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#高校生
第67話 「兄からの言葉」
2022年8月。
甲子園出発の日。
柳城高校野球部は早朝から学校に集合していた。
保護者。
在校生。
地域の人たち。
多くの人が見送りに来ている。
「頑張れー!」
「日本一ばい!」
声援が飛ぶ。
選手たちはバスに乗り込む。
そして博多駅へ。
夏の甲子園。
再び夢舞台への挑戦が始まった。
ホームには報道陣も集まっていた。
センバツ王者。
春夏連覇を狙う柳城高校。
注目度は高かった。
やがて。
新幹線がホームに滑り込む。
選手たちは乗車する。
窓の外では見送りの人々が手を振っていた。
列車がゆっくり動き出す。
福岡の街並みが遠ざかっていった。
車内。
選手たちは思い思いに過ごしていた。
景色を見る者。
眠る者。
仲間と話す者。
その中で。
塁と史陽は隣同士の席に座っていた。
しばらく無言。
すると塁が鞄を開く。
一通の封筒を取り出した。
昨日。
舞から渡された手紙だった。
史陽も黙って見る。
塁が封を開く。
二人はもう一度読み始めた。
そこには啓介らしい字が並んでいた。
『甲子園出場おめでとう。』
『たぶん今のお前たちは、優勝したいとか、負けたくないとか、色んなことを考えとると思う。』
『でもな。』
『甲子園は楽しんだ者勝ちや。』
『俺は最後までそれができんかった。』
『勝ちたい気持ちが強すぎて、周りが見えんかった。』
『だから今でも少し後悔しとる。』
窓の外を新幹線が走る。
二人は黙って読み続ける。
『塁。』
『お前は背負い込みすぎる。』
『マウンドに立ったら仲間を信じろ。』
『史陽。』
『お前は一人で何でも抱え込むな。』
『たまには誰かに頼れ。』
そして最後。
短い一文があった。
『兄ちゃんは、お前たちを誇りに思う。』
それだけだった。
塁は何も言わない。
史陽も何も言わない。
しばらく車内の音だけが聞こえる。
やがて。
塁がそっと手紙を折りたたむ。
史陽も頷く。
二人は封筒へ戻した。
言葉はいらなかった。
兄が何を伝えたかったのか。
十分に分かっていた。
塁は窓の外を見る。
流れていく景色。
史陽も同じ方向を見る。
そして。
二人は手紙を鞄へしまった。
大切なものをしまうように。
静かに。
丁寧に。
新幹線は西へ向かう。
その先にあるのは甲子園。
歓喜か。
悔しさか。
まだ誰にも分からない。
ただ一つ分かることがあった。
兄から受け取った言葉を胸に。
二人は再び甲子園へ向かっていた。
第68話 終
コメント
1件
天海カオルさん、第68話読みました。 甲子園に向かう新幹線の中で、塁と史陽が兄・啓介からの手紙を二人で黙って読むシーン、すごくじんわりきました。もういない人の言葉が、今の彼らにちゃんと届いてる感じ。「楽しんだ者勝ち」「背負い込みすぎるな」「一人で抱え込むな」――全部核心を突いてて。何より「誇りに思う」の一文が、優しすぎて泣きそうになりました。 言葉がいらない二人の関係性も、この話の空気感も大好きです。続きも大事に読みます🌙