に下げた勇者の剣を静かに手に取った。
「輝けぇ!!!」
シャーリィが魔力を込めると光り輝く光の刃が現れ、周囲を明るく照らす。
「二度とスタンピードなど起こさせません!ここで決着をつける!続け!」
シャーリィを戦闘に三人が走りだし、そして獣人達の隊列を背後から強襲した。
一方後方へ逃がされたマリアだったが、シャーリィが斬り込むのを見て眉を潜めた。
「ダンバート、私も行ってくるわ。皆を連れてきたのは私。護られてばかりじゃ嫌だから」
「気を付けてよ、お嬢様。無理と、手加減をしないようにね?」
「善処します」
天秤を象った杖を天に掲げるマリア。そして自分の魔力を杖に流し込むと、杖は禍々しい闇を纏った漆黒の刃を持つ剣に形を変える。
「どう見ても聖女の武器には見えないよねぇ。魔王様の剣だよ、それ」
ダンバートが笑顔で感想を口にすると、マリアも恥ずかしそうに目を背ける。
「言わないで、自覚してるんだから!シャーリィに負けるわけにはいかない!」
そして彼女もまた最前線へと飛び込む。
その最中、シャーリィとマリアの視線が交差する。互いに不快感を覚え、全く同時にそれぞれの剣を肥大化させながら大きく振りかぶる。
それを見たゼピスが大声で号令を発した。
「伏せよ!伏せよーっ!!我に従うものは伏せよーっ!!」
「しゃがめしゃがめーっ!!早くしろ!」
意図を察したロイスもさけび、教会一団は一斉にその場に伏せる。
その瞬間、シャーリィとマリアが同時に叫んだ。
「閃光!」
「黒炎!」
「「一閃っ!!!!!!」」
前後から同時に振るわれた巨大な光の刃と闇の刃は文字通り獣人達を薙ぎ払い、シャーリィの刃は触れたものを光の粒子に変えて消し去り、マリアの刃を受けたものは真っ黒な炎に包まれて瞬く間に灰と化した。
あまりにも無慈悲な攻撃は五十以上の獣人を瞬時に消滅させ、残された獣人達に激しい動揺を走らせた。
なにより動揺したのは、獣王ガロンである。
「今のは、勇者と魔王!?」
それはかつて自分を封印した忌まわしい勇者と、最後まで自分達の邪魔をした魔王の力であった。
千年の時を経て再び自分の野望を阻むように現れた因縁の存在に、獣王ガロンは強い戦慄と激しい怒りを覚えた。だが、それが彼の判断を鈍らせる。
「下がれ!下がれーっ!!」
「考えるな!下がれーっ!!」
ゼピスとロイスの号令により魔族や魔物達は乱戦を切り上げて一気に下がる。呆然としていた獣人達はそれに対して反応が遅れ、その場に取り残されることとなった。そして、それが彼らの運命を決めた。
「っ!?いかんっ!散開しろ!散らばるのだ!」
再び集束する莫大な魔力を察知した獣王ガロンは慌てて指示を飛ばすが、半ば混乱している獣人達はとっさに動けなかった。そして、シャーリィとマリアはそれを待つほど甘くもなかった。
シャーリィの持つ勇者の剣が帯電し、マリアの持つ魔王の剣が漆黒の炎を纏う。
「サンダーレイ!!」
「吹き荒れよ!ストーム!」
勇者の剣から放た稲妻が獣人達に襲いかかりその動きを止め、そして魔王の剣から放たれた炎の旋風が感電して身動きを封じられた獣人達を飲み込む。
それはこれまでの戦いや経験、ここの実力を無視した無慈悲な暴力の結果。二人の意図せぬコンビネーションにより命を落とした獣人は先ほども含めて百名を越えた。
「なんと見事な!」
その力を見てゼピスは感嘆の声をあげるが、本人達は極めて不満そうな様子を見せた。
「戦果を横取りですか。流石はフロウベル侯爵のご息女、貞操がない」
「自分の力量不足を他人のせいにしないで貰えない?ひねくれ者ね」
「は?」
「なによ?」
「何だか知らねぇがチャンスだ!」
「仲間の仇だーっ!!」
互いに睨み合う二人。明らかに険悪な二人を見てチャンスと感じた獣人八名が、彼女達に飛び掛かる。
「「邪魔っ!!」」
「うぐぉっ!」
「ぉっ…!?」
二人が同時に剣を振るい、彼らは跡形もなく消し去られた。しかしこれが二人を苛立たせる。
「余所見をしているから狙われるんですよ?マリア」
「それは貴女のことじゃないの?シャーリィ」
また睨み合う二人を見て獣人達は戦慄。
「お嬢に良い友達が出来たな。こりゃ張り合うことになりそうだ」
「いや、友達か?あれ。どう見ても最悪なんだが」
「相性は最悪だろうな。けど、良いじゃねぇか。ようやくお嬢に張り合える奴が出来たってことさ」
ベルモンドはマリアの出現を歓迎し、そんなベルモンドに首をかしげるルイス。
言い合いながら獣人を次々と打ち倒していく二人を様々な者が見つめる中、『ロウェルの森』での戦いは終局を迎えつつあった。