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#高校生
第66話 「手紙」
2022年8月。
甲子園出発前日。
柳城高校野球部は最終調整を終えていた。
明日には甲子園へ向かう。
選手たちはそれぞれの時間を過ごしていた。
塁と史陽も久しぶりに早めの帰宅となった。
玄関を開ける。
「ただいま」
すると。
「おかえり」
聞き慣れた声がした。
リビングにいたのは舞だった。
二人は驚く。
「舞先輩!?」
舞が笑う。
「先輩はやめなさい」
春に卒業した舞は、福岡市内の教育学部へ進学していた。
教師を目指している。
今は夏休み。
久しぶりに柳城へ顔を出していた。
「甲子園出場おめでとう」
舞が言う。
塁と史陽は照れくさそうに頭をかく。
「ありがとうございます」
「春に優勝したのに、また来るんだからすごいよね」
舞は本当に嬉しそうだった。
マネージャー時代。
甲子園準優勝を経験した。
あの悔しさも。
センバツ優勝の喜びも。
全部知っている。
夕食後。
三人は縁側に座っていた。
夏の夜風が心地よい。
しばらく他愛のない話をする。
大学の話。
授業の話。
野球部の後輩の話。
笑い声が絶えなかった。
やがて。
舞が少し真面目な顔になる。
「緊張してる?」
塁と史陽は顔を見合わせる。
そして笑った。
「少し」
「結構」
答えが違った。
舞は吹き出す。
「どっちなのよ」
三人で笑う。
すると舞が言った。
「でも、それでいいと思う」
二人が舞を見る。
「緊張しなくなったら成長も止まるって、前に福間監督が言ってた」
塁が笑う。
「監督らしいな」
史陽も頷いた。
しばらく沈黙。
遠くで蝉が鳴いている。
すると舞が鞄を開いた。
中から封筒を取り出す。
「そうだ」
「これ預かってた」
塁が首を傾げる。
「何?」
舞は封筒を差し出した。
表にはこう書かれていた。
『塁へ 史陽へ』
見慣れた字だった。
二人ともすぐ分かった。
「兄ちゃん?」
舞が頷く。
「啓介先輩から」
東京から届いた手紙だった。
「甲子園前に渡してほしいって」
塁と史陽は顔を見合わせる。
舞は微笑んだ。
「中身は見てないよ」
二人は静かに封筒を受け取る。
その重さは。
紙一枚のはずなのに。
不思議と重く感じた。
夏の夜。
甲子園出発前日。
兄からの手紙が。
静かに二人の手の中にあった。
第67話 終
コメント
1件
塁と史陽の成長を舞先輩が優しく見守る感じがじんわりきましたね。「緊張してる?」の問いかけに「少し」と「結構」で答えが違うところ、思わず笑っちゃいました。そしてラストの兄からの手紙。紙一枚なのに重く感じるって描写、すごく胸に響きました。甲子園前の静かな夜の空気感が伝わってきて、次が気になります!